「逃げ出す砂は止まらない」

「…ねえ、結局何をしたのさ。」


ジョン太の質問にスキューマは

『本当にこの子はものわかりが悪いなあ』

という顔をしながらも答えてくれました。


『砂を、私どもと同じナノロボットに変化させたんです。

 変化した砂は同種の砂を感知するととくっつきあって、

 同じロボットに変化させるように特性を持たせました。

 それを繰り返していくことで砂は一つの意思を持った塊へと変化し、

 やがてはここから出ていくことになるでしょう。』


「なんで出ていくのさ。」


相手の説明にちんぷんかんぷんのジョン太に、

スキューマは『やれやれ』と言わんばかりに

首をふって答えます。


『この島の砂はとうに許容範囲を超えた量になっていました。

 砂が一つの生物として物を考えるようになれば、

 ここはきゅうくつな場所だと判断すること間違いありません、

 そうなれば、さっさと出ていくに決まっているでしょう?』


たしかに、そんなにせまい場所なら

僕でも出ていくなとジョン太は思いますが、

もし猫みたいにせまい場所の好きな生き物だったとしたら、

余計に入りたがるんじゃないかという心配もうかびます。


ですが、それ以上考える前に

ルナの悲鳴に近い声がひびきました。


「待って、なんで彼女の箱まで!」


みれば、集まりつつ砂の大部分に混じり、

オリジナルの『ルナ』の入った箱も

いっしょにズルズルと動いていきます。


それにスキューマは『んん?』と首をかしげた後、

すぐに合点がいったようにうなずきました。


『あー、砂が箱の中にも入っていたんでしょうね。

 下手をすると中のシステムにもナノロボットが

 入り込んで干渉してしまっているのかもしれません。』


それを聞いてルナは真っ青になります。


「え、待って。それじゃあ砂が混じって故障した

 他のロボットも同じようなものじゃない。」


ルナが声を上げた時、ベキバキッとはでな音がして、

壁の中から蛍光ランプをつけた武装したロボットが出てきます。


「大変、警備ロボットよ。

 クローンを探すために近くにいた

 警備ロボットまで砂に侵されていたんだわ。」


彼らはジョン太たちを捕まえるでもなく素通りし、

集まりつつある砂や箱といっしょにドアへと向かいます。


そして、最後の警備ロボットが来る頃には、

ドアはロボと砂と箱との圧力に負け、

バキリと音を立ててこわれてしまいました。


「早くつかまえなくちゃ。

 箱はがんじょうに出来ているけれど、

 彼女の身に何かあったらいけない!」


なだれのように外へと出ていくロボットたちを追って、

ルナは外へとかけ出します。


ジョン太もパトリシアでさえもそれに続き、

一行はごっちゃになった機械と砂の塊を追って、

管理棟の廊下へと走り出ます。


そして、前方を走るロボットと砂の群れは

じょじょに大きくなっていき、

ジョン太たちが管理棟を出る頃には、

すでに象ほどの大きさの塊へと変化していたのでした。

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