「砂の雨に打たれて」

 視界が悪い中、車内とバスの周囲にポッとライトが灯ります。


 ですが、周囲が見えないのは相変わらずで、ジョン太は自分たちの乗っているバスがどこをどう走っているかさえわかりません。雨は、細かい砂の粒でできており、ワイパーが動くとフロントガラス全体にザリザリと嫌な音がします。


「ああ、『砂の雨』が来たようだ」


 気づくと数式を書いていたヨシローが顔を上げ、窓の外を眺めています。


「10年前からこの辺りで見られている現象だ。雲もないのに降ってくる砂つぶはこの辺りの砂と成分が違うそうだが…原因不明の異常気象と言われているよ」

 

 ジョン太は砂の積もった道路を見ていましたが…ふと、砂浜で遊んでいる時に風に巻き上げられた砂煙を思いきり吸い込んでしまったことを思い出しました。


 あの時には、口や鼻の中に入ってくる砂にゴホゴホとむせて苦しかったのですが、ここまで激しく砂が降ってくるのでは満足に息をすることすらできないように思われました。


「市では防護服とマスク。家に入り込む砂をきれいにしてくれるクリーナーロボを配布しているそうだが、砂で陽の光が遮られてしまうから農作物は育たないし、健康を心配して引っ越した家も多い…こうなるとあと数年もすれば、ここは誰もいない土地になってしまうのかもしれないね」


 ヨシローの言葉に誰もが口をつぐみ、バスの車内は砂の雨音だけが響きます。


「でも、この付近を通った飛行機のレーダーに何か大きな物体が映ったって噂もありますよ。もしかしてUFOかも…誰かそう思いませんか?」


 そう言って、ジュンはカバンから取り出したオカルト雑誌を振り回しますが、ヨシローはそれに首をふります。


「無いだろうなあ、たとえ宇宙人の仕業だとしても、この地域だけに現れることに何の意味があると言うんだ?」


 すると、ジュンはキラキラ…というかアブナイ目をしながらこう言いました。


「…そうです、交信すればいいのです。みんなで手をつなぎあって意思疎通のための呪文を唱えれば、きっと向こうの方々ともお話ができるはずです」


 アンナはその様子に何かを察したのか、ハンモックの奥に引っ込みます。


「あ、それ私パス。変なの来たら嫌だもん」


 するとジュンは素早く動き、手近にいたヨシローの手をつかみました。


「では、ヨシローさん、共に手をつないで祈りましょう」


 ヨシローは慌てた様子で腕をブンブンふりますが、いかんせんジュンの握力の方が強いのか手がほどけません。


「こら、俺の手をつかむなよ。俺は科学以外信じないんだから」


「ちょっとだけ、ちょっとだけでいいですから!」


 おかげで車内はワチャワチャとなり、ちょっぴり楽しげな雰囲気になりましたが、突如ガタンという音ともにいきなりバスが止まってしまいます。


「え、着いたの?」


 ジョン太はもう目的地に着いたのかとびっくりしましたが、周囲は降り仕切る砂のせいで建物の影さえ見えません…すると、車内にアナウンスが流れます。


『緊急停止、緊急停止。ただいま障害物との接触により、停車をいたしました。本車両に異常がないか、確認のため車掌が外へ出ますので、乗客の皆様は車内に残っていただくよう、お願い致します』


 同時に今まで運転席に座っていたロボットがズイッと立ち上がり、ゴトゴトと音を立てながらドアの方へと向かいます。


 その時、ジュンがポツリとこう言いました。


「あ、開けない方が良いですよ。バスの中の一人と一匹が減ると、僕のフクロウ占いで出ていましたから…」


 ついで、肩に乗ったフクロウが「ホウ」と声を上げます。


「え?」


「どう言うこと?」


 あっけに取られるアンナとヨシロー。


 そしてドア前まで来たロボットがドア横の開閉ボタンを押した瞬間、大きくて真っ白な腕がバスの車内へと入り込んで来ました。


「ひゃあ!?」


 白い腕はあっという間にジョン太とパトリシアを引っつかむと彼らを砂の豪雨降りしきる外へ連れ出してしまったのでした…

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