Night of slaves(9)

 決戦当日。時刻は11時30分。


 エルフさんに絶対死なないと約束を交わすと張り詰めた空気が和らいだ。


 学園を休んで話しを聞いてほしいとメールで懇願すると、事情を話す前にOKと快く返事をしてくれた。懐の深さに感謝が絶えない。


 そして今も、危険に飛び込んでいくようなことをするというのに、『それでもいい』と言ってくれた。


 これは、何かお礼をしないといけないな。


 どんなお礼がいいかと頭を巡らせていると、急にエルフさんが声をあげた。


「あっ!そうだ。もうお昼だし、ご飯食べていかない?」


 ナイスアイディア!と満面の笑みを浮かべて立ち上がるエルフさん。


「それなら、ミヤが、作る、です」


 魅夜もそう言うと立ち上がる。淡々と告げるとキッチンへと勝手に歩いていく。


「ち、ちょっと魅夜ちゃん?私が作るから座っていて。お客さんなんだから」


「お兄ちゃん、の味の、好み、は、ミヤ、知ってる、です」


 キッチンを目の前にやいのやいの言い争っている。止めた方がいいのだろうけど、なんかモテてるみたいで嬉しいので放っておく。

 しばらくすると、トボトボと魅夜が歩いてきて、僕の隣にちょこんと座る。


 肩と肩が触れ合って、少しドギマギしてしまう。兄妹なんだけど兄妹じゃないっていうか家族っていうか......ああ、もうわけわからん。


「あの、はーくんは家だといつもそうなの?」


 エルフさんはキッチンから顔を覗かせてそんなことを尋ねてくる。

 なんか、目元がピクピクしてる......?


「そう、です。いつ、も、一緒」


 魅夜が僕の代わりにそう答えると袖をぎゅっと握る。


「くっ......その手が......」


 エルフさんは何かを耐えるように拳を握り締める仕草をすると渋々といった具合にキッチンに戻る。


 トントントンとリズムの良い音に胸をときめかせながら、あ〜新婚なんかみたいで嬉しい、なんて浸っている。完全に子連れだけど。


 しばらく待つと、シンプルな大小様々な皿に料理が......料理?


「あ、あのエルフさん。これは......?」


「ちょっと奮発しちゃった!普段は食べないんだけど、何か嬉しいこととか何かの節目に......って、べべべ別に今嬉しいとかそういうことじゃなく––––––」


 エルフさんは顔の前で手をパタパタしながら頬を赤らめているのだが、目の前の料理?に目を向けると......


 草。草である。草、草、草、草、花、草、草、花、草、草、草、草。


 色とりどりの草や彩りに花が添えられている。見たこともない食材。見覚えのある野菜はない。


 魅夜に助けを求めるべく目を向けると、


「......っ」


 顔を背けられた。


 え、助けてくれないの?マジで?魅夜ちゃんマジで?


 そもそも魅夜は血以外摂る必要もないので魅夜の前に、草はない。食べるとしたら僕だ。僕しかいない。


 その間にも、エルフさんはいい顔で、「どうぞー」なんて勧めてくる。

 ごくり、と喉を鳴らして草を摘んで口に運ぶ。


「......」


 不味くはない。けど、美味しくもない。言うならば自然。自然を体中に感じる。

 口の中に感じる青臭さ、ややあって苦味、わかるかわからないかのレベルの甘み。

 不味くもないが故に、リアクションも取りづらい。


 どうっ?どうっ?と目を輝かすエルフさん。反応に困る......


「ねぇ、エルフさんって毒に関する知識ってあるんですか?」


 ふとそんな疑問が口を突いて出てきた。まあ草から連想してしまったんだろうけど。


「な、なんで料理を食べてそんな言葉が出てくるのかとても聞いてみたいけど、不快になりそうだからやめておく」


「......どんなもんですかね?そこらへんのこと。割と重要なんですけど」


 不満顔から逃れるように話しを逸らすと「もうっ」と頬を膨らませた後、真剣な表情になる。


「結論から言えば毒の知識はあるよ。多分、そこらへんの専門家よりよっぽど。


 エルフは元々、森を住処とする一族で自然と一緒に生きてきた。全ての毒は自然の中にあるのよ。


 尤も、私は興味ないんだけど、エルフはエルフかくあるべしってね。家の人に教え込まれたわ」


 そう言って可愛らしい舌をペロッと出す。


 なにそれ。可愛い。その舌を全力でついばみたい。おっといかんいかん。


「それなら、用意してもらいたいものがあるんですけど––––––」


 意図を伝えると、エルフさんも、魅夜も猛反対。2人とも顔が恐い。


「だから、これは最終手段です。使わないに越したことはないです。


 僕と魅夜の【血界ルーム】で決着つけばそれが一番なんですけどね。


 僕達は絶対に負けられない。絶対に勝つ。だからエルフさん、お願いします」


 フローリングに手をついて頭を下げる。


「......っ」


 しばらくの沈黙。エルフさんの息を飲む音が聞こえる。魅夜は僕のシャツの裾をきゅっと握る。


「......わかったよ。毒はすぐに出来るから待っていて。解毒薬は時間がかかるから作ったら私が持っていく。それまでの間、魅夜ちゃん、はーくんをお願いね?」


「はい、です」


 やれやれ、というエルフさんが魅夜と目を合わせて頷き合っている。


 これで準備は整った。念には念をいれての策。策というにはあまりにも稚拙。

 絶対に勝ってみせる!!















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