第37話 やっぱり脱衣術なんて……生きるために何の役にも立たないことを痛感した一日だった。


 姫川家、別邸の大広間。


 その後、事情を知った彩妹ちゃん、跳姫姉妹、セレーネにこっぴどく叱られた。


 でも最終的には、彼女たちも『奴隷』になることを承諾してくれた。


「では、皆さん。

 お兄ちゃんの右手の甲に浮かんだ太陽の紋章にキスをしてください」


 相手の承認を得た後。


 太陽の紋章にキスすることで契約は成立するらしい。


 でも一度契約を結んでしまえば、死ぬまで奴隷として人生を送ることになるだろう。


「お姉ちゃんとダイスケくんだけを戦わすことなんてできないもん」


 俺が迷っていると彩妹ちゃんは、右手の甲に浮かんだ太陽の紋章にキスをする。


『姫川彩妹は、露璃村大助の奴隷になりました』


 幼い女の子の声が聞こえてきた。


「ごめん……」


「なんで、ダイスケくんが謝るの」


 彩妹ちゃんは、ちょっとムスっとした顔で俺を見上げた。


 顔がめっちゃ近い。


 ふんわと甘い香りが俺の鼻をくすぐった。


 彼女の長いまつげがよく見える。


「だって、俺が……不甲斐ないせいで……彩妹ちゃん、が…一生……奴隷にして生きていくことに……」


「それはダイスケくんひとりに背負わせて良いことじゃないよね。

 みんなで力を合わせて優勝しましょう」


 俺の胸をポンとついて、彩妹ちゃんはニコリと笑う。


「ええ、彩妹ちゃんのおっしゃる通りです。

 あたしたちも一緒に戦います」


 俺をいたわるように言うと、続けてみちるちゃんが、右手の甲に浮かんだ太陽の紋章にキスをする。


『跳姫魅血虜は、露璃村大助の奴隷になりました』


「王子さまはもっと妾たちのことを頼ってもバチはあらないわよ」


 さらにありさちゃんも、右手の甲に浮かんだ太陽の紋章にキスをする。


『跳姫愛理沙は、露璃村大助の奴隷になりました』


「妹のルナが迷惑をおかけしたみたいでごめんなさい、旦那さま。

 契約を結んでいる風の精霊・シルフにも聞いてみたんだけど……主従の契約を安 全に解く方法は知らなかったわ。

 罪滅ぼしと言ってはなんだけど、わたくしも代理戦争で優勝できるように尽力しますから。

 だから、お願いします。

 妹のことを許してあげてほしいの。

 根はいい子なんです」


 最後にセレーネも、右手の甲に浮かんだ太陽の紋章にキスをする。


『セレーネは、露璃村大助の奴隷になりました』


「妹想いの優しいお姉さんに免じて許してやるよ。

 それに面倒ごとに巻き込まれるのは慣れているからな」


 ドンと俺は自分の胸を叩いた。


「ありがとうね、お兄ちゃん」


 ルナちゃんが俺の右腕に抱きついてきた。


「みんな、そろそろ夕食にするわよ」


 姫川さんは食堂に入ってきた。


 そしてみんな仲良く夕食を食べた。




翌日


 自室。


 初夏の日差しがふりそそぎ、スズメが軽やかにさえずっているな。


 平和だな~~~。


 今日は日曜日で学校に行かなくてもいいし、2度寝するのもいいかもしれないな。


「た、大変なことになっちゃったよ」


 叫び声を上げながらルナちゃんが、部屋のなかに飛び込んできた。


 服装は、薄い生地きじでできた丈の短いワンピースを腰帯こしおびで留め、背中には羽衣はごろものよな布を幾筋いくすじも垂らしているな。


 なんとも幻想的なファションだな。


「いったん、落ち着け!?」


「落ち着いてなんていかれないよ。

 脱衣演舞で優勝した『露璃村大助』が参加していることを知ったエルフたちは、 素っ裸にされることを恐れて、わらわたちのことを出場停止にしちゃったみたいなのよ」


「そんなバカげた理由で、出場停止にしたのかよ。

 でも、エッチな魔法しか使えないって理由で、セレーネとルナちゃんを里から追い出す連中だもんな……それくらいのことをやっても不思議ではないのかもしれないな」


「なんで、お兄ちゃんはそんなに冷静なのよ」


 青筋とでも呼べばいいのか、漫画的に言えば『キレてる』マークが、ルナちゃんのおでこに浮かんでいた。


「だって、俺……別にエルフの女王になりたいわけじゃないし、だいたい堅苦しいのは苦手なんだよね。

 もちろん、主従の契約を安全に解く方法は、知りたいけど……やっぱりエルフの女王にはなりたくないな。

 だから、結果的には良かったんだと思うよ」


「やっぱりお兄ちゃんは、変わってますね。

 普通なら、ここは『怒る』ところなのに。

 でも、わらわもあんな里に未練はありませんから。

 どこまでもお供しますよ」


「ありがとう、ルナちゃん。

 でもこんなことになるなら、昨日さきばしって、彩妹ちゃんたちを奴隷にする必要もなかったよな」


「後悔されているんですね。

 でも、皆さんは特に気にされていないみたいですよ」

 ルナちゃんがそう言うと、姫川さんたちが部屋に入ってきた。


「私、露璃村くんこと信じてるから。

 だから怖くないよ。

 一人前いちにんまえの奴隷になれるように頑張るから」


「ええ、わたしもダイスケくんのことを信じてますわ。

 今まで以上に可愛がってくださいね」


「もちろん、妾も王子さまのことを信じていますから。

 ビシビシ、調教してくださいね。ご主人様」


「あたしも、主さまのことを信じていますので、夜のご奉仕が必要なときは遠慮なくお呼びくださいね」


「わたくしも旦那さまのことを信じています。

 なんなにとお命じくださいね」


「わらわもお兄ちゃんのことを信じているのじゃ。

 何があって見捨てたりしないって」


 6人の美少女が一斉に迫ってきたのだった。


「ごめん……そういうのは、無理だから……俺は……姫川さんたちを……そういう目では見られないよ」


 俺は気恥ずかしくなり逃げ出してしまう。


 やっぱり脱衣術なんて……生きるために何の役にも立たないことを痛感した一日だった。

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