第17話 討伐隊

 一同は、クアガット西門を出た場所に集う。

 ハドリーから説明を受けて、二日が経っていた。

 その間に、魔族達には大きな動きがなかったのが幸いである。


「今回、魔族討伐隊の隊長を務めせて貰う、グラントだ!作戦指示や、連携を取りやすいように、各パーティのリーダーは挨拶してくれ。」


 グラントがそう言うと、大剣を持った男が、前に出る。


「まずは俺だな!俺は【ギデオン】だ!ランクCパーティ【鉄剣の制裁】のリーダーだ!うちのパーティは、全員ランクCだから、頼りにしてくれ!よろしく!」


 まるでグラントの、兄弟のように見えた。

 同じ様な体躯に、赤い髪、赤い瞳。

 さらに一緒にいる者達も、皆体躯のしっかりした、筋肉質な男ばかりだった。

 パーティ名の通り、皆剣を持っていた。


「じゃあ次は私ね。ランクCパーティ【魔女と仲間達】のリーダー、【アレグロ】よ。うちは全員Cってわけではないけど、チーム力は抜群よ。よろしくね。」


 髪が黒く、瞳は紫、スラリとした大人の女だった。

 服装も真っ黒で、とんがった帽子を被っている。

 そして長く、先に魔石で出来た球体のものが付いている杖を、持っていた。

 メンバーは皆それぞれ、槍や剣、盾と持っていて、彼女を補佐し、近距離から遠距離まで対応できそうなパーティだった。


「我々は、ランクCパーティ【騎乗戦士の一団】だ。我はリーダー【マーティー】だ。皆が、馬種の魔獣を使役している。だが、魔獣達がいなくても、強さに問題はない。」


 彼等がヘスティアの言っていた、ロキシ村の魔獣を退治したパーティだった。

 皆、しっかりとした鎧を着て、馬種の魔獣を横に従えていた。

 馬種は、魔獣の中ではマシと言われているが、それは人を嫌い、自らは姿を現さないからだ。

 だが一度遭遇すれば、必ず殺されるとさえ言われるほど、凶暴だ。

 足が速く、体は大きい者が多い為、それを全員が使役しているという事は、彼等の強さの証であった。

 特にリーダーが従えているのは、【鉄鎧馬アルカント・ホース】という危険度D+の魔獣だ。

 体躯は4メートルを超え、高い魔力に驚異的な足の速さと、危険な魔獣を従えていた。


「ランクD【無名】。リーダー、【カイト】。」


 彼等は、顔すら隠していた。

 メンバーも三人と少なく、皆黒装束を着て、武器も何を持っているかも分からない状態だった。

 皆、怪訝な顔で彼等を見ていた。


「い…以上か?……えと、私達はランクDパーティ【白金の翼】。私はクレアだ。こちらはシリル。その横にいる狼は、彼の使役魔獣だ。二人しかいないから、リーダーとかはないが、一応シリル殿は子供だから、何かあれば私に言ってくれ。」


 シリルが子供だという事に、少しざわつきは起こるがすぐに収まる。

 今回はグラントが選んで呼んだ者達であり、皆グラントを信頼しているため、変に突っかかったりとは起こらずに済んだ。


「では行くぞ!」



 街道を通り、森へと向かう一行。

 騎乗戦士の一団が使役魔獣で、荷台を引き、皆を森まで運んでくれることに。

 かなりのペースで進む、馬車。

 シリルとクレアだけ、アルマに乗っている。

 今まではクレアの事は嫌々乗せていたが、修業を通して認めたのか、今は嫌がる事なく乗せていた。


 クレアは、マーティー達を見る。

 彼等が、ロキシ村の魔獣達を倒したパーティだという事は、すぐに分かった。

 そして、彼等は悪くないと分かっているが、もし残っていれば村が助けられたのでは、と思ってしまう。

 それと同時に今彼等は、どういう気持ちなのだろうかと、見ていたのだ。

 しばらく走っていると、それに気付いたのか、マーティーが近付いてきた。


「貴公等が、ロキシ村の調査に行った者達か?」

「ああ。そうだ。」

「グラント殿から聞いた。大儀であったな。」

「は……?」

「なんだ?褒めているのだ。喜ぶがいい。」

「……どういう事だ?」

「わざわざ志願して、調査したのだろう?」

「そうだが…。」

「それにより、魔族が関わっている事が分かった。だから、褒めたのだが。」

「……分からない。」

「何故だ?」


 クレアは、彼が何を考えているのか、理解できなかった。

 何故こんなに偉そうなのか。

 何より村人に申し訳ないとは、思っていないのかと。

 ただ、マーティーのその態度に苛立ちを覚え、我慢できずにぶつけてしまう。


「あなたに聞きたい。あなた達が、魔獣を倒した後、ちゃんと調査していれば、村人が助かったかもしれないとは、思わないのか?村人達に申し訳ないと。」

「何故だ?我等の依頼は、魔獣を倒す事で、調査ではない。迅速に済ましたのだ。それと村が滅びた事は、関係ないだろう。」

「それでも、もし残っていれば、村人は滅びなかったのだぞ?」

「それは結果論であろう?確かに我等がいれば、滅びなかったかもしれない。だが彼等は、魔獣を討伐して欲しいと頼んできたのだ。何故それ以上残る必要がある?それならば、調査もしてほしいと頼めばよいだろう。」

「そ……そうだが。」

「だろう?故に我等が、申し訳ないと思う理由が見当たらないのだが。」


 それ以上は、何も言えなくなるクレア。

 確かに彼等の言っている事は、間違ってはいなかった。

 魔獣討伐の依頼を受け、その魔獣達を倒した。

 だが、どうしても腑に落ちなかった。

 もう少し残っていればと、調査をしていればと、そうすれば村人全員が、死ぬ事はなかったのではと思ってしまう。

 しかし、それは自分のエゴなのだと思い、それ以上喋る事を止める。



 そうこうしている内に、森が見えてくる。

 騎乗戦士の一団のおかげで、予定よりもかなり早く着く。

 ここからは徒歩になるため、皆馬車から降り、森へと向かう。

 今回は洞窟の中というわけで、馬種の魔獣達も役に立たず、逆に敵から発見されやすくなるだけだろうと、森の影に隠れて待つように伝えていた。

 森に入ると、皆警戒心を高める。

 ジェフリーからは、まだ報告は上がっていなかったが、どこに魔族や魔獣がいるか分からないからだ。


 森の魔物達は、こちらの気配に気付いていた。

 グラントやクレア達、アレグロに無名の者達は完全に気配を絶っていたが、他の者達は消し切れていなかった。

 ただそのおかげか、こちらの強さに気付き、魔物達は襲って来ることはなく、遠巻きに警戒しているようだった。

 そして周りに、ヴェルビチアが見当たらない事に気付く一同。

 どんどんと魔素も濃くなり、瘴気へと変わっていく。

 完全に日が落ち、皆警戒度を上げていると、かなり濃い瘴気の中、一人の男が現れた。


「グラント。こっちだよー。」

「ああ。ジェフリーか。」

「強い子達を、集められたみたいだね。でももう少し、気配を消せた方がいいと思うなー。離れてても、強い気配が近付いて来るの、分かっちゃった。」


 ジェフリーと呼ばれた男は、この濃い瘴気の中、緊張している風もなく、優しい口調で話しかけてきた。

 すまんなというグラントに、いいよと答える。

 彼がランクBの耳長族のジェフリーだと言うのは、一目見れば分かった。

 耳長族特有の、長い耳を持っていた。

 髪は白に近い金色、瞳は黄色、身長はクレアと大差がないようだったが、この者が強いのは一目で分かった。

 隙が無く、この危険な場所でも、全く緊張した様子がないのだ。


 彼の話では、ここからしばらく歩くと洞窟があるとの事だった。

 最初は洞窟の近くで、監視をしていたらしいが、討伐隊があまりにも気配を消せていなかった為、これ以上近付くと相手に気付かれると思い、洞窟から離れ迎えに来てくれたようだった。


「魔族は夜に強いから、一晩隠れてやり過ごして、夜明けに攻めようね。」

「分かった。」

「ここなら、多分気付かれないと思うけど、気配を消すのが下手な子達は、これを体にかけておいて。」


 そう言ってジェフリーは、毒々しい液が入った瓶を渡してくる。


「こ……これはなんだ?」

「これは体から発する魔力を、中和する物だよ。魔力で気配が分かる魔族には、有効なんだ。」

「見た目が……だいぶ毒々しいしいな……。」

「色々な薬草を混ぜてるからね。しょうがないよ。じゃあ、気配を消せてない人に渡すね。」


 そう言い、鉄剣の制裁の全員、魔女と仲間達のリーダー以外、騎乗戦士の一団の全員に渡した。

 瓶を渡された者達は、クレア達に渡されていないことに驚く。


「他の子達は、ちゃんと消せてるね。でも一番驚いたのは、君かな?」

「わ…私ですか?」


 そう言って近づいた先は、クレアだった。


「うん。前見た時は、そんなに強くなかった記憶があるんだけど……。」

「お…覚えていて、くださったんですか?」

「もちろん。何度か精霊の事を、教えたもんね?短期間で、そんなに伸びるなんて、本当に凄いよ!」

「ありがとうござい――」「精霊!そうだ!」


 そう言い、クレア達の話を遮り、シリルが会話に加わって来る。


「精霊の事教えて!俺って、精霊と話せるの?」

「んーと、君は?」

「俺はシリル!こっちはアルマ。よろしく!」

「シリル君と、アルマ君ね。僕はジェフリーだよ。初めまして。」

「うん!それでどう!?」

「凄い興味があるんだね!精霊に興味を持って貰えて、僕も嬉しいよー!ちょっと待っててね。精霊に聞いてみるね。」


 そう言うと、何も見えない場所に話しかける。

 しばらくシリルは、目をキラキラさせながら待っていると、どういう事?と何も見えない場所に、しばらく問いかけている。


「どう?俺精霊と話せる?」

「うん。大丈夫みたいだよ。霊力はあるって。努力して、精霊と仲良くなれば、いつか話せるかもってさ。」

「ほんと!?やった!」

「おお!シリル殿!良かったな!」

「良かったな。シリル。」


 シリルはアルマに抱き着き、喜ぶ。

 クレアも羨ましかったが、それよりもシリルが喜んでる姿を見て、嬉しさが勝っていた。

 するとジェフリーが、ちょっといいと一言断りを入れ、アルマに近付く。


「アルマ君。君は魔獣なのかなー?」

「そうだが?」


 そう答えると、聞いた理由を説明してくれた。

 その発言は、見た事がない魔獣という意味ではなかった。

 ジェフリーの話では、アルマにも霊力があるという事だった。

 普通魔獣は、霊力を持たない。

 精霊いわく霊力を持つ獣は、幻獣と呼ばれる類の者達くらいで、ジェフリーですら見た事がない。

 ただそういった者達は、精霊曰く、そもそも魔力をもっていないらしい。

 だからジェフリーも、また精霊も、アルマの存在が何なのか分からなかった。

 アルマもいつか精霊と話せるね!と喜ぶシリルだったが、ジェフリーは疑問な顔をしたまま、アルマを見ている。


「何か、問題があるのか?」

「……いや特にないね。ちょっと驚いただけだから、そんな怖い顔で見ないでよ。それより、使役魔法で縛ってないの?」

「うん。アルマを縛る必要なんてないもん。」

「そうなんだ。信頼してるんだね。」

「うん。」


 どうやらそれ以上は、疑いを持つのを止めたようだった。

 実はアルマには、心当たりがあったのだが、これ以上問い詰められず、少し安堵する。

 自分が霊力を持っている事に驚いたが、シリルから魔力を授かった時に、もしかしたら、霊力も混ざっていたのかもしれないと考えていた。

 すなわち、秘術に関わる事なので、言う訳にはいかない問題だったのだ。


 ちなみに、ジェフリーから渡された液体は臭かったようで、皆嫌々ながら、体に掛けていた。

 そして鉄剣の制裁の者達や、魔女の仲間達の者達から、褒められるクレアとシリル。

 どうやるのか?どうやって覚えたのか?と聞かれ、シリルがアルマに教わったと、話しそうになり、慌ててクレアが誤魔化す。

 さすがに魔獣に教わったなど、言えるわけがなかった。

 森の中で、魔獣をたくさん狩るうちに覚えた、という事にした。

 また、凄い!などと褒めて来るが、そんな中、騎乗戦士の一団だけは、納得がいかないような顔をしていた。

 まるで、彼等より自分の方が下のような扱いを受けているのが、どうにも納得出来なかったようだ。


 そして皆持ってきたもので、簡単な食事を済まし、見張りを立てつつ、休もうという話になったが、ジェフリーが見張りはいらないと言って来た。


「精霊達が何かあれば、すぐ教えてくれるから、大丈夫だよ。」


 精霊達に睡眠という概念はないらしい。

 睡眠に近い状態はあるのだが、自然に溶け込む事で、姿が他者から見えなくなると言ったモノで、それは睡眠とはまた違うとの事だった。

 人間達と違う為、説明はし辛いらしいよ。と言っていた。

 この中で一番ランクが上の、ジェフリーに言われ皆納得し、休む事にした。

 

 だが、彼等が休み始めてすぐ、ジェフリーに皆起こされる。

 魔族達に、気付かれてしまっていたのだ。

 皆が寝静まるタイミングを待ち、奇襲をしようとしていたらしく、今現在、一直線で向かって来ているとの事だった。

 その数、悪魔デビル1体。小悪魔レッサーデビル30体。そして魔族の獣、危険度D+と恐れられる【百角の猟犬ケルスハウンド】5体だ。


 彼等がもうすぐやって来る。

 討伐隊に緊張が走る。

 全員が構え、迎撃態勢を取った……。

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