第三十話 悪いのは……あたし
がちゃり。
扉が開いた瞬間、大広間にいた数名が
「抜丸――抜丸は何処だ!」
「ま、待ってくだされ、我が
「何・処・だ、と聞いている!」
「い、いや! しかしながら!」
「……何か思い違いをしてはいないか、鬼人武者よ?」
慌てふためき、必死で押し留めようとする鬼人武者さんに鋭い眼光を向け、押し殺した声でゆっくりとこう告げた。
「よもやこの私が、あれが抜丸たちの仕業だと思い込んでいるとでも? それとも何かな? 抜丸たち特殊潜入班たちによる捜索活動の不備を叱責する気だとでも思ったのか? お前たちを統べるこのアーク・ダイオーンたるものが、そこまで
「――!?」
どうやら思い当たるフシがあったようだ。鬼人武者さんはもちろんのこと、ルュカさんたち他の数名も落ち着きを取り戻して即座に膝をつき深々と頭を下げた。
「……申し開きもできませぬ。どうかこの
「よい。今は時間が惜しい」
その時、虚空の闇から染み出るように一人の忍び装束の怪人の姿が出現し、即座に跪いた。
「お呼びッスか。アーク・ダイオーン様!」
「来たか、抜丸よ」
溜息を吐いてから、静かに語りかける。
「お前たちが日々苦心してくれていることは分かっている。責めるつもりなどない。……だが、まだなのか? まだ、タウロたち一派は見つけられないのか!?」
玉座から皆と同じ高さまで降りると、その場に膝をついて頭を下げた。
「どうか頼む! タウロたちを見つけてくれ。必要な物は何でも与える。でなければ――!」
「だ、駄目ッスよ! ア、アーク・ダイオーン様がそんな真似まですることないッス!」
抜丸さんは声を震わせてあたしの肩を掴んで揺さぶる。だが、あたしは頭を上げなかった。
「だ、大丈夫ッス! オイラたちが必ずタウロたちを取っ掴まえてヤキ入れてやるッスから! あんにゃろう《
「違う!!」
しん、と誰もが言葉を失った。
「私の……せいだ」
あたしは震える声を冷たい床に溢した。
「私の力の至らなさ……それ故、タウロたちは離れていってしまったのだ。どうか彼らを責めないでくれ。悪いのは……私なのだから」
あたしのアバターは涙を流すことができない。
だから、全てを隠してくれていた。
床に落ちた本当のあたしの流した涙の滴以外は。
「アーク……ダイオーン様……」
しかし、ルュカさんには気付かれてしまったみたいだ。思いつめたように床一点に視線を落とし、唇が白くなるほど一文字に引き締めて何かに耐えているその素振りから何となくそれが分かってしまった。
「随分と苦しませてしまいましたね。そして、悲しませてしまいました……。それはやはり、我々の至らなさであり、我々が成さねばならぬことです」
そっとあたしの肩を抱きかかえるルュカさんの手は優しく、暖かかった。
「一刻も早くタウロたちを見つけなければなりません。皆に異論はないでしょう。いいですね?」
一同は頷く。
「抜丸、今までに入手した情報を」
「うッス」
ごそごそと懐から巻物を取り出し、説明を始めた。
「今まで分かったことは、離反した八名を中心として、独自にはぐれ怪人たちを集めて少しずつ規模を大きくしているってことッス。これはスカウトを断った奴から聞き出しました。そいつの口を借りれば、破壊も盗みも、場合によっちゃ殺しも辞さない生粋の悪を目指す《改革派》って触れ込みだったらしいッス。だいぶ範囲は絞り込めたんッスけど、奴らのアジトは特定できてないんスよ……。まだ一般市民には危害が及んでない、ってのが唯一の救いッスね」
「今回のテロ騒ぎの目撃者からは何か?」
「あー。そっちはまだ無理ッス。警察やら……何だか見慣れない連中の邪魔が入っちまって、ちっとも近寄れないんッス」
「見慣れない連中? それは……どういう?」
「うーん」
抜丸さんは小難しそうな顔をして最も近そうな言葉を選んで口にした。
「パッと見、どっかの企業絡みっぽいッスけど……」
「そうですか。分からなければ今は仕方ないですね。引き続き調べてみてください、抜丸」
「御意ッス! それでは御免!」
言うが早いか、抜丸さんの姿は現れた時と同じように一瞬で虚空に溶けて消えた。
「気になりますね。企業絡み……ですか」
「う、うむ。そうだな」
どうしたら良いのか分からずその場に立ち尽くしていたあたしをルュカさんはゆっくりと玉座の方へと誘った。夢遊病者のような覚束ない足取りでふらふら進み、バランスを崩してどすんと腰かける。
「とにかく。今は我々にお任せください。新たな障害となる者たちの動向については、企業コンサルタントとして採用されている構成員にも注意を払うように伝えておきます」
「頼む。今の私は……無力だ……」
「いけませんよ。そんなお考えでは。先代はこういう時こそ玉座に、でーん、と構えてこう言っていたものです――でぇじょうぶ、何とかならぁ、とね?」
ルュカさんはちっとも似てない物真似で言い放つと、あたしに向けて片目を閉じてみせた。
「主たるもの、何事にも動じない広い御心をお持ちください。貴方様は我々の太陽です。太陽が曇れば、大地は凍てつき、木々は枯れ、皆の心は沈みます」
「……努力しよう」
「はい。お願いします」
ルュカさんは振り返り、高らかに叫びを上げた。
「皆に伝えよ! 我らの主の御意志を! 行け!」
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