知らない間に建っていた隣家の美少女がなぜか俺にぞっこんで

新巻へもん

第1話 煩悩

 ギシギシ。アンアン。


 前川圭太は壁をドンと叩く。超絶的にイライラしていた。現在、期末試験の一夜漬けの真っ最中である。しかも明日は英語だ。前期で37点だった英語。更に今期は授業について行けない感がマシマシだ。neighborがどうしてネイバーなのか。GとHの存在意義はなんなのか。どうしても分からない。


 なのにである。隣室では父親がGカップとエッチの真っ最中であった。まあ、別に圭太はそのGカップには興味はない。なぜなら自分の母親だからだ。おっぱい聖人だがさすがに自分の母親に欲情するとかありえなかった。自分の巨乳への関心の高さが父親譲りだとすると頭が痛い。普通、子供が勉強してる部屋の隣でここまで盛り上がれるのか?


 壁ドンが効果を現したのか、しばらく静かになって、圭太はプリントに集中しようとするが、すぐにまた聞きたくもない効果音が聞こえ始める。圭太はため息をついて、ヘッドフォンを耳に当てるとスマフォに入っているお気に入り曲を再生した。ふう、これで集中できる……わけがなかった。当然だがアップテンポのリズムは暗記には向かない。


 翌日、目を充血させながら圭太がリビングダイニングに行くと朝っぱらから父親の敏郎と母の遥香が熱いキスを交わしているところだった。

「おう、圭太お早う」

「圭ちゃん、お早う」

「ああ、おはよう」


「あら? 圭ちゃん、そんなに目を腫らしちゃってどうしたの?」

「今日は期末試験だというのに大丈夫なのかい?」

 圭太は肩を震わせる。

「お前らのせいだろっ。息子の部屋の横で何してやがる?」


 両親は顔を見合わせると不思議そうな顔をする。

「そりゃあ、久しぶりだからな。お互いに愛を確かめあっていたんだが」

「色々忙しくてトシローに会うのも一月ぶりですもの。そりゃあね」

「普通は、思春期の息子の前でそんなにあけっぴろげにするもんじゃねえだろ?」


「我が家はオープンなんだ。前川家の家訓だという話は前にしただろう」

「だって、夫婦ですもの。別に悪い事じゃないでしょう? ね?」

 圭太は毎度のことながら脱力する。だめだ、こいつら。もう手遅れだ。

「ああ。そんなことより朝ごはんね。すぐ支度するから」

 母親はニコリと笑うとキッチンに向かう。


 すぐに砂糖としょうゆの甘い香りが漂いはじめる。ほどなく、ほかほかのカツ丼と漬物、赤だしの味噌汁が運ばれてきた。

「圭太。心配しなくても大丈夫だ。遥香のカツ丼は最高だからな。これを食べて出かけた日でうまくいかなかったことはない。もちろん、味も世界一だがな」

「やあねえ。トシローったら、お世辞ばっかりうまくなって」


 体をくねらせて頬を染める母親を見ながら圭太はかねてからの決意を新たにする。カツ丼を口に入れると卵のふんわりとした感じと甘じょっぱさの調和が口内を侵略する。確かに旨い。

「あのさ、俺、来年度からは親父と住もうと思うんだけど」


 圭太のアツアツバカップルな両親は仕事の都合で別居中である。それぞれ仕事が忙しい。圭太が中学2年に上がる年に転勤になった母親についてこの家に引っ越してきた。その頃は父親の仕事の忙しさが尋常でなく、色々と学校関係への関与に対して比較的に時間が取れそうだったのが母親だったからだ。


 幸せそうな顔で二人を眺めていた遥香の顔が曇る。

「圭ちゃん。どうしたの? なにかお母さんと暮らすのが不満?」

 味噌汁でメガネを曇らせた敏郎が顔を上げる。

「まあ、お前も高校生だ。好きにすればいいが、理由を聞かせてもらってもいいかな? 何か学校であるのか?」


 基本的に遥香と敏郎は、良い母であり父である。人の道に外れさえしなければ好きにしろだし、勉強しようがしまいが不干渉。圭太が中学校で面倒なことになったときに、仕事をおっぽり出して駆けつけてきて、校長以下を締め上げた敏郎の行為はなかば中学校で伝説になっていた。


「いや、楽しく通ってるよ」

 楽しいというのは大げさかもしれない。野郎ばかりで潤いが無いが不満というほどでもない。学校生活に問題があるわけでは無かった。

「じゃあ、何が問題なんだ?」


 敏郎の顔に理解が広がる。

「そうか。まあ、圭太も年頃だからな。そういうモノを自由に観賞したいが、母さんだと色々と困ることがあると。そういうことか」

「ちゃうわっ! 観賞中に部屋に入って来られたら困るのはどっちでも同じだろ、って何を言わせんだよ」


「まあ、引っ越してきてもいいが父さんのコレクションはこの間処分されてしまったから貸してやれないぞ」

「誰が親父のものを借りるか、あほっ」

「あら。処分されたのが残念なように聞こえるわね」


 遥香に言われて敏郎は慌てる。

「いや。私も遥香が一番だよ。しかし、一人では寂しくてね」

「私の自撮り画像があるでしょう?」

「もちろん愛用してるさ。ああ、それはいくら圭太でも貸してやれないからな」


「絶対借りんわ」

「そうか。残念なような残念じゃないような」

「話がずれまくってるんで戻していいか? あまりもう時間もないんで」

「ああ、そうか、引っ越ししたい理由だったな。それは何なんだ?」


 圭太はきゅうりの漬物を飲み込みながら言った。

「強いていうなら、この家かな」

「まあ、確かに向こうの家の方が広いが、ここでも十分に暮らせるだろう?」

「この家は壁が薄くて丸聞こえなんだよっ。聞かされるこっちの身にもなってくれ」


「そうか。それは配慮が足りなかったかもしらん。しかし、圭太も彼女を作ってよろしくすればいいだろう?」

「男子校で出会いがないわっ! つーか、未成年の異性交遊を勧める親がどこにおる?」


「圭ちゃん。別に悪い事じゃないわ。もちろん無理強いとかはダメよ。でも、お互いの気持ちがあるのだったら別にお母さんは止めないわ」

 いや、むしろ、全力で止めてくれ。圭太はこめかみにジワリと痛みを感じる。

「あ、でも避妊はちゃんとしてね。30半ばでお祖母ちゃんにはちょっと早いと思うの」


「また話がずれてるだろ。それより、そろそろ俺、学校に行かなきゃいけないんだけど、引っ越しの件ダメかな?」

「まあ、いいんじゃないか。お前の気持ちは尊重しよう」

 遥香はため息をつきながら言った。

「仕方ないわね。じゃあ、私が頑張って二人に会いに行くわ」


 朝からの両親の会話にどっと疲れを覚えた圭太だったが、取りあえず了承を得られたことで、ご馳走様と席を立つ。食器を台所に運んで行って、学校へ行く支度をした。まずは、赤点を回避しなくてはならない。転校先で1年生からやり直しとか勘弁してほしかった。


 転校先は共学になるはずだ。色っぽい巨乳の部活の先輩とか、ボーイッシュで元気だけど巨乳な同級生だとか、色白清楚な巨乳な図書委員の後輩とか、そういう女の子との出会いがあった時にダブりでは様にならない。圭太はつっかけた靴の踵を直しながら元気よく学校へ向かって駆けだした。待ってろよ。俺の巨乳ちゃん達。





 

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