第20話 魔族討伐・洞窟潜入

 洞窟へと向かう事を決めた一同。


 ケガ人達を一旦、森の奥へと移動し、鉄剣の制裁のメンバー、二人を見張りとして残した。

 戦力が落ちるのは痛かったが、ケガ人を放って置いて死なれては困るとなったためだ。

 そして皆が持っていた治療薬や、魔力回復薬を使い、準備を整え、洞窟へと向かっていた。


 しばらく歩いて行くと、瘴気が濃くなっていく。

 周辺には、ヴェルビチア群生地もあったとの事だったが、今は全く生えていなかった。

 そして洞窟が見えてくる。


「あそこだよ。」


 高さ8メートル程の、大きな洞窟。

 入り口から、禍々しいオーラを解き放ち、何よりその周辺は瘴気が最も濃く、異常なまでに魔素が集まっていた。

 ジェフリー曰く、そこには魔法の障壁があり、これを崩さなければ入れないと言う話だった。


「障壁を壊すのは、簡単なんだけどね。」


 バレないように、壊す事は不可能だったが、今回は洞窟内の魔族を討伐するのだ。

 バレる心配はいらず、思い切り壊せるとの事だった。


 洞窟に入ると、すぐ大きな扉があった。

 どうやらこれに、障壁が張られているらしい。

 ジェフリーは扉の前に立ち、ぼそぼそと何か呟く。

 するとジェフリーの足元から生えた木が、地面を伝わり、扉へと伝わっていく。

 扉にじわりじわりと侵食していき、それが全体に行き渡った時、その大きな扉は、一気に光り割れる。

 どうやら内側に魔法陣が描かれ、魔力が含む攻撃を防いでいたらしいのだが、精霊術は魔力を用いないため、普通の大きな扉を壊しているのとあまり大差がないとの事だった。


「この先か……。明かりがあるぞ……?」


 扉を開けると、先へと通路の様に道が続いてたのだが、不思議な事にその通路には、明かりがあった。

 純然たる魔族ならば、闇の中でも問題ないはずなのにも関わらずだ。

 これは魔族以外が、関わっている証拠だった。

 その通路を罠などがないか、ジェフリーを先頭に警戒しつつ進んでいく。


「敵の気配がないな……。」

「そうだね。これは、完全に待ち伏せされてるかもね。」


 グラントやジェフリーを始め、皆常に周りを警戒していたが、全く敵の気配がなかった。

 灯りがあるとはいえ、大きな洞窟の為、暗い箇所が多かった。

 ゆえにどこからでも、襲われてもすぐ対処ができるように、円の様になって歩いていたが、一向に来なかった。


 しばらく進むと、広い場所に出る。

 その広間は、今までと違い、青く光っていた。


「この部屋は、凄いねえ。」

「これは……魔晶石か……?」


 グラントは、その量に驚く。


「魔晶石って何?」

「魔晶石っていうのはね――」


 シリルが知らなかった為、ジェフリーが代わりに応えてくれる。

 魔晶石とは、魔石とは異なる。

 通常魔晶石は、魔素が濃い場所に、ずっと晒された石などの鉱物が変化したものだった。

 その部屋の魔晶石の量は、この洞窟内の魔素の量が異常な事を示していた。

 部屋一面が青くなるほど、魔晶石が輝いていたのだ。


「これは警戒した方がいいね。」


 その大きな広間の入り口で、全員が警戒態勢に入る。

 何が起こるか分からない為、すぐに察知できるジェフリーを先頭に、鉄剣の制裁四名、クレア達、無名三名、グラントの順で広間へと入ってく。

 広がりながら、周囲を警戒する。


「罠だ!!戻れ!!」


 ジェフリーが叫んだ。

 それと同時に、広間一杯に魔法陣が展開される。

 この広間の魔素が濃すぎたため、ジェフリーやアルマですら、魔法陣の感知が出来なかった。

 その叫び声に、グラントはすぐさま反応した。

 最後尾に居た為、通路へと戻ろうとしたが、魔法陣には、まるで壁のようなものが張られていて、出れなかった。

 そしてすぐさま、鉄の棒でその壁のようなものを攻撃する。

 しかし、透明な壁に弾かれる。


「クソッ!」

「一気にやるぞ!」


 ギデオンがそう言うと、鉄剣の制裁達が一斉に透明な壁へと切りかかる。

 魔法が付与された剣に、さらに魔法を重ね、一か所に同時に攻撃しようとしていた。

 しかしその攻撃は弾かれ、さらに鉄剣の制裁達は動揺していた。


「ま……魔法が発動しない……!?」


 彼等は攻撃しながら、魔法を発動しようとしたが、ただ剣の魔法が発動しただけで、自分達の魔法は発動しなかった。

 そしてグラントや無名な者達も同様、透明な壁を壊そうと、同じ様に一か所へ同時に攻撃しようとしたが、彼等もまた魔法が発動していなかった。

 ジェフリーはそれを見て、すぐさま精霊術を発動させ、地面に木の根を張らせ、魔法陣を破壊しようとしたが、それすら防がれてしまっていた。

 打つ手なしだった。


 シリルはその魔法陣の中心で、何もせず笑みを浮かべていた。

 これから何が起こるのか、再び見た事がない魔法が使われるのかと、楽しみだったのだ。

 だから、破壊する気がなかった。

 アルマとクレアは、そんなシリルを見てすぐそばで、警戒していた。

 そして次の瞬間、それぞれの足元に、別の魔法陣が現れた。


「くっそ!これすら壊れ――」

「こわれねえ!みんな――」


 グラントと鉄剣の制裁は、足元に現れた瞬間、すぐさま足元へと攻撃したが、その攻撃すら魔法陣は弾いていた。

 そしてその事を、皆に報告しようとした瞬間、全員がその広間から消えた。




 ジェフリーはたった一人、大広間にいた。

 そこは先程までとは違い、自然に出来た広間ではなく、人工的に作られた部屋だった。

 壁や床は綺麗な石が敷き詰められ、所々魔晶石が使われているようで、青い光を発していた。

 そして後ろには扉があり、反対の壁には、見た事もない模様の旗がかけられていた。

 そしてその手前に、見た事もない異形の者が立っていた。


「君は、魔族かい?見た事もないけど。」


 ジェフリーが冷静に問いかけた事により、異形の者は少し驚く。


「……ほう。意外と冷静ですね。」

「ここで慌てても、しょうがないからね。」

「だが、警戒は怠っていない……。ふむ、なかなか楽しめそうですね。」

「それで、君は何者?」

「申し遅れました。私は悪魔から進化した、……んーそうですね……【混沌悪魔カオスデビル】と名乗っておきましょう。」

「混沌悪魔……?悪魔から進化……?」


 魔物や魔獣は、長い年月をかけ、稀に進化する事がある。

 彼もそれは知っていた。

 進化すると、今までとは比べ物にならない程強くなる。

 それがただでさえ、強い悪魔が進化している。

 魔族の進化でさえ、聞いた事がなかったジェフリーは、驚愕していた。


「ええ。主のおかげでね。」

「主のおかげ……?」

「これ以上は、話す必要がないでしょう。では、死んでいただきます。精々足掻き、私を楽しませてください。」





 シリルとアルマ、そしてクレアの三人は、同じ場所に転送されていた。

 そこは部屋や広間ではなさそうだった。


「大丈夫か?シリル殿、アルマ殿。」

「うん!大丈夫!」

「問題ない。」

「これは転送魔法か?」


 アルマはクレアの疑問に、ああ、と短い返事で応える。


「転送魔法って何!?」

「ある地点に魔法陣を描き、違う点に目印をつけ、転移させるものだ。あのように大きなものは、なかなかお目にかかれないがな。」


 アルマはそうシリルに説明しながら、周囲の確認を行う。

 入口の通路と比べ、その通路は狭くなっている。

 天井も低く、アルマの通常サイズではギリギリだった。

 そのため、アルマは一旦小さくなっていた。

 そしてその細い通路は、左右に伸びていて、奥は曲がっており、両方とも先は全く見えなかった。


「ここはどこだろうな?」

「私も分からん。しかしここは、魔素の流れが異常だ。他の者達の魔力どころか、周辺も探れん。」

「全然掴めないね。とりあえずどっちに進む?」

「どうするか……。」


 そう言われ、悩むクレア。

 アルマとシリルすら、探知が出来ない状態で、自分達の場所も掴めない。

 どちらに進むべきか、分からなかった。


「あっちに行かない?あっちの方が明るそう。」

「確かにそうだな……。」

「ああ。」


 通路には魔晶石が、所々顔を出していた。

 そのおかげで明るさが確保されていたのだが、片方の道の先は、もっと明るいようだった。

 その為、魔晶石が多いだろうと予測が付く。

 先程の広間も、魔晶石が大量にあったので、どちらも目印がないなら、それでいいと考え、アルマとクレアは同意する。

 そしてシリルが進み始め、アルマとクレアがそれに続く。


 その狭い通路を先に進むと、通路に薄らと水が溜まっていた。

 魔晶石の近くは明るい為、その部分を見ると、大して深さはなさそうだったが、クレアは足を踏み出すのを警戒する。


「これは……普通の水か……?」

「普段ならある程度分かるが、魔晶石もあるせいで、私でもなんとも言えん。」

「とりあえず行こう。」

「入るのか!?」


 迷わず進もうとするシリルに驚く。

 しかしシリルは、水面から少し浮いていた。

 どうやら魔力を風に変換し、足から出しているようだった。

 アルマもそれに続こうとし、クレアを見る。


「クレア。魔法はどうだ?」

「使えないみたいだ……。」

「そうか……。分かった。乗れ。」


 この程度であれば、今までであれば歩けと言われてしまう事だろう。

 それが乗れと言われ、クレアは驚き、信頼されている事に、少し喜んだ。


「すまないアルマ殿。迷惑をかける。」

「ふん。手間のかかる女だ。だがシリルの保護者なら、死なれては困るからな。」

「アルマ素直じゃないねー。」

「……何がだ?」

「なんでもないー。」


 そう言い、一人笑顔で先へと進むシリル。

 アルマは少し眉間にしわを寄せていたが、大人しく進む。

 飛ばされた場所から、ずっと魔晶石があったが、シリルの読み通り、こちら側はどんどんとその量が増え、明るくなっていく。

 道はくねくねと曲がっていて、なかなか先の見通しがきかない。


「あ!なんかすごい明るいよ!」


 少し先に行っていたシリルが、一度止まりこちらを向いて声をあげた。

 アルマは少し早く歩き、シリルの傍へ行く。

 するとその先は、明るく光っていた。


「先程のような広間か。罠がありそうだ。」

「可能性はあるな。」

「行こ行こ!」


 シリルはぽんぽんと跳ねる様に、小走りになり、先に進む。

 アルマは、待て!と言うが、それを聞かず行ってしまった。

 アルマは慌てて、追いかける。

 シリルは悪魔と戦ってから、警戒心が少し薄れていた。

 新たなモノに出会いたくて、仕方がなく、魔法陣が発動した時も、シリルは何もしなかった程だ。

 アルマとクレアは、それに不安を覚える。


 どうやら、そこも広間になっているようで、入り口で警戒しようとするが、シリルは無警戒で入っていく。

 おい!と呟くが止まらず、仕方なくアルマもその広間へ入る。

 先程と同じような広間で、やはりここも魔晶石が大量にあった。

 しかしそれは、地面からだけではなく、天井からも生えていた。

 そして地面は未だ、水が張っていたが、やはり深さはないようで、何かが潜んでいる事はなさそうだった。

 水面を眺めていると、クレアがある事に気付く。


「シリル殿が水面に映っている……。」

「それがどうした?」

「先程まで、シリル殿の足から風が出ていて、水面がそこから波打っていたはずだが……。」


 それに気付きアルマも、自分の足元を見る。

 そこからは、水底に植物が生えているのが見える。

 アルマもシリルと一緒で、魔力を変換し、足から風を出していたが、水面が波打たず、水底が見えるのはおかしかった。

 この水には何かあると気付いた、アルマとクレア。

 すると水を歩く足音が、広間の奥の通路から聞こえて来る。


「何か来る……。」

「今度は何が起こるんだろー?」

「楽しみなのは分かるが、警戒は怠るなよ。」

「もちろん。」


 普段なら先手必勝のシリルとアルマが、今回は相手の姿が見えるまで、警戒していた。

 アルマは魔素の流れが乱れていて、探知が正確に行えず、足音の持ち主がどういった者か分からなかった為だった。

 しかしシリルは、それよりも次は何が起こるのか、楽しみにしていた。

 傍から見れば、無警戒の様に見えたが、クレアは後ろからシリルを見て関心する。

 シリルはいつでも一瞬で攻撃出来るよう、魔力を全身に巡らせていたからだ。

 興味はあるが、油断は絶対にしないのが、流石だなと思っていた。


 そして奥の通路から現れた者を見て、シリルが真っ先に声を上げた。


「俺だー!」

「擬態!」

「……普通の擬態じゃないぞ。」


 そこにいたのは、シリルだった。

 着ている服や仮面まで、同じだった。

 クレアはその見た目に驚いたが、アルマは見た目以外の、気配や魔力が一緒な事に驚く。

 擬態を得意とする魔獣はいるが、アルマは魔力やその気配から、見間違える事はなかった。

 しかし今見たシリルは、本物の声を上げたシリルがいなければ、分からないレベルだった。


 そして次の瞬間、二人がほぼ同時に突っ込む。

 二人共同時に、貫手に雷へと変換した魔力を込め攻撃する。

 お互いの攻撃がぶつかり合い、相殺されると、破裂音がし、お互い吹き飛ぶ。

 普段であれば、着地してすぐ攻撃に及ぶシリルが、目を丸くし、相手をじっと見ていた。

 そして偽物のシリルもまた、シリルをじっと見る。


「アルマあれって何?」

「私にも分からん。私がやるか?」

「ううん!大丈夫!多分強くないよ!」


 シリルが再び笑顔に戻り、いざ攻めようとした瞬間。

 アルマが飛び上がり、反転し、後ろの通路に炎を吐いた。

 叫び声と共に、一気に小悪魔達が攻めて来ていた。

 アルマ達が転送された後、歩き始めた方向とは逆の通路に、待機していたのだろう。

 そしてこの場所で、挟み撃ちをする気だったようだ。

 前からも小悪魔達が、飛びながら出現した。

 そしてそれを見たシリルが、突然叫ぶ。


「ああああ!!虫いいいい!!」

「【死針の蜂ディリテグラホーネット】か!」


 クレアは、その虫型魔族の名を叫んだ。

 小悪魔達と一緒に攻めて来たのは、死針の蜂と呼ばれる蜂型の魔族だ。

 人間の子供くらいのサイズがあり、蜂のような形をしているが、脚は四本で、かつまるで人間の手足の様に、前足は小さく、後ろ脚はでかい。

 大きな腹から、発射される毒針は、解毒薬が効かなく、必ず死ぬと言われている。

 出現報告は百年以上昔に、一度しか確認されていない。

 しかしその脅威により、世界に名前は知れ渡っていた。

 その原因は、死針の蜂の中でも特別に大きい、女王蜂の存在だった。

 女王蜂に刺された者は、死針の蜂に変化したという報告があったのだ。

 そして、その昔出現した際には、国が一つ滅んだと。

 それ故に女王蜂は、単体で危険度Bという魔獣ですらあまりいない、レベルに設定されていた。

 ここ百年以上は出現報告はなかったが、資料等に書かれていて、クレアは数少ない危険度Bという事で、よく覚えていた。


「女王蜂は、とりあえず見当たらないが……。」

「ああ。まあいても殺せばいい。」

「アルマ殿……。とにかく私も降りて、別れて戦おう。」


 アルマの意見に呆れつつ、降りようとするクレアを、尻尾でアルマは止める。


「降りるな。」

「な……なぜだ?」

「この空間の水は、魔力を吸っているようだ。」

「魔力を!?」


 アルマはこの水がどんな効果があるのか、気付いていた。

 それは小悪魔達が来た時、炎を吐いた瞬間、この広間の水面に当たった炎は、すぐさま消えていた。

 奥の通路までいった炎は、水面に当たっても問題なかったのだ。

 そして何より、この広間に入って来た死針の蜂、更に小悪魔達も水に足を浸けていなかった。

 水に足を浸けているのが、偽物のシリルだけだったのだ。

 どうやって魔法陣も無しに、水で魔力を吸収しているのかは不明だったが、魔法も使えず、水の上に立てないクレアが降りてしまうと、クレアの魔力が吸収され続ける可能性があり、戦えなくなってしまう。

 この先の事も考えると、魔法が使えないとはいえ、身体強化と魔法の剣を扱えるクレアは、十分な戦力だった。

 ゆえにここで、失う訳にはいかなかったのだ。


「説明する時間はない。とにかく私の上で戦え。」

「わ……わかった。」


 魔族達はこの広間に入ると、すぐには攻めて来ず、天井も含め全体に広がり、シリル達を囲う。

 アルマとシリルは、それに炎を撃つが、偽のシリルが同じように炎を撃ち、それを阻んだ。


「なかなか厳しいな……。」


 クレアはそう呟き、剣を握る力を強めた。

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