7杯目

 白枝達はギシギシとなる古い廊下を歩いていた。男3人が歩いているのだから、この廊下にはかなりの負荷がかかっているだろう。異空間なれども屋敷の古さ等は一緒のようだ。染みも酷い。ふと、白枝の頭に疑問が浮かぶ。


「此処はいつからあるの?かなり古いよね。」


「ずっと前から。でも、此処に住んでたわけじゃないんだ。もっと大きな屋敷に住んでいたよ。人が多かったからここじゃ狭いんだ。」


「もっと、大きな・・・」



 この屋敷もかなり大きいのだが。狭いのか・・・。

 ・・・・・・・・・・・・・・・。

 ちょっと狭い部屋に何人もの碧泉が押し込まれているのを想像してしまった。確かに狭いかもしれない。・・・そんなに大人数ならば前の屋敷じゃ全員の名前なんて把握できないのではないか?誰が誰だか分からなくなりそうだ。いや、そもそも1日で全ての部屋を回れなそうだ。

 人が多かったのは戦うためだろう。そんなに多くて連携はとれるのか?いや、人数が多いのなら何人かの部隊に分ける・・・か。


「やっぱり部隊とかに分けたりするんだよね?」


「そうだねー。それでみんなで部隊ランキング作ったりしたりしたなぁ。でも毎回凄い変動して、、、、おもしかった!碧泉さん達はかなり強い方だでしたよね?」


 そう白柏が振ると、碧泉は嬉しいのか少し自信に満ちた笑みで答えた。その顔は少し美しいと思ってしまった。紫苑や白柏より男らしい顔つきをしているが、美形は美形だ。黙っていれば強さの中に儚ささえも感じるような顔つきだった。


「そうだ。この俺がいる部隊が弱いわけがないだろう。何、当たり前のことだ。」


「部隊は大体、4人組くらいだよ。」


「えっ!意外と少ないな・・・。もっと10人単位だと思ってッ・・・・・・・・・・・・!?」


「避けろッ!!」


 不意にあの人形が飛んできて、白枝の前で炭になって落ちた。・・・正直、間に合わずに襲われるかと思ってしまった。碧泉の声は早くに聞こえたが、体がついていかなかった。これが戦場に出るものと出ないものの違いだ。

 だが、死なずに済んだ。何故だろうか、ここで仕留めれば良かったものを。金雀枝は犯人は雲雀殺じゃないと言っていた。ではこれは雲雀殺が守ってくれたのか。

(嗚呼、疑うんじゃなかった。)

 少し自分のした事を後悔した。


 白柏が落ち着いて碧泉と状況を確認する。うん、やっぱりこういう時に違いが分かる。白枝は慌てたり、青ざめるばかりであった。


「・・・やっぱりいるんですね。これ。」


「だろうな。コイツを守って脱出するか・・・フン、俺にかかれば造作もないことだ。それに俺の尊敬する人の話をまだしていない。約束は守らねばならないものだ。」


「そうですね!」


 ━━━━真面目だ。

 碧泉という人はやはり真面目である。





 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「紫苑、・・・持ってかれた。」


「何だって!?そんな予兆はなかった筈だっ!第一、君が彼の傍にいて守るはずじゃあ!?・・・・・・・・・・・・・・・すまない。対策と原因を考えよう。」


 此処は紫苑の部屋だ。沢山の書物があって少し墨の匂いがするが、それが飾ってある花の香りと混ざって、なんと言ったらいいか分からないが、雲雀はこの部屋を好んでいた。


 突然の雲雀殺からの報告に、紫苑は持っていた茶器を落としてしまった。

(気にっていたのに残念だ。)

 このメンバーならありえないと思っていたことに真逆なるとは。それが、さらに紫苑を動揺させたのであろう。

 でも、流石の立て直し。雲雀は紫苑のそういうところが好きであった。純粋にすごいと思う。彼が落ち着いたのを見計らって雲雀は喋り出す。


「今回は私が彼に嫌われていたから。嫌い・・・という感情によって殆どの感知が掻き消されてしまった、という事だと思う。どうやら『彼』の方が一枚上手だった模様。・・・凄く気に入らない。」


「それだけ・・・では無いね?雲雀。」


 ふと気づくと部屋の入口に鴉丸がいた。雲雀は無言で首を振って、それから彼の方に向き直る。


「はい、兄様。

 彼は此処に来るまでに色々なことがあり、精神が非常に不安定な状態です。免疫も落ちていたのでしょう。それに昔のことを振り返りすぎて、差し伸べられた優しい手の感覚を求めてしまったのです。それが今回の原因の全てです。」


「なるほどー。ところで、此方から手を出すことは可能かい?」


「私達は『彼』らに認知されていて無理です。100%弾かれます。」


 ふと、紫苑の表情が明るくなる。なにか名案を思いついたようだ。


「では、誰が白枝くんがあっていない人を連れてこなければならないということだね。・・・僕に心当たりがある。」


 雲雀が驚いたような顔をしている。常に表情が薄く読み取りづらいが、紫苑や鴉丸は彼女と長い付き合いだ。めづらしい表情が見れて少し、ふっ、と笑ってしまった。


「今・・・・・・笑われた?」


「「いやなんでもないよ」」」


 2人は必死に笑いを堪える。なんだか腹筋がバキバキになりそうだ。どんなに辛くても、ここで笑ってしまったら、後々どうやるやら。


 彼女は少しため息をついてから、こちらに向き直る。真剣に紫苑に問う。


「それで、心当たりというのは?」


「・・・白灯蛾のことだ。」




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