「最後の脱出」

「急いで、ロボット一体の欠けもダメだし、

 人間だって一人も置いてっちゃだめよ!」


クロサキの指揮のもと運搬用のロボットたちは、

縛り上げられたサカモトやその場に倒れている人たちを

次々と飛行船の中へと運びこみます。


その時、5回目の大きな揺れがジョン太たちを襲い、

先に乗り込んだジョン太たちは必死に飛行船の

座席にしがみつきます。


「あー、全く盲点だったわ。そうだった、

 この島はもともと宇宙空間に浮かんでいたんだもの。

 重石である砂がなくなった以上、空に浮かぶのは当然だわ。」


そう言って頭をかきながら

外を見つめるクロサキの視線の先には、

もはや動くことのないロボット達の残骸と、

その残骸を長短の巨大な板状の針で次々と押し潰していく

島の地面いっぱいに広がる巨大な時計の姿がありました。


…それはかつて、ジョン太が砂の上から見ていた数字の正体であり、

動力はジョン太が倒れていた塔の最上階にある大量の歯車が

動き出すことによって作動するものだったのですが、

その事実をジョン太は知る由もありません。


「まさか砂の下にあんな仕掛けがあるとはね、

 時計を模した空飛ぶ宇宙船だったというわけか。」


緊急発進する飛行船。


時計の針が動くたびに島内の塔の中の歯車はせわしく動き、

その動力によって島の下部に取り付けられた巨大な羽が

プロペラのように回転し…島はぐんぐん上昇していきます。


「島全体の力場を逆にすることで上昇する巨大反重力装置。

 空間研究の第一人者であるシギヤマ夫妻の最高傑作だけあって、

 なかなかの圧巻ね。」


ハッチが閉まり飛行船が離陸してもルナとジョン太、

そしてジョン太の膝で抱えられたパトリシアは

空高くへと去っていく島の行方を窓から見上げます。


「もう半ば浮上もしてるし、高度も高いし、

 次はロケットでも飛ばさないと追いつけないわね。」


そうつぶやくクロサキに、

ジョン太はポツリと漏らします。


「…行っちゃった。

 これから、あの島どうなるんだろう。」


ルナは隣でその様子を見ながら、

静かに首を振りました。


「多分、宇宙空間を漂うんじゃないのかしら。

 行き先は軌道計算をすれば出ると思うけれど、

 止めるには莫大なお金と行くためのロケットがいるし、

 今の私にはそんなことを言う権利があるかすらどうか…」


そして、ルナはジョン太の方を見ます。


「ねえ、ジョン太。この先、私は誰かに引き取られて、

 ジョン太とは一緒にいられなくなってしまうだろうけれど、

 …ジョン太はこの先、何がしたい?」


ルナの質問。


ジョン太は一瞬、これが別れる前のルナの最後の質問であり、

あえて自分の話題に触れないようにしていることを感じますが、

ジョン太はそれに気づかないふりをしつつ、答えることにします。


「んー、結局夏期合宿にもまともに入ってないしなあ、

 だからと言って騒ぎの原因の青少年学習機構にも行きたくはないしなあ…

 あ!そういえばクロサキさん。施設にいた三人は大丈夫かな?」


ジョン太はルナを悲しませないよう、

あえて話題をそらそうとクロサキに語りかけます。


すると、どこかにテレビ電話をかけていた

クロサキはタブレットを片手に「ん?」ふりむきます。


「アンナちゃんとヨシローくんとジュンくんのこと?

 …それなら大丈夫よ、施設には私以外の捜査員もいるから、

 他の子達と同様に今は安全な場所に保護されていて、

 教育プログラムもそのまま継続しているわ。」


そうして、タブレットの映像画面を切るクロサキ。


「…それに、理事長だったサカモトは施設の重要機器である

 イデア博士の作った能力測定機器には手を出せなかったからね。

 以前から、あの施設の装置にはハッキングできないように、

 いくつもの複雑なプロテクトがかけられていたから操作できなかったみたい。

 だから施設の職員だけ入れ替えれば、また元のように経営できるわ。」


ついで、「あ、そうそう」と、

つけ加えるクロサキ。


「三人の近況だけど、ヨシローくんは

 今まで書き溜めていた宇宙開発の論文を再評価してもらって、

 近々、政府の宇宙開発機構の候補生として、

 今秋から付属の大学に通うことになったわよ。」


それにジョン太は目を丸くしますが、

クロサキは指折り言葉を続けます。


「アンナちゃんは合宿の頃からヨシローくんが気になっていたみたいでね、

 コミュニュケーション能力と言語能力の訓練をしながら、

 ヨシローくんと同じ大学で論文の翻訳のお手伝いをすることになったし、  

 ジュンくんは瞬発力と運動能力が飛び抜けていたから、

 陸上の選手としてフクロウを連れてスポーツ推薦校に行くみたいよ。」


そうして一通りの説明をしてくれたクロサキに、

ジョン太は「ふーん」と感心の声をあげます。


「みんなできることが見つけられたのか…良かったじゃん。」


そんなジョン太にクロサキは小さく笑いかけます。

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