第三十八話 最後の切り札
「――い!」
あ……。
「――おいって!」
あ……?
「いい加減、目を覚ませ、《真の魔王》!!」
「あ……ど、どうしてここに?」
「俺も手伝う、そう言っただろ! 目を覚ませ!」
そこに美孝がいた。
いや、《
「起きろ! 立ち上がれ! お前しかこの町を守れる奴はいないんだぞ!? 誰もやんねぇなら、銀じいに代わって、ぶん殴ってでも目ぇ覚ましてやる!」
「あ、あたしだけ……?」
「そうだよ!」
美孝はもがき、怪人姿の二人を強引に振り解いた。
「お前も聞いたろ? 隕石が落ちてくるんだって! あれを止められるのはお前たち――いいや、俺たちしかいないだろ! だったら、やらなきゃ!!」
「む、無理だよ……」
「この世に無理なんてこたぁねえ!」
そう吼えた美孝は、周りの面々を一人ずつ睨み付けて、鋭い目で尋ねていく。
「あの隕石が落ちてきたら、この町一つじゃ済まねえだろ? それこそ東京ごと、日本ごと木っ端微塵になっちまう! それに、この下町の皆が信じてるんだぞ! お前たち《悪の掟》ならきっと皆を救って、幸せにしてくれるんだって! ……できるよな?」
誰も――口を開かない。
「……おい! できるって言えよ! やってやるって言ってくれよ! 俺が憧れた悪の組織ってその程度なのか! そんなちっぽけな連中だったのかよ!」
がりがりがり!と短髪を掻き毟って、答えない怪人たちに喰ってかかる。何倍も大きな身体をゆさゆさ揺すって声を枯らして叫び続ける。
「やれるだけやってみようぜ! どうせ駄目で元々だろ? このまま落っこちれば文句を言える奴は誰一人生き残ってないんだ! でも、今何もしなければ、皆後悔する! せっかく町の皆が応援するって決めてくれたんだろ!? だったら――!」
美孝の前に、すっ、とルュカさんが歩み出た。
その表情は、硬く強張っている。
そして、息を吸ってから、こう言った。
「……貴方もまた、立派な悪の一員だったのですね。ここまで言われて引き下がるようでは、先代に顔向けができません。あの世で叱り飛ばされるでしょう」
「だろ?」
「麻央様の御親友の、瀬木乃美孝様、でしたね?」
「いいや、違うね。俺は《正義の味方》じゃない」
にっ、と美孝が笑った。
すると、ポケットの中からごそごそと取り出した派手な覆面レスラーのマスクをすっぽりと被り、ポーズを取って高らかにこう名乗りを挙げた。
「それは別の誰かだ。俺じゃない。俺の名は……そう、イビル・ジャスティス!」
「《
ルュカさんは微笑み、その顔を引き締めた。
「皆よ! この事態に対抗するには、もはやあれを使うしかありません! あれだけは最後の切り札として温存しておきたかったのですが……」
「最終決戦兵器、デモンズ・デストラクション……まさか、あれをお使いになる気ですか!?」
ルュカさんの科白を聞いた情報処理班の一人、ヘル・ブレインさんは剥き出しの三つの目玉をさらに丸く見開いた。ただでさえ青白い顔は一層白い。
「あ、あれは、決して使われることのないよう、厳重に封印して保管してきた物ではありませんか! む、無理です! 第一、あれの開発責任者だったドクトル・ソルがいなければ起動準備すら――」
そこで、はっ、とルュカさんは息を呑んだ。
「そういうことですか。やられましたね」
「ル、ルュカ様?」
「ドクトル・ソルは、今や《改革派》の軍門に下っています。今回の施設襲撃も、あれを動かすための準備だったのでしょう。地下倉庫にはマニュアルもまた保管されていたのですから。急がねば……」
「その最終決戦兵器は何処にあるのだ、ルュカ?」
「ここではありません」
ルュカさんの手の動きに合わせ、薄緑色のスクリーンが空中に浮かび上がる。そこには《悪の掟》基地を中心とした東京湾を含む地図が描かれていた。
「デモンズ・デストラクションは、東京湾のこの地点の海底に発射坑が設けられています。ただし、ここには海上からではなく、今は使用されていないこちらの埋め立て地に巧妙に隠蔽された秘密の入口から侵入する必要があります」
次にルュカさんは別の一点を指し示した。
「もぬけの殻だった《改革派》のアジトはこのあたりだと報告がありました。今頃、彼らも向かっている頃でしょう。起動準備には時間がかかります。彼らの邪な目的のために使われる前に止めないと」
「その起動準備は何時間必要なのだ? 隕石が落着するまで、どれだけ猶予がある!?」
「《改革派》にはドクトル・ソルしか技術要員はいない筈。であれば、最低でも準備には六時間かかるでしょう。一方、隕石の落下予想時刻は十二時間後。ただし、八時間を越えればたとえ破壊できたとしても、爆散した破片が大気圏内に突入して日本周辺諸国にまで降り注ぎ、被害は避けられなくなります」
「時間ねえじゃねえか! 移動手段はあるのか?」
「もちろんです、イビル・ジャスティス様!」
「では、いこう! 皆の力で止めるのだ!」
真紅のマントを翻し、あたしは号令をかけた。
◆◆◆
首都高速のとあるインター出口付近のトンネルの外壁が、突如、ごごご……!と動き出し、スライドするように巨大な漆黒のトレーラーが姿を現した。
「す、凄え! こんなところから……嘘だろ!?」
「いやいや、それほどでも。では、飛ばします!」
轟!!
ペダルに合わせ漆黒のモンスターが咆哮を上げる。
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