魔女の日記帳

九十九 那月

まじょ

 実に唐突な話だけど、私は魔女なのだ。


 齢十と少し。素敵な師匠に出会って、気づくと魔法が使えるようになっていた。

 難しいことはわからないけど、とにかく使えることには使えるのだ。鼻高々である。えっへん。


 そんな私なので、時折周囲に魔法のことを自慢する。魔法が使えるんだぞ、どうだすごいだろ、と。


 この前近所の子供たちにそのことを話したら、「見せて見せて!」とせがまれたので、お望み通り見せてあげた。

 落ちていた枝を一本拾って、枯れ木ならぬ枯れ枝に花を咲かせましょう、と。

 というわけで、咲いた。


 ……のだけどあいつらときたら、「なんだその程度か、つまんねぇの」と言って散って行ってしまった。

 まったく、最近の子供と言うのはサービス精神がない。でもサービス精神に溢れた子供というのもそれはそれで怖いからこれで良いのかもしれない。


 誰もいなくなった後で、私は一人、そっと枝に息を吹き掛けた。するとそれはするするとほどけ、きらきらと輝くマナに還元されて空気中に戻っていった。

 魔女は自然を大事にしなきゃいけない。魔法を使い終わったあとはちゃんと自然に還してあげるんだよ、とは師匠の言。


 修行中の私は、どっちかと言えばこの分解の方がよっぽど魔法っぽいよなぁ、なんて思っていた記憶がある。じゃぁここまで見せてあげればいいのに、と思うだろうけど、魔法を見せると言った以上は魔法を見せなきゃいけない。

 魔女は嘘をついちゃいけないのだ、というのも師匠の言葉。

 なんか受け売りばっかだな、なんて思うけれど、だって私には難しいことはわからないのだから仕方がない。

 昔師匠にそう言ったら、なんだか頭が痛そうな顔をしていたような気がしたけど、きっと気のせいだろう。


 ふと思い立って、目の前でまだふわふわと漂っていたマナを少し捕まえて、魔力を込めてそっと周囲に吹き散らす。

 それから優雅に一礼。魔法に協力してくれてありがとう、元気に育ってね、と。

 そして踵を返した私は、じゃぁお昼寝でもしようかな、と思って家路についた。


 ……のだけど。


 後日、公園中の桜が季節外れにも満開になったと、ちょっとした騒ぎになった。

 完全に祈りを込めすぎた。こういうところで私はポンコツなんだよなぁ、と思いながら、私は夜中にひっそりと、花たちを空に還したのだった。

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