化けて出たのにかなわない

 この先輩といういかにも頼りなさそうな男は、どうにも鈍感すぎるらしい。私が本物の後輩と入れ替わって一週間、少しも気づく素振りを見せない。

 本物の後輩は既に死んだ。彼女が死ぬ前、私は頼みごとをされた。祈られた。それは私が神様であるからで、彼女の家とは縁が深く、油揚げを供えられた仲もあるからだ。

 神である私は、人の生死には手を出せない。だが人ひとりに成り代わる程度ならお手の物。化け狐の本領発揮と言える。それにしても、やはり気づかない。私にとって好都合とはいえ、これでは本物の彼女が浮かばれない。

 なので私はワザとボロを出す。言葉遣い。癖。服装。やはり気づかない。いつも通りの温かい目で見てくる始末。そもそも、この先輩とやらは後輩にも、私にも興味がないのではないか。それは少し、気にくわない。

 いっそ私の素顔を彼の目の前で晒してやろうか、嗜虐心とも似つかぬ思いを滾らせる私の背中に、先輩が縋ってきた。縋りついて、もう少しだけ騙してくれと、彼は言った。

 その言葉に、最初から彼は、私が騙していることを気づいていたのだと知った。彼もまた、彼女を好きだったのだと知った。

 いまの私の名前を彼が呼ぶ度、疼く痛みの在り処を知った。

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