わたしがあなたにできること

 先輩は顔のいいクズだ。だから私は先輩の顔に傷をつけた。大きく残った傷は悪い意味で目立つ。なのに先輩に対して、他の人は変わらず好意的に近づいてくる。だから私は先輩の片腕を潰した。不恰好で不便になった先輩は、周りの厄介になる。なのに先輩に対して、他の人は変わらず好意的に近づいてくる。だから私は先輩の片足を潰した。片腕片足を失った先輩は、いよいよ一人では生活もままならない。なのに先輩に対して、他の人は変わらず好意的に近づいてくる。

 いまの先輩は、お世辞にもサモトラケのニケと比べられない。昔の先輩の見る影もない。それでも先輩の周りに人は絶えない。どうしてか、なんて初めから知っていた。先輩はそもそも、クズでもなんでもなかったのだ。私に振り向いてくれないだけで、先輩は今でも完全無欠の存在だ。だから誰もが彼の側にいる。

 そんな先輩にも欠点があることを私は知っている。先輩の欠点は、私が側にいることだ。他の誰もが知らない、彼の欠点だ。

 先輩は私の好意に気づいていない。先輩は私の行為に気づいていない。あるいは、そう、どちらも気づいた上で無視している。本当にひどい先輩だ。

 後輩を殺人犯にするだなんて、先輩はこれ以上ないくらいひどい人だ。

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