9/1 防災の日

 地震、雷、火事。そこに親父ではなく後輩を一人加えれば、それらが私の人生に訪れる災害だった。

 たかだか後輩をそれらに加えるだなんて、とは友人の弁。けれども、それほどまでに彼女は荒ぶる者だったのだ。学年が違うのにこちらの教室に来る。部室に来てはこちらに話しかける。下校時だってかまわず着いてきて、家にも上がり込んでくる。ついでに夕食にも厚かましくも一緒に食べようとする。やりたい放題の大盤振る舞いだ。

 だからこちらも災害の備えをしなければならない。部屋掃除に、遊び場の下調べ、ついでに後輩の嫌いな食べ物の聞き取り。先輩とは、かくも大変なものだ。

 そんな日々も、もうだいぶ前のことだ。大学進学を機に一人暮らしを始めてから、後輩とは会うことはない。嵐だって通り過ぎるのだから、後輩だって離れて当然だ。

 災害のない日々は、なんとも静かで、ほんの少し味気ない。そんな風に惜しんでしまったのが悪かったのかもしれない。チャイムを鳴らして彼女は再び現れた。私と同じ大学に受かったのだと、喜色満面に彼女は語る。

 また防災の日々が始まりそうだと、嵐の訪れを心待ちにする自分がいた。

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