第5話 朝比奈紀行-1

 さて。ここで二つの疑問が生じます。

 一つ目は、何故、紀行氏はそこまで重蔵に様々な支援を行ったのか。

 二つ目は、何故、重蔵は山嵜姓から朝比奈姓を名乗るようになったのか。

 それらを紐解くには、朝比奈紀行氏とその妻美子について触れざるを得ません。

 紀行氏は三十歳の時、美子という女性と結婚しています。この時美子は二十歳。北海道から横浜へ出てきた美子はチャイナタウンのバー《ファイブスター》で働いていました。そこへたまたま紀行氏が来店し、彼女を気に入った彼はその後猛烈にアプローチします。美子としては最初はうんと歳の離れたお客様だし鬱陶しいなと思っていたのですが、執拗な紀行氏のアプローチが奏功し、いつしか美子も紀行氏を思うようになり、二人は結婚します。

 しかし五年後に破局し、美子は実家のある北海道へ帰っていきました。その後紀行氏は親戚からお見合いの話を持ちかけられるものの気持ちが進まず、ついつい一人やもめを続けました。紀行氏は「もうこの歳だし今更奥さんをもらってもしようがない」と周囲には嘯いていたそうですが、社内ではある噂が広がってもいました。

 噂の種は重蔵でした。重蔵は誰もが認める美男子だったのです。ここから先は私の口からはとても恥ずかしくて語れません。人間の破廉恥さと浅ましさが如実に出ているからなのです。そこで、重蔵が日課としていた日記帳をここに転記することで代用したいと思います。


***

◯月◯日

 社長は今夜、燃え上がるような熱情で奥さんを愛した。

 戸袋の隙間から見える床の間は、そこだけが火炎のように空気がゆらゆら燃えていた。

 社長のけたたましく吼える熱情が奥さんの脳髄までをも狂おしくさせ奥さんは何回も果てていた。

 社長も奥さんの放出するかぐわしさを嗅いで更にけたたましくなっていった。

 奥さんの柔らかい両の房は突端を吸われるたびに固くなりもっともっとと求めていた。

 片手で包み込むことができないほど大きくて、大きめの乳輪は白いポツポツが点々としている。

 納豆の粒より一回りは大きい先っぽは、社長が人差し指と中指で常にコリコリしているからよく見えない。

 自分で言うのもおかしいけど、真っ白な肌を社長が手で摩ると奥さんはそこを追うように鳥肌を立てて身をくねらせた。

 社長が舌を這わせると臍のあたりでのけぞってしまった。

 更に下へ這わせて足の付け根を舐めると声にならない声をあげた。

 社長、意地悪だから、最も重要な部分はよけて太ももへ行って、ふくらはぎを丹念に頬ずりする。

 と、どうしても奥さんの足の指がピクピク震えてしまう。

 それを確認してから社長は思いっきり指を咥えた。

 最初は親指。

 指の腹を舌全体でゆっくりこねくり回してから指と指の間に舌先を入れた。

 そして左右に動かし始めた。

 きっと一日に溜まった垢が唾液と混合してえもいわれぬ匂いを放出するのだろう。

 自分で書いていてもすごく恥ずかしくなる。

 そしてこんなこと言うとバカにされそうだけど、俺、すごく大胆になっちゃった。

 戸袋の隙間を指でそっとこじ開けた。

 すこし音がして社長が振り向いた。

 焦った。

 でもすぐに奥さんの方へ集中した。

 バレるところだった。

 危なかった。

 社長は指と指の間を丹念に舐め続けた。

 ここはおそらく女性がもっとも敏感に反応する場所みたいだ。

 奥さんは「はあはあ」と絶叫に近い声になって、もう、たまらなくなって社長を求め始めた。

 それでも社長は充分に両足指を唾液で湿らせるのをやめなかった。

 一刻も早く欲しがって放心したような目を奥さんがくれているのを確認して、ようやく社長は太ももの付け根へ顔を移した。

 そして鼻先で茂みの匂いを嗅いだ。

 いやらしい。

 どんな匂いがするのかと想像しただけで頭が真っ白になる。

 自然と自分も股間を触っていた。

 奥さんはいっそう全身をドクドクさせ「ああ」と言いながら腰を浮かせて漏らしてしまった。

 飲んで欲しいのかな。

 そんなわけが。。。

 そんなことを考えていると、それを見抜いたように社長は体温に近いその液体と白濁した液体が入り混じったものを顔全体で受け止めて喉仏を上下させながら丹念に拭ってあげていた。

 次に、舌を挿れて声を出してビーッと震わせた。

 奥さんはもうこれ以上堪え切れないのか、さらに勢いよく漏らしてしまった。

 自分もいじりながら声にならない声を出してしまった。

 また社長が振り向いたが、もう社長も興奮しているので、あまりこちらを気にする様子は見せず、また奥さんに向かって、

「あ〜あ、こんなにお漏らしして、イケナイ子だ」

 と言った。

 どうやらこの一連の所作がお決まりのようで、ようやく社長はゆっくり元の位置に戻って体を重ね覆い被さるように奥さんの中へ入っていった。

 奥さんの目はもう虚ろで、

「昨夜より今夜のほうが熱情的。今朝より今のほうが激しい、あなた」

 と言った。

 奥さんは社長にこの上なく愛されている、そんなふうに思ってるんだろう。

 奥さんは社長を体全体で感じ、美しく身をくねらせ、歓喜の声をあげ、受け入れ続けた。

 そして、社長が動きをやめて奥さんに被さったところで自分も果てた。


◯月◯日

 社長は、自分が入社して会社の雰囲気が明るくなったと言ってくれた。

 そう言ってくれると正直に嬉しい。社長は、最初、

「学校からの推薦状もあることだし両親は農家とはいえ本百姓だから土地持ちで信用がある。せめて大学は出ておいてほしかったとは思ったが、人を一人雇うくらいの余裕はあるし、断る大した理由もないから、就職を許した」

 と言った。

 だから一生懸命働いて、社長の恩に報いなければならない。


◯月◯日

 みんなが自分に仕事のいろはを丁寧に教えてくれてありがたい。

 ある時、社長からこんなことを言われた。

「この前、三芳さん家へお前を連れて行った時があっただろ。車で。途中さ、赤信号で車を止めていた時、お前が足元のカバンの資料を取ろうと前かがみになったんだよ。何気なくそれを見ていたら、お前の胸元から乳首がチラッと目に飛び込んできてさあ。その瞬間、俺、変な気分になっちゃってさ。いやいや、変な意味じゃないよ、不覚にも二十歳やそこらの少年だぜ、お前は。でもさ、改めて見返すと、胸板厚くてさ、筋肉も盛り上がっててさ、日焼けあともエッチだよなあ。俺、たまんなくなっちゃってさあ、思わずお前の胸を吸いたくなっちゃったよ。いやいや、そんな、変な意味じゃないよ」

 でも、冗談っぽく話す社長、目が泳いでいた。

 絶対に変だ。


◯月◯日

 俺に恥ずかしい話をして以来、社長、奥さんと夜のツトメをしなくなった。

 しなくなったというより、成立しなくなった。

 俺は、戸袋から覗く行為が日常的になってしまい、それはそれで良くないことだが、見る限り、奥さんは社長へ一生懸命献身していた。

 奥さんは悲鳴にも近い声でお願いと言って咥えた。

 でもだめだった。

 社長は申し訳ないと言った。

 ただ、申し訳ない気持ちは言ったが、俺のことは言わなかった、いや、言えなかったといった方が適切かもしれない。

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