「砂の海と泡ボトル」

 吹きすさぶ風と波の音。

 …ですが、そこに水はありませんでした。


 眼下に広がる白色の砂。

 波打ち、生きているかのように動く砂の海。


 ジョン太の目の前にどこまでもそれが広がります。


「え、なにこれ」


 声をあげると風に乗った砂が口の中に入りこみ、せき込んだジョン太は慌ててマスク代わりに持っていたハンカチで口元を覆いました。


「すごい、どこまで続いているんだろう」


 砂煙のせいで遠くまで見えませんが、砂漠のような光景はどこまでも続いて、その中にポツンとこの建物だけがあることが奇妙なことのように思われました。


「ここは、何の目的で建っているんだろう?」


 ジョン太は外に出るとサビついて壊れそうな手すりにつかまりながら、建物の周りを巡ってみることにします。ジャリジャリとした足場を慎重に踏みしめながらしばらく歩くと、建物の反対側で半ば砂に埋もれた階段を見つけました。


「…ちょっと降りてみるか」


 砂のだいぶん吹き溜まった階段を慎重に進んでいくと、一階分も降りないうちに埋もれた砂によって地面に足がついてしまいます。


「なんだ、もう終わりか」


 それでも先が見たいので砂煙の中にじっと目を凝らすとアリジゴクの巣のようにくぼんだ砂中から、わずかに顔を出す石彫りの『6』の字が見えました。


「んー?」


 でもそれが何を意味するのか、ジョン太には見当がつきません。


「…というか、こんな砂っぽいところ。パトリシアは長いこと居られないな」

 

 ジョン太はその事実にようやく気づき、元来た道を引き返します。


「んー、でもこれじゃあ、ますますここがどこだかわからないよ。砂がこれだけ降り積もっているってことは、さらわれたバスの地点からそう遠くには行ってないような気もするけど…パトリシアを見つけるまで帰れないしなぁ」


 そうボヤキつつも重い鉄の扉を開けて建物内へ戻るジョン太。


 ついで、扉のハンドルをガチャンと閉めたところで、突然グウゥという盛大な音が鳴りひびきました…どこから?ジョン太のお腹から。


「お腹すいたかも…」


 空腹感にお腹に手を当てるジョン太。時計を持ってくるのを忘れたので時間はわかりませんが、まもなくお昼頃だと考えます。


 とりあえず腹ごしらえをしてからパトリシアを探そうとジョン太はリュックの中に手を突っ込み、おじいさんの作ってくれたサンドイッチを探すためゴソゴソと中をいじくりまわしますが…そこで妙な手応えを感じます。


「あれ?」


 取り出してみれば、それは店などでよく見るようなシャンプーの泡ボトル。


 ですが表面には普段使うシャンプーとはまったく違うロゴと商品名が書かれており、ジョン太は首を傾げます。


「『イデア・アイランド製・泡の妖精〜ただし願い事は100回まで〜』これ、おじいさんが入れたのかな?でも、荷物にタオルや石鹸は入っていないし」


 そういえばパトリシアがバスの中で遊んでいたシャンプーボトルも同じようなパッケージだった気がします。


 でも、こんな製品、町の商店でもドラッグストアでも見たことがありません。

 ましてや妖精なんておとぎ話の世界の存在です。

 シャンプーボトルにぎゅうぎゅうにでも詰まっているのでしょうか?


「願い事って何だろう?…もしかしてランプの魔人でも出てくるのかしらん?」


 ボトルに興味津々のジョン太は、とりあえず泡ボトルを一度だけプッシュし、

中身を手のひらに出してみます。


 するとモコっと手の平サイズの小さな泡が出たかと思うと、みるみる形が変わっていき…


 気がつけば、ジョン太の手の平の上。

 泡製の可愛らしい帽子と服を着た泡の顔をした小人が立っていたのでした。

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