Night of slaves(3)

 メアリをエルフさんに任せて、アメリと魅夜が戦闘を行なっている場所に向かっている。


 公園の外まで戦闘の痕跡が残っている。


 なるべく距離を取ってくれとは言っていたと思うが距離を取りすぎだ。

 いや、そうせざるを得なかったのか。


 胸を騒がせる予感に従うまま疾走する。


 そうして着いたのは廃ビル跡。ここまでくるのにコンクリートや家の外壁、店の看板にまで痕跡が残っていた。


 暗器使いかと想定していたが、そうとは思えないような破砕跡。


 廃ビルの中からも何かが崩れる音や、刃物が擦れる甲高い音が響いている。


「すーはーすーはー、よし、行くぞコラァアアアアア!!」


 自分を叱咤し、廃ビル跡へと駆けていく。



 ※※※



「おバカ、さん、良かった」


「あんだとこのクソガキィイイイイイ!!」


 事前に打ち合わせた通り、楠 アメリは両手にナイフを構えて突貫の姿勢。


 斬りつけ、斬りあげ、横薙ぎ、回転蹴り。


 その全てに素手で対応する魅夜はなんとか去なすだけで反撃は難しい。押されるがままに後方へ下がっていく。


「アタシを挑発するとは肝が座っているとは思うが、愚策だったな。こちとらお前の心臓があればそれでいいんだよ!メアリが来る前にぶち殺してやるよぉおおおお!!」


 アメリは更に加速する。蹴りは地面を抉り、ナイフは風を切り裂く。体中に切り傷が刻まれて血が吹き出る。


「––––––纏え」


 魅夜の声に応えるように傷から血液が流れ出て、両腕を包む腕甲を作り上げる。


「はんっ!吸血鬼らしい浅知恵だな。確か【血鬼術けっきじゅつ】だったか。」


 魔力と血を混ぜて発動する吸血鬼特有の魔法。その魔法によって作りあげた装具は凡ゆる魔法を切り裂き、金属を断ち切る。


 だが、決してその魔法は万能ではない。


「テメェのそれは壊されれば血は戻らない。どうやらテメェは失血死がご希望みたいだなあ!!」


 これまで様々な異種族を屠ってきた楠姉妹は吸血鬼との戦闘も初めてではない。


 尤も、吸血鬼は単独行動を好むため多対個の戦闘は未経験ではあったが。


「それでも、負け、ない」


 切りつけられたナイフを腕甲で弾くと、そのナイフは砕け散る。


「やっぱり吸血鬼謹製の【血鬼術】は伊達じゃねえなあ。でも––––––」


 懐を探り一粒の丸薬を取り出すと、奥歯で噛み砕く。


「【戦闘狂化バーサーカー】。特別なのは吸血鬼てめぇらだけじゃねえ」


 髪を留めたかんざしは砕け、解けた髪が宙を泳ぐ。瞳はマーキス型に尖る。


「ちょ、っと、マズイ、ですっ?!?!」


 赤い霧がアメリの体を覆い、その怒りを表すかのように立ち上っている。


 舞うような技を用いた殺人術から力任せな暴力へと切り替わる。


「死ねおらぁああああああっ!!!」


 純粋な力が腕甲を何度も打ち鳴らし、腕甲からは火花が舞う。アメリの体は鋼鉄のように堅く、鞭のようにしなる。


 ––––––ビキ、ビキビキビキッ


 纏った腕甲にヒビがはいる。想像以上の攻撃力、相手の持っていた想定外の手札に瞠目する。


(この、場所、不利。狭い、空間にっ!)


 楠 アメリという暴力の権化を倒す為の算段を組み立て、この場所からの移動を敢行する。


「逃すかよゴルァアアアアアッ!!!」


「......っ!!」


 これは魅夜の賭けだ。賭けに勝っても勝てる可能性が不透明な理不尽な賭け。


 魅夜は一心不乱に走り出す。戦闘が可能で、閉じた空間内での戦いが可能な廃ビル跡へと。

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