第23話 石化しない本

服が石化し、着るものを失ってしまったフェルナンド。

全裸ではさすがに街に帰れない。


「いや、大丈夫大丈夫…」

フェルナンドがかぶりを振る。

「着替え、荷物の中に持ってきてるから」


ジェスターが腕を組む。


「その着替え、お前が背負ってた荷物の中だろ…?

しっかり赤い水に浸かったはずじゃ?」

「…あっ…。そうだね」


これはダメだ。

ジェスターは頭を抱える。


「一応これ、フェリィの荷物だった石」

モナモナはつい今し方フェルナンドから剥がした石を持ってきてやった。


皮のリュック。

キレイに石化している…。


フェルナンドは一応、かばんのふたを割り砕いてみた。


「わー、中身もしっかり石化してる。

ダメだなぁ、服着れないや。

ていうか財布も…あっ、依頼書の控えも石化してる…。

どうしよっかこれ…ハハ」


困ったように笑うフェルナンド。

モナモナはもう突っ込み疲れたので、ただ傍観した。


「魔導書も…これまだ使ってないのに」


フェルナンドは、分厚い魔導書を取り出す。

表紙の凝った装丁はそのままに、ずっしりと黒く重い石になっている──────


…だが。


「あれ?」

「どうしたフェリィ」

「いや…。

ここのページだけ、石化してないみたい…?」


フェルナンドは、魔導書を開く。


ほぼ全てのページが石化してくっついてしまっている中、一カ所だけ、開けるページ。

そこには、フェルナンドが押し花にした、まだらの花が挟まっていた。


「あっ…。この花…」

「行きで見つけた花じゃん!

石化に対抗する花なのかも…!

大発見だぞ、フェリィ!」

「だよね…この魔導書は持って帰ろう。

石になっちゃって、重いけど」


フェルナンドは、はたと顔を上げた。

「そういえば…!

剣は…?私の、長剣…」


ジェスターが、顎で示した。


石化したケルベロスの左足に刺さりっぱなしの剣。

─────やっぱり、石化していた。


「あ…」


フェルナンドは、剣だった石に歩み寄る。

柄を持ち、動かしてみる。

何とか外れそうだ。

彼は、愛用の剣を、やっと引き抜いた。


「石になっちゃったか…そうだよね。

うーん…まあ…一応持って帰ろう」



ジェスターが、自分の荷の中から、服を引っ張り出した。

パンツに、ズボン、半袖シャツ、サンダル。


「フェルナンド…これ、着られるか?

モナモナやクラリッサよりはお前とサイズが近いとはいえ、お前は俺より身長が高いし、筋肉も多いから…」

「あっ、ありがとう…!

借りていいかなぁ」

「ああ…試してみてくれ」


パンツは履けた。

ズボンも、太ももやふくらはぎがパッツンパッツンだが、何とか脚を詰め込んだ。

シャツもギリギリ着られた…うちに入るかどうか分からない。丈が絶対的に足りない。胸板は覆ったが、腰は丸出しだ。

サンダルは無理だった。足のサイズが、縦幅も横幅も合わない。むしろジェスターの足の小ささに驚愕した。


フェルナンドは、モナモナとジェスターに意見を求める。

「…これ…城下町を歩く人としてセーフかな?」


ピッチピチのズボンを履いた、ヘソ出しTシャツの男。

おまけに裸足。


「うんwwwセーフセーフwww

チョーカッコいいんだけどwwwww」

「…」

ツボに入ったらしいモナモナ。

ジェスターは、もう諦めた。


とりあえず、クラリッサが寝ててよかった…。

起きていたら、「そんな格好恥ずかしくて絶対ダメ!」って、死ぬほど騒いでいたと思う。



さて───────

一人ちょっとおかしな格好にはなってしまったものの、無事にケルベロスを討伐した。


フェルナンドは、眠るクラリッサを抱え上げ、消耗したジェスターをおぶって─────


「さ…帰ろうか」


モナモナが、ジャンプして、フェルナンドの肩に乗っかった。


「クラリッサとジェスターずるい!

ボクも疲れた!肩車ーっ!」

「あはは、そうだなぁ。

いいよ、モナモナ」


フェルナンドは結局、クラリッサを抱き、ジェスターを背負い、おまけにモナモナを肩車して、帰途についた。

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