第35話 三兄弟

アメリアに連れられて、研究所の廊下を歩くフェルナンド。


この国立研究所では、最新科学と古代魔法の研究が並行して行われている。

おかげで、建物の景観も内装も、古さと新しさが混然一体となったような、ヘンテコなデザインだ。

ここだけは何度来ても慣れない。



廊下の一番奥。

ドアの脇に、「アメリア=フランシスカ魔法研究室」と書かれた表札。


「部下の研究員が二人作業してるけど、フェリィが来るかもって言ってあるから、気にしないで」

アメリアが言う。


「部下の研究員…!」

フェルナンドは、ため息をついた。

「凄いなぁ、アメリアは…

そんなに若くて、もう自分の研究室を持ってるなんて…」


アメリアが、照れくさそうにはにかんだ。


「そんな、フェリィに比べたら…このくらい全然。

あっそうだ、今お兄ちゃんも来てて」

「えっ…兄さんも?」

「そうそう。

そのうちフェリィがここに来るって言ったらすっ飛んできてさー」


バティスタが来ている…。

彼は聖騎士団の副団長のはずなんだが、こんな所でアブラを売っていていいんだろうか…。

若干不安になる。


「それ本当に大丈夫なの」…と、

フェルナンドがそう言いかけたとき。


「フェリィーーー!!!」


不安の種の声が、研究室のドアを突き破って聞こえてきた。

それを追うように、不安の種の本体がドアを蹴破り、


「フェリィ!!あーー久しぶり!!!」


…フェルナンドに、飛びついた。


身長2m近い、マッチョの大男。

短く結った空色の髪が固くてチクチクする。


この勢いの良い豪傑が、バティスタ=フランシスカ。

フェルナンドの兄である。



飛びかかられ、床に押し倒されたフェルナンド。

その上に乗っかるバティスタ。


さらにその上に、

「何か久しぶりだなぁ、こうやって3人で会うの」

アメリアが折り重なった。


「会いたかったぞ、フェルナンド~」

バティスタは感極まって、今にも泣き出しそうだ…。


「あ、あはは…重いよぉ…」


圧死しそうな呼吸で絞り出したフェルナンドの言葉。

バティスタは少なくとも聞いてないし、アメリアは多分意図的に無視した。


フェルナンドは、困った兄弟たちをどうしてくれようかと思いつつ─────

しかし一方で、この戯れを懐かしみ、うっかり楽しんでしまった。


大の男が3人廊下で絡みあっている様。

それがどれだけ不気味か一切考えもせず、彼らはただ再会を喜び合った…。



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