第14話

「これはいったい、どういうことかしら?あなた達はお留守番もろくに出来ないと思っていいのかしら?」

シュヴァリエを護衛につけてからは気持ち的にも楽にはなった。

寝る時すらも気が抜けず疲れも徐々に溜まってきていた。なので夜の護衛はありがたい。

この国の人間は誰も信用ができない。

嫁いで二週間目になる。

シュヴァリエとカルラを連れて外に出ていた。

戻ってみると泥棒にでも入られたのではないかと思うぐらい部屋が荒らされている。

故国から持ってきたドレスはズタボロだ。

部屋にはヘルマとエウロカを待機させていた。

「申し訳ありません」

エウロカは言い訳もせずに頭を深々と下げる。まるで自分だけが悪いのだと言うように。

「私がちょっと目を離している隙に気がついたらこうなってたんです」

あくまで自分のせいではないと主張するヘルマ。

ここの使用人も臣下も本当に質が悪い。

「目を離していたですって?」

ギロりと睨むとヘルマはわずかにたじろぐ。

「主人がいない間に部屋を荒らされていたのなら管理をしている使用人の責任。留守を任されたのに大した理由もなくその場を離れたというのなら職務怠慢ね。信用問題に関わるわ。それともクビになりたいのかしら?」

にっこりと微笑んで言えばヘルマご目を見開き、はしたなくも声を荒らげる。

「はぁ!?有り得ないんですけど。なんで私があんたに首を切られないといけないわけ?」

怒りのあまり、敬語が抜けてるんだけど。

本当にここの侍女はダメね。この程度で仮面を脱いでしまうなんて。

田舎貴族の使用人だってもっとまともなのを雇っているわよ。

「あなた知らないのね。王宮の使用人の任命権は王妃にあるのよ」

「こんなの横暴だわ!私は何もしていないのに」

「だから私は怒っているのよ。主人の留守を守ろうとしなかったあなた達を」

「嫌われ王妃のくせに」

ヘルマは私を睨みつけた後、踵を返した。

ばんっ

壊れるのでないかと危惧するぐらいの勢いでドアを閉めてヘルマは出ていった。

それからすぐに部屋を後宮に来るようにとユミルの遣いが私の元にやって来た。

私を自室に呼びつけるなんていったい何様だ。

「私はユミルの使用人ではなければ格下でもないわ。用があるならそちらから出向きなさい」

と、追い返した。

すぐにユミルはやって来た。

不機嫌そうではあるが、一応淑女の笑顔は携えている。

わざわざ来てやった感はひしひしと伝わってきた。

荒らされた部屋はカルラとエウロカに綺麗に片付けてもらった。

「それで私に何の用なの?」

「エレミヤ」

「王妃様か殿下よ。あなたに名前呼びを許した覚えはないわ」

ユミルの言葉を遮るように言う。ユミルは眉間に皺を寄せた。

「私はカルヴァンの番なのよ」

「知っているわ。だから何?私は隣国の王女でこの国の王妃。対してあなたは元庶民の愛人。立場は私の方が上よ。公爵はあなたに貴族の礼儀作法を教えなかったのかしら?」

小馬鹿にしたように鼻で笑ってやればユミルからぎしりと奥歯を噛みしめるような音が聞こえた。

あらあら可愛い顔が台無しよ。

「プライドと立場しか持っていないのね、あなたは」

負け惜しみのようにユミルは言うけど私はその言葉が臍で茶を沸かせるぐらいおかしかった。

「何を言っているの?あにたは何も持っていないじゃない」

「私はカルヴァンに愛されているわ!」

だから何だ。

これだから何も知らずに貴族入りした元平民は困るのだ。

「カルヴァンにのみ影響を及ぼせないなら国にとっては必要ないわ。この国に大きな影響を与えられるからこそ私はこの国の王妃なのよ。あなたでは力不足」

「っ」

ユミルは目に涙を溜めて部屋から出ていった。

彼女は私に用があったはずだけど、まぁいいか。

彼女の用なんて興味無いし。

どうせ、この後も面倒なことが起こる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る