第38話 花の効力

フェルナンドが持ち帰った、石化した魔導書。

まだらの花が挟まったページのみ石化しなかった、あれだ。



調べてみたところ、容易に推測できるとおり────

どうやらこの花の持つ魔力は、赤い水の石化効果を消失させる。

そういうことが分かった。


もっと厳密に言えば、まだらの花が持つのは、魔力を吸い取って無効化する効果。


赤い水の持つ魔力そのものが、まだらの花に吸い取られたら────。

あれはただの魔力を持たない水と化す。

魔力を持たない水に、触れたものを石化させるなんて芸当、できるわけがない。



「青い泉の水が行き渡って生きていた、あの森。

青い水が赤い水に変わり、森に満ちた今…

なぜ、森は石化しないのか?

その答えが、この花だといえる」


アメリアがデスクに座り、足を組む。


「この花が森の土壌に根付いて、花の持つ魔力が大地に放出される。

その花の魔力が、赤い水の魔力を吸い尽くして、石化から森全体を守っていたってワケ」


「ははぁ、そういうことだったわけだ…」

バティスタが神妙な面持ちでうなずく。

「しかし、よくまだらの花が森に都合よく咲いたもんだなぁ」


「そこらへんは、まだ詳しく分かっていないけど─────

もしかしたら、森自身が『自分を守らなくちゃ!』なーんて、思ったのかもね」

アメリアがいたずらっぽく笑う。



「はぁ………」

フェルナンドは、呆気にとられた。


石の体毛の、巨大ケルベロス。

危機に際してまだらの花で身を守る、森の不思議な作用。


その場の状況というのは、色々な歯車がかみ合ってできる、唯一無二のものなのだ。

それをまざまざと見せつけられた気分。


「戦士って、ほんと…

柔軟じゃないとつとまらないね…」


フェルナンドのため息混じりの言葉。

アメリアが、その端っこを拾った。


「そ、柔軟じゃないとつとまらないよ。

でも大丈夫。フェリィほど柔軟な戦士、他にいないから」


フェルナンドが腰に下げた、石化した剣。

アメリアが歩み寄り、その柄に手をかけた。


「この剣があるかぎり、ね。

そうでしょ?」


この剣が、あるかぎり。

でも、剣は…もう石化して…。


フェルナンドの心が縮こまる。


それと反対に…

アメリアは、不敵に目を輝かせた────。


「フェリィ」

「う、うん…」

「この剣─────

オレが、元に戻してあげる」

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