第12話 迎え撃つ

ケルベロスの声とともに木を飛び越えてきた人影。

軽業師ジェスターだ。


「まずいぞ」

彼は息ひとつ乱さず、フェルナンドの元へ駆け寄ってきた。

「肉が厚すぎて、刃物は致命傷にならない。

おまけにあの毛だ。石のように固い。矢は通らないだろう。

倒すなら、魔法しかないと思う」


体に密着する形の、ジェスターの服。

所々破け、露出した白い肌に浅い裂傷が重なっている。


「ああ…ジェスター…」


フェルナンドが思わず漏らした声に、ジェスターはかぶりを振った。


「大丈夫。あの毛でできた、ちょっとした切り傷だ…。応急回復薬でも飲めばじき治る。

ただ、やはり毛には気をつけた方がいい。固くて、防具を貫通して刺さるからな」


フェルナンドは、かばんをあさる。

ありったけの応急回復薬を、ジェスターに押し付けた。


「いい、そんなに要らない。

1瓶で良いよ。ありがとう」

ジェスターはマスクをはずし、緑に光る回復薬をあおる。


「そうか、…魔法で、倒すしか…」

クラリッサが、杖を握りしめた。

「やってみる。

詠唱するから、皆、助けてね…!」


不器用なクラリッサ。

彼は魔法の詠唱中は、それ以外のことは一切できない。

しかしその繊細な集中力が、彼の強力無比な魔法を生み出している。頼れる切り札だ。



木の向こう。

黒い巨体がうごめく影。



「ここで決めるぞ。魔法を確実に当てて倒す」


フェルナンドは、3人に目配せする。


「モナモナ、クラリッサの足になってやってほしい。

クラリッサは、ケルベロスの心臓まで到達できるような魔法を。

ジェスター、ケルベロスの動きを止めたい。私を手伝ってくれ」


あらかた傷が癒えたジェスター。

ひとつうなずき、木の枝に上がる。


小さなモナモナが、細身のクラリッサを肩車した。


フェルナンドも、長剣を握りしめる。



6つの目が、一行を捉えた。



さあ────────来るぞ!

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