第5話 これは真実の愛

「私と結梨ゆうりが、恋人……」


「うん。信じられないかもしれないけど、本当なの。今まで隠しててごめんね」


 林檎を食べる手が止まる。

 あやは戸惑いながら、心の中を探るように右手を胸に添えた。


「……今まで隠してたのは、いきなり話しても信じてもらえないと思ってたから。

 でも本当なの。私は絢が好きで、絢も私のことが好きだったの」


 私たちは恋人なの、と再び念を押すように言う。

 絢は申し訳なさそうに目を伏せてから、顔を上げた。


「ご、ごめんね。私、全然思い出せなくて、私っ」


「落ち着いて、絢。大丈夫だから。急に言われてびっくりしたよね。ごめん」


 私はそっと絢の手を取って、優しく包むように握ってあげる。

 絢は一瞬びくりとしたが、意識して反応を殺したように手を私に委ねた。


「わ、私たち……その、いつから?」


 付き合ってたの? とおっかなびっくり訊ねる絢の姿もまた可愛らしかった。


「高校一年生のときだよ。春ごろに、お互いの気持ちに気付いたの」


 握った絢の手がみるみる熱くなっていく。

 よくみれば絢の頬には林檎のように赤く染まっていた。


「絢、好きだよ」


 言えないと諦めていた言葉がスラスラと口から流れ出てくる。

 まるで、ダムが決壊したように。


「絢も、私のこと好き?」


「ご……ごめん。そうとは知らなくて……私、全然思い出せなくて……」


「そっか。いいよ、ゆっくりで」


 顔が火照っている絢はとても可愛い。

 あまり話しすぎてもボロを出してしまう可能性がある。今日はもう帰ろう。


「今日はもう帰るね。明日、また来るから」


「あ……うん……」


「絢、好きだよ」


「…………うん」


 そうして、私は病室を後にした。





 幸せだ。

 想いを伝えられるというのが、こんなにも嬉しくて、幸せだとは思わなかった。

 表情の緩みを直すことができない。きっと今鏡を見たら、終始ニヤついている女子高生の姿が映るだろう。

 まるで幸福の風呂に浸かっているようだ。


「…………」


 嘘をついた。

 でもいい。この幸福を守る為に、私は嘘を真実に変えてみせよう。

 絢を本気で私に惚れさせる。記憶が戻っても、私を好きになったという事実があればきっと、あの子は私を選ぶはずだ。


「その為にも……」


 出来ることは全部しよう。

 やれる事はなりふり構わず実行してみせよう。


 絢が記憶を取り戻すまでに。

 本当の恋人になってみせる。

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