4 hearts ~記憶の栞~

美澄 そら

プロローグ

探しものは奇跡。


 住宅街の外れにひっそりと佇む小さな神社の片隅で、男はしゃがみこんで足元に生い茂る草葉を掻き分けていた。

 かれこれ一時間になるだろうか。木陰にいるとはいえ、逆上せそうなくらい蒸し暑い。

 額から流れてきた汗が、顎を伝って彼の足元へと落ちていく。


「見つからないなぁ……」


 ぼそり、と独り言を呟いたつもりだった。

 頭上で御神木のケヤキの枝葉が、風で揺れる。

 少しだけ顔を上げて、葉の隙間から青空を仰ぎ見た。

 自分のところにも風は来ないだろうか。

 この火照りを少しでも静められたら、と思うけれど、風は葉を揺らすだけでどこかへと去ってしまった。

 またじわりと暑さが立ち込める。

 仕方ない。頬の汗を手の甲で拭った。


 ――もう少しだけ、頑張るか。


 もう一度、足元へと視線を落とす。

 顔には疲労と、少しだけ失望の色が浮かんでいた。



「これを探してるの?」



 白い腕が横からひょっと伸びてきて、思わず固まった。

 柔らかそうな白い腕の持ち主は、真っ赤なランドセルを背負った、昔懐かしいおかっぱの少女だった。

 さっきまで、境内には誰もいなかったようだが、いつの間に現れたのだろうか。

 それとも、ただ集中していて気付かなかったのだろうか。

 少女が摘み取った四つ葉のクローバーにハッとさせられる。

 汗だくになりながら、今の今まで探していたそれを、彼女は容易く見つけて手にしている。


「……そう。それを探していたんだ」

「お兄さんにあげる」

「ううん。これは君が見つけたものだから君が持っていて。知ってる? 四つ葉のクローバーは幸運のお守りなんだよ」

「幸運のお守り?」

「そう」


 少女はクローバーを愛おしそうに両手で包むと「ありがとう」と頬を林檎のように染めて笑った。


「わたしも、お兄さんにいいものあげるね」

「いいもの?」

「うん。わたしはね、探し物の神様なの」


 少女はグレーのプリーツスカートのポケットに手を突っ込み、彼へと握り拳を差し出した。

 両手で皿のようにして受け取る。

 なんの変哲もない木片、だった。



「お兄さんの本当の探し物が見つかりますように」



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