悪食の《猫》は不条理に愛された娘に執着する

とある事件からこころを凍らせてしまった七瀬は、可愛がっていた猫が喰われている現場に遭遇する。猫を喰らっていたのは驚くほどの美貌を備えた、素姓のわからぬ青年だった。七瀬は不要になった猫缶を若者にあげたところ、青年になつかれ、執拗につきまとわれるようになる。
それからというもの、七瀬のまわりでは殺人 違法薬物 などの様々な事件が起こるようになり、抗う術もなく彼女はそうした騒動に巻きこまれていくのであった。

サイコホラーとミステリーを組みあわせたこの小説ですが、とにもかくにも人物が凄い。
無感動でありながら意外にも情に厚い七瀬はもちろんのこと、みずからを猫と言い張ってやまない美男子のサラギが読者のこころをつかんで離しません。
彼は物腰柔らかな敬語をつかい、訳のわからないことを言いだす割にはひとあたりもいいですが、非常に悪食です。路地裏にひそんでは猫を喰らい、ファミレスにいっては皿ごと料理を食べ、時には人間をまるごと捕食するほどに。
彼がいったい、何者なのか。すべてが謎につつまれています。
ですがひとつ、確かなことは。
彼は七瀬に執着しています。
それが純粋な愛なのか、好奇にも等しい興味なのかはわかりませんが、七瀬に執着するサラギの姿は、時に滑稽で時に愛らしく、時にとても格好いいです。
七瀬もまた、サラギに執着されるにふさわしい娘で、まだまだ解き明かされてない謎をたくさん秘めています。
彼女は、不条理と悪意に愛されているのかな。これだけ様々な事件に巻きこまれ、なによりもサラギに執着されているのをみていると、ふとそんなことを思います。

様々な謎が絡みあう本作。ちょうど二部が終わったところですが、物語はまだまだ続いていきそうな予感です。いまから追い掛けても遅くはありません。
是非是非、悪食の猫とその飼いぬしになってしまった少女の顛末を、見届けてくださいませ。