4章 2
クラスメイトからは陰湿なイジメを受け、教師からは見て見ぬふり。それができないほどの騒ぎになると責任を留美へと押し付けて終わり。
自分だったらとうに部屋に閉じ困るだろうと、いつもの様になにもできない中で彼は考えていた。いや事実、留美さんも部屋に閉じ困ったはずだ。それなのにこの世界の彼女はそれでも学校へと登校を続けていた。
なぜだろうか。
あぁ、そうか。前にボクが言った、前に進むってことを実行してくれているのかもしれない。
その考えは甘かった。
普段は禁止されている屋上階へと、一人の少女が上がっていく。
その足取りに迷いは感じられない。
鍵がかけられているはずのドアを開いて屋上へと出る。普段人が来ないだけあって、屋上の床部分は荒れに荒れていた。屋上へと出た留美は一直線に、屋上部分を取り囲んでいるフェンスの一角へと向かう。そこも手入れがちゃんと入っていないのか、一部分が壊れかかっていた。
目的は理解できた。それなのに、彼女よりも先に屋上にいて指一本も動かせないまま玲はその光景をただ見せられるだけ。このまま彼女を進めてはいけない。それはわかっているのに体が言うことを聞いてくれない。
壊れたフェンスの部分まで到達した彼女は、振り返って
「さようなら」
と口にして屋上から飛び降りた。
同時に、今頃になって玲の体を縛っていた呪縛が解かれる。
急いで飛び降りた個所まで走って手を伸ばすがもうなにもかも遅い。重力に従って彼女の体は落下していって、コンクリートの地面へと衝突して地面に赤い花を咲かせた。
衝突の音に驚いて校舎から人が飛び出してきて、目の前の惨状に次々に悲鳴を上げるなか、玲は放心しながら立ち上がってゆっくりと下がっていく。
下がって下がって校舎の中に入っていくドアに背中を預けるようにしゃがみ込む。
「ねっ、どうにもならなかったでしょう?」
飛び降りたはずの玲が飛び降りた場所で、地面を見下ろしながらつぶやく。視界の下では彼女と同じ姿の花が咲いている。
「私の問題はもうどうにもならないんです。
だからもう、この問題には関わらないでください」
「嫌、ですね」
振り返る留美に立ち上がった玲は言葉を続ける。
「留美さんはあきらめが早すぎますよ」
ゆっくりと足を前に踏み出す。
「あの荒廃した街で留美さんは未来を変えようとしていたじゃないですか。変わるはずがない映像のような未来を」
「玲さんと初めて会ったあの夢の中で、私は変わることを恐れましたよ。イレギュラーだったあなたを排除しようとしましたよ」
「それでも、あの夢のあなたは変わりたい自分じゃないんですか。」
「これだけいろんな夢を見ておいて、なんで可能性を信じてみないんですか?」
近づこうとする彼に留美は行動を制限させようとするが、動きが鈍くなるだけでまた近づいてくる。
「失敗してなにか失ってしまうのが怖いんだったら、ボクが試させてあげましょう」
「試す? 玲さんになにができるっていうんですか」
「できますよ。
ボクだって夢は見る」
指を鳴らした。すると世界が逆再生を始める。
音に驚いて校舎から出てきていた生徒が後ろ歩きで校舎に戻り、朝方にはみんなが後ろ歩きで学校から家へと帰っていく。
だんだんと、逆再生が速度を増していって
二人は、気がつけば教室にいた。
留美は椅子に座っていて、玲は教壇の前で彼女に告げる。
「留美さんのエンドロールにはまだ早すぎる」
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