転校生と文芸部(終)

 自室のベッドの上、今日実際に起きたことを思い出す。


 色香さんはわかっていたのだろう。森野エルフから入部希望届けを笑顔で受け取り、軽く挨拶を交わしていたはずた。


 その際に僕と言えば、


『あぅ......ぅぁ?......おふっ!』


 見事に無様な呆けた顔を晒したまま立ち上がり敬礼をするという。謎極まりない挨拶をかました上で全力で彼女の脇を通り抜け家までダッシュで帰ってきた。


 電車、バスを使わずにである。


 既に外は暗くなり、時計を確認すれば22時を過ぎていた。


 森野エルフが可愛いことも綺麗なことも知っていた。だが実物は違かった。オーラといえばいいのだろうか。非現実的だがオーラというものを生まれて初めて感じたのだ。


「うあー...うあー...うあー...」


 失礼な態度をとってしまった、とベッドの上で転がりながら反省する。


 ごろごろごろごろごろ。


「......お兄ちゃん、何、してる、です?」


 ふと声をした方に顔を向けると妹の魅夜みやがいた。


「何って反省だよ。自分の馬鹿さ加減に僕自身が匙を投げる勢いだよ」


 僕の言葉を聞くと一言「そっか」と言って、うつ伏せの僕の上にそのまま覆いかぶさる形で乗っかってきた。


 魅夜の顎でつむじをゴリゴリされてなんだかハゲそう。ちょっと、やめてちょーだい。


「くんくんくん。汗の、におい。」


 魅夜はどこかポヤポヤした雰囲気。


 海外での生活が長かったせいか言葉が途切れ途切れでどこか拙い。


 僕と魅夜は所謂、異母兄妹というものだ。


 確かあのクソオヤジが言うには23番目の妻との間に生まれたのが魅夜らしい。もうほんとクソなクソオヤジである。


「汗臭いから風呂入るよ。......よっと」


 体制を変えて脇を持ち上げて魅夜を床に降ろすとニコリと笑って僕のシャツの裾を握る。


 正面で魅夜を見据えるとやはりというか遺伝子の残酷さというものが痛いほど胸に刺さる。


 まだ中学2年生ということもあり、背は僕の胸あたりで細身の体型。


 血色を感じさせない程の肌の白さに血のように赤い瞳。すっと通った鼻筋に、飾りのような薄い唇。そして一際目を引く雪のような白銀の髪はサイドが編み込まれている。


 当初は兄妹なんて言われても全然ピンと来なかった。一体これはなんの冗談かと。


 裾を握られたまま浴室へと向かうが一向に離す気配がない。


「えーと、魅夜?風呂入るから出てくれる?」


「うん」


「......服脱ぐんだけど」


「どう、ぞ」


「いや、どうぞって」


 中々読めない妹である。先程から直立不動で上目遣いでこちらを見つめてくる。


 お風呂入りたいです。トゥギャザーはノンノンですよ。


 何度かやり取りした後ようやく魅夜は出て行ってくれた。まだ日本にきて1年ちょっとだから文化的な違いで戸惑っているのだろう、きっと。

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