第4話

弟の翔人しょうとは優しいやつだった。困っている人を見かけるとついつい手を差し伸べてしまうくらい優しかった。

そんな翔人は手を差し伸べた一人の女性に恋をした。彼女は彩翔あやかと名乗る目が見えない女性だった。道に迷っていた彩翔さんを翔人が見かけて助けて恋に落ちるというベタな展開だったが兄の俺はそんな弟を密かに応援していた。

だから二人が結婚をすると言ったときには素直に祝福をした。しかし、ほかの親戚の人には良く思わない人が多かった。彩翔さんが全盲だったから、ただそれだけの理由で結婚をやめさせようとした。

そんな時に親戚の集まりがあった。翔人は彩翔さんも家族になるからと言って連れて来ていた。

「目が見えないなんて、そんなことで家の事ができるわけないでしょ。家事がある程度下手でもせめて健康な人にしなさいよ」

少し離れた親戚がそんなことを言った瞬間、俺の中で何かが弾けた。

「ふざけっ…」

俺の怒鳴り声を遮るようにもう一つの声が響いた。

「僕が結婚する人は僕が決める!彼女はあなたとは違って目は見えないけど、あなたよりもよっぽど素敵だ!」

そう怒鳴って翔人は彩翔さんの手を引いて家を飛び出した。

それから数日後に翔人から電話がかかってきた。

内容はプロポーズ成功の連絡と妊娠したという報告だった。

ちょうど俺が結婚した年で翔人は結婚した。幸せそうな二人を見ているとこちらまで嬉しくなった。

やがて子供が生まれた。二人は子供にかけると名付けて大層かわいがっていた。子供ができない俺たち夫婦もよくかわいがった。

そんな幸せな日々を送っていた弟の人生は突然終わってしまった。

翔が一歳になる少し前に車で旅行に行くと翔人が言った。家族でゆっくりしてこいと俺は送り出したが翔人と彩翔さんは帰ってこなかった。

翔人の運転していた車が事故にあったのだ。翔人と彩翔さんは即死、彩翔さんが守ってくれたお陰で翔はなんとか生きていた。

二人の葬式で翔をどうするか親戚で話し合った。親戚の誰かが引き取るという話だったが、誰も引き取ろうとはしなかった。理由は簡単で彩翔さんの障がいが翔に遺伝しているのではと思ったからだ。

周囲で翔を押し付けあっている奴らに俺は静かに言った。

「俺が引き取る。それでいいか?」

周囲が静まり返ってこちらを見た。俺はもう一度言った。

「俺が翔を育てる。大事な弟の子供だ。お前らみたいなやつには任せられん」

そうして翔は俺たち夫婦で育てることになった。

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