STAND BY ME(10)

 カラン、とコップの中で氷の音が鳴る。


 某有名ファミレスチェーン店に入店してから、もうかれこれ30分はこのままだ。


 エルフさんなんだかもじもじしているし、水はもう3回おかわりしている。


 僕も人のこと言えた義理ではない。何から話せば良いものかと、しかもさっきめちゃくちゃタメ口叩いた引け目もあって糸口を見出せないでいた。


 そんな無言の中、最初に口を開いたのはエルフさんのほうだった。


「あり......がとう.....」


「へ?」


 予想外の感謝の言葉に釣られて僕も変な返し方をしてしまった。


 ちょっとだけ頬が赤くなっている気がする。


「これまで誰かに心配されたことなんてなかった。ううん、多分心配してくれた人もいたと思う。けれど関わったっていいものじゃないから拒絶してた。


 だって、私は【エルフ】だから。人じゃない、から」


 目線をコップに向けたまま落ち着いた声色だ。


「【エルフ】はね、長命種なの。ずっと人間を見てきた。


 一見優しい人も、心は嘘ばかり。


 騙してお金を取ろうとする人、捕まえて売ろうとする人、殺そうとする人。色んな人を見て絶望してきた。


 そんなとき風の精霊が私を心配して色々教えてくれるようになったの『アイツはダメ。信用しちゃダメ』って。


 風の精霊は守ってくれたけど、どんどん孤独になっていくのも感じてた。


 怖かった。人を騙そうとする人の心が。


 でも1番怖かったのは誰も信じることが出来なかった私自身」


 ––––––そういうことだったのか。


 本に書いてあった人間が嫌いだというのも理由もなく嫌いだったわけではない。嫌うには嫌うだけの理由があったのだ。


 そして、彼女自身の意志に関係なく精霊が力を貸していた。


 人に接する度に孤独になっていく。話す度に嫌いになる。マイナスの感情ばかりを蓄えて生きていくのはどれほど辛いことなのだろう。


「じゃあなんで学園に通ったり、女優やったりしたんですか?どっちも人と関わることが多いのに」


 当然の疑問。むしろ【エルフ】でしかも身バレ厳禁と聞いた時点から抱いていたものだ。


 僕の言葉に「うっ」と詰まるエルフさん。


「......だって、寂しかっ......た」


 瞑った目の端から雫が1つ頬を伝う。口を一文字に引き結んで強張っていた。


 たった1つの理由。ただそれだけで充分に感じられた。


 人より長い時を生き、その間、人の悪意や嘘にも晒されて絶望し、それでも人と生きることをやめられなかったのだ。人と関われば傷つくことを知ってるのに。


 そのときふと以前読んだ本の文言を思い出した。


 ––––––本当に人を殺すのは孤独である。


 彼女は生きたいと願ったのだ。本当の意味で生きたいと。空っぽにならないように。彼女も戦っていた。


 目の前で涙を流す少女に胸が締め付けられる。


 ヒックヒックと喉を鳴らす彼女を目の前にもらい泣きしそうになるのを堪えつつ、ティッシュを手渡す。


「でも、女優は?リスク高すぎません?」


 涙を拭った手がびくっと震える。


 エルフさんはまるでイタズラが見つかった子供のように拗ねるような口調で言った。


「い、一度くらいチヤホヤされてみたかった......」


 なんじゃそりゃ。

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