9/12 宇宙の日

 後輩がペットボトルに閉じ込められた。ペットボトルを逆さにしても振っても水を流し入れても後輩は出てこない。一通り試して諦めたところで、空の果てから天啓が下りる。

 曰く、ペットボトルを宇宙まで飛ばせ、とのことだ。

 つまりはペットボトルロケットである。とはいえ、宇宙まで飛んだ前例はない。

 紆余曲折の末に、ペットボトルロケットは完成した。しかし鋼鉄の装甲を纏い、回路の神経を宿し、エンジンを積んだその姿は、誰もペットボトルと思うまい。小型のコックピットが内蔵されて、後輩が内部から操作する二人三脚の裏技だ。

 見事ペットボトルは空を舞った。世界記録だ。備え付けのカメラを確認すれば、青い地球が見下ろせる。

 これで後輩は解放される。しかし、後輩は一向に現れない。ペットボトルの中にもいない。どこに消えたのか。思えば、いままで一度たりとも後輩の意思を確認していたかった。そもそも空を飛ぶことなんて、望んでいたのだろうか。

 後ろを見ても、後輩は昔のようにそこにいない。空を見上げても、宇宙に飛んだロケットは肉眼では見えない。

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