第51話リンという特効薬part3

 ルークに手を握られたリンは不思議な感覚を味わっていた。覚えている筈など無いのにまるで母親の子宮の中にでもいるか様に全ての者から守られている感覚。

 ここではどんな不安もない絶対領域、ここは子宮に似ている。

 でも


「ルーク様……ここは」

「ルーク」

「………(こんな時でもブレないな)」

「リ~ン?」

「ルー様、ここは?」

「愛称か…まあ良いでしょう。何ですリン?」


 何で上から!?とちょっとイラッと来たけれど、今この状況を説明出来るのはルーク様だけなのだ。


「始まりの魔女が作った聖域」

「始まりの魔女?」

「神界を追放された女神が始まりの魔女と呼ばれる様になったんだ。その彼女が作った神域が此処」


 ルーク様から聞かされた内容はこの国に住んでいれば誰でも知っているお伽噺そのものだった。

 リンも勿論お伽噺は知っている。


 驚いたのはリンだけじゃない。

 ルークによってその他大勢に一括りにされた、いや、空気扱いされた面々はリン以上に驚いていた。

 ルークが言っていた事が本当なら、この国のトップシークレットに触れた事になる。

 それ程始まりの魔女の件はこの国ではデリケートな問題なのだ。


『あの公爵………しれっと爆弾発言してくれるわね』

『知りたく無かった』

『ルーク様!!』

『絶対に業とよ。私達を巻き込むつもりなのよ』

『リンを連れて逃げません?』


 大きな声こそ出さなかったが、壁の花(実際には壁など無いのだが)と仮した3人は各々感情を吐露した。


「っつ!」


 大声とは言わないが通常会話の声量をバンは出して、片手で額を擦っていた。

 カリン達が言った言葉には反応しなかったが、バンの言葉に反応したルークが放った魔法がバンの額にヒットしたのだ。

 もちろん威力はコントロールされているがめちゃめちゃ痛い。バンじゃ無ければ悶絶ものだろう。


『馬鹿ね…魔王の性格ぐらい正確に把握しなさい』

『………(あのクソ公爵!)』


 カリンは大丈夫?とは聞かない。

 バンの力量を正確に把握しているからだ。


「バン?どうかしたの?」


 流石に声で気付いたリンがバンを見ようとするとルークにやんわりと制止された。


「大丈夫だよ。バン君はちょっと虫に刺されただけだから」


 ニッコリと全ての女性を魅了しそうな微笑みでルークはリンを見つめた。

 うっかり忘れそうになるがルークは他に類を見ない美丈夫なのだ。


「虫に刺された位じゃ、バンは声なんて出しませんよ!」


 尚もバンを気に掛けようとするリンを止めたのは他ならぬバン本人だった。


「あ〜、リン。(お前は)気にするな。


 バンは一瞬鋭い目つきをすると直ぐに何時ものバンに戻った。


「そう?」


 バン本人が言ったのだからと腑に落ちないながらもリンは頷くしかなかった。

 脱線してしまったが、ルークは話を進め始めた。

 勿論3人に拒否権はない。


「彼女は魔女と呼ばれる存在では決してなかった。ただ人間を愛し、その人の子供を産もうとしただけで粛清された。愛の女神として彼女は間違ってなんかなかったのにね」


「何で駄目だったんですか?」


 純粋な彼女だからこその、最もな質問だ。


「さあ、ホントの意味は神様にしか解らないけど、もしかしたら神様の矜持というやつなのかな」


「魔女は一人何ですか?」


「正確には彼女一人を指していうから、正解でもあり、間違いでもある」


「何ですかその謎掛けみたいな答えは……」


 呆れた表情をリンは見せた。

 シンプルな彼女は、面倒臭い複雑な感情は余り好きじゃないのだ。


「謎掛けか、言い得て妙だね。彼女を慕い、彼女に付いてきた者、魔女の眷属を、総称して魔女と呼ぶようになったのさ」


「ルー様は、魔女何ですか?」

「女性しか魔女にはなれないよ」

「まあ、魔の女で魔女ですからね」


 ルークは真顔でそんなことを言うリンを微笑ましく見つめ頭をよしよしと撫でた。


「そうだね。でもそれだけじゃなくて、愛の女神の眷属だから、子を産み生むことができる者だけ、女性にしか魔力は宿らない」


「!!……じゃあルー様はホントは女性何です!?」


「俺がリンと違う女性じゃ無い事は、リンが一番知ってるでしょう?」


 ルークはリンの肩を抱き寄せ、リンにだけ聞こえる様に耳元で、艶めかしい声でそんな事を言ってくるから、慣れてないリンには刺激が強い。

 囁かれた方の耳を両手で抑えて顔を真っ赤にしているリンを、ルークは嬉しそうに、カリン達はルークに向けて呆れた目線を送った。


「公爵、魔女には男性が生まれない話は私達風の谷も知っている。なのに何故貴方は魔力が使えるのか?」


 カリンは何時もの表情ではなく、鋭い…風の谷の暗殺者カリンのものに変わっていた。


「母親が魔女だった。俺は確かに父と母の子供だ。なぜ俺に力が使えるのかは俺にも解らない。ただ、男だからなのか不完全で扱いきれていない」


 ルークにしてみればリンの能力の方が不思議だ。

 リンが持つ能力は魔女のものだ。

 風の谷は彼女の能力を知っていると見て間違いないだろう。

 なぜその能力が備わっているのか?風の谷はなぜ彼女を保護しているのか?

 解っているのは、リン自身は自分の能力を知らない事からすると、風の谷は彼女に意図的に能力を隠している。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る