「ジョン太、島から出る」

 ヒャン、ヒャン、ヒャン


 真っ暗な中で聞こえる犬の声。


 可愛らしくもけたたましい鳴き声にジョン太がたまらず宝箱の蓋を開けると、そこにしっぽをふるパトリシアの姿がありました。


「あれ、めずらしくゴキゲンだね。パトリシアがこんなに喜んでいるところを見るのは、僕はじめてかも」


 みれば真っ白なパトリシアの毛がほんのりと赤く、それが雲の切れ間から覗く夕日によるものだとジョン太は気づきます。


「げ、僕どれくらい気を失っていたんだ?」


 よっこいしょと砂の中に半分うまっている宝箱から出るとジョン太は「うう」と、軽くうめいてから伸びをしました。


「あー、体のあちこちが痛いよ。まるで何時間も箱の中にいたみたい」


 そう言って顔を上げたジョン太ですが、壊れた漂着船の近くにヘリコプターの姿を見つけ、キョトンとします。

 

「あれ、いつのまに。僕らを助けに来てくれたのかな?」


 近づいてみればヘリコプターはピカピカの新品で中を覗いてみるとコンパクトな見た目のわりには広い室内であり、大型テレビにトイレや冷蔵庫も完備されているようでした。


 しかし、運転席には誰もおらず、他に人の気配もありません。


「壊れてるところもないし、誰かが島まで迎えに来てくれたのかな…ああ、ダメだよ、パトリシア。勝手に入っちゃいけない」


 いつしか、パトリシアが開いたドアからするりと乗り込み、運転席に置かれたカードをクンクンとかいでからヒャウンとジョン太に吠えました。


「え、ここに何か書いてあるって?」


 つられて中に入ってみると、置かれていたのは一枚のディスプレイカードで、ほんの少しかたむけると音声が流れ出します。


『本日は「お子さまも安心自動運転つきヘリコプター」をお買い上げいただき、

ありがとうございます。こちらの商品はお客様が行きたい場所を考えるだけで目的の場所まで連れて行ってくれる便利なヘリコプターです。安心安全設計で冷蔵庫にはジュースやお菓子も入っており、オプションとしてアニメチャンネルの見られるテレビや暇つぶし用の最新ゲームも搭載してます』


「え、なにそれ。すげえ」


 ジョン太はゲームの言葉に刺激され、カードをポケットにしまうとテレビへと向かいますが同時に横のドアがガチャンと閉まりヘリコプターが音もなく滑りだしました。


「あ、出発しちゃった」


 テレビ画面に張り付いたジョン太は呆然としますが、すぐにヘリの内部になめらかな音声が流れはじめます。


『目的地、おじいさんの家。到達時間15分…どうぞ、楽しい旅をお過ごしください。冷蔵庫の飲み物もご自由にどうぞ』


「…救助用のヘリじゃあなかったのかな?でも、人が持ってる自動ヘリだったら持ち主の確認とかしないと動き出すこともないし」


 困惑しつつもジョン太は冷蔵庫に行き、適当に取った瓶入りオレンジジュースの蓋を取って飲み出します。


「もしかして、船でここにたどりついた人たちはこうしてヘリコプターで脱出したのかな?それだったら、この島に人がいなかったわけも説明がつくんだけど…どうだろうね、パトリシア?」


 しかし、パトリシアは窓の外の景色に夢中らしく、ジョン太はため息をつくとガラスのはまった大きな窓に向かい、一緒に下を眺めることにしました。


 ヘリはぐんぐん上昇し、島はどんどん離れていきます。


 そのとき、ジョン太は島の中心部にある歪な形をした大きな平屋建ての建物を見つけました…周囲を木々に囲まれたその場所は人工的な広場となっていおり、人の気配はありませんが誰かがそこに暮らしていたことを感じさせます。


「あれ、やっぱり人が住んでいたんだ。でも、誰もいない感じ。僕が来る前に、みんないなくなっちゃったのかな?」


 しきりに首をかしげるジョン太でしたが、ついで足元にやってきたパトリシアが何かをくわえていることに気がつきます。


 …それは、ひし形の宝石がちりばめられた赤い首輪。

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