先輩後輩になれない

 一目見たときに、先輩は私の先輩だと気づいた。私の第六感は半分的中で、先輩は高校受験で一浪して同じ学年のようだ。惜しい。

 いくら運命の先輩といえども、同じ学年で、同じ教室で会えるというのは味気ない。大学受験の時期になり、私はわざと浪人する。流石の先輩も二度も同じ真似はしない。無事に現役合格する先輩を見届けて、私はしめしめとほくそ笑む。

 翌年、私は先輩の大学に合格する。しかし先輩はもうそこにはいなかった。先輩は、また別の大学に入学していたのだ。仮面浪人をしてまで先輩は私の先輩になりたくないのかと、私は身勝手な憤りを覚えてしまう。

 そこから先はもはや意地だ。先輩を追ってあるときは料理教室に通い、あるときはSNSを始め、あるときはユーチューバーになる。その度に、先輩は私とすれ違うように辞めていく。大学卒業後も、先輩は私の先輩にならない。職を変え、遊び、放浪する。先輩の歩みは絶え間なく、私はいつも置いていかれてしまう。

 まるで雲を掴むような話にも思えた。しかし先輩は生きている人間なので、こうして馬乗りになることもできる。顔を突き合わせて、いったい何の嫌がらせかと、これまでの先輩の所行を問いただす。

 先輩は私のためだと白状をする。私が先輩の後輩になってしまえば、そういう物語に帰結してしまう。だから先輩は、私の自由のために戦っていたのだ。

 先輩には申し訳ないけれど、それはとっくの昔に手遅れだ。初めて会ったあの日から、私はずっと、先輩の後を追っている。

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