Vampire night(2)

 ハセガワ家リビング。


 僕はソファで寝そべって携帯電話をいじっている。魅夜みやはキッチンで夕食作りだ。


 ネットサーフィンをしていると、ピロリロリーン、と音を立ててメールを着信する。相手はエルフさんだ。


 エルフさんのメールはいつも長文だ。しかも返信の前に次のメールがくる。病んでるのかな?かな?


 ちょっと苦笑い。でも嬉しい気持ちの方が大きい。


「お兄ちゃん、最近、たのし、そう、です」


「え、そう?」


 身を乗り出して答えると、咎めるような視線がビシビシと突き刺さる。


「最近、お兄ちゃん、服、女の、匂い、する、です」


「えぇ?!そんなことわかんの?!」


「......」


 ちょ、そんな睨まないで。


 睨みながらも料理の手は休めないなんて、流石、妹様である。


 視線から逃れるように携帯電話で返信の文章を作っていると、覆い被さるように魅夜がやってきた。


 近い近い近いっ!!!


 深紅の瞳がずいずいっと近づいてくる。そして何をするでもなく「むーっ」と見つめてくる。白銀の髪が顔の横にはらりと落ちる。


「ど、どうした?」


「お兄ちゃん、堕落、してます、です」


 ひどい言い掛かりである。苦笑いで答えるとぷくっと顔を膨らませる。


「それより、お腹すいたなー。さっきから凄い良い匂いがしてきて。魅夜みやはきっといいお嫁さんになるね」


 少しわざとらしかっただろうか。白銀の髪を撫でる。サラサラだ。


「むぅ、今日は、これで、許す、です」


 僕は何か許されなければならないことをしていたのだろうか......


 魅夜はゆっくり離れるとキッチンへと戻っていった。


 しばらくすると料理が出来上がり、目の前にはご飯、ハンバーグ、味噌汁。


 ハンバーグを口に入れると肉汁と旨味が広がる。魅夜はほんとに料理上手だ。料理を含めた家事全般を担ってくれるので感謝に堪えない。


「そういえば、魅夜は最初から料理が上手かったけど誰に習ったんだ?」


「ママンが、教えて、くれた、です」


 そう言うと、微笑みながら懐かしんでいるかのようだった。


 魅夜の母親はクソオヤジの23番目の妻だ。色々な事情があって今のところ一緒に暮らすのは難しいらしい。


 僕もクソオヤジに問い質したが、はぐらかされるだけだった。魅夜は納得していたので、それ以上は僕も踏み込みはしなかった。


(......寂しくないのかな?)


 目線だけ魅夜に向けると、食事はあまり進んでいないようだった。


「魅夜、食欲ないのか?大丈夫か?」


「大、丈夫、です」


 そう言いながらも顔色は良くない。元々色白だが今は青白い。


 ご飯を一口含むが、飲み込むのも億劫なように見えた。


「無理しなくていいから。もう休んだ方がいい」


 立ち上がって背中をさすると小さく笑って、まだ料理がのっている皿を下げていく。


「明日、まだ体調が悪かったら病院に行こう」


 元々小食だったとは思うが最近は特にそれが顕著で、ひどい時はまったく手をつけていないときもある。成長期なのにあまりよくない。


「大、丈夫、です。明日、なれば、治る、です」


 そう言うと自室へと戻っていってしまった。

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