「森の中での決意」

 …歩き出して数分でジョン太は森の中に入ったことを後悔しました。

 何しろ、見渡す限り木々しかありません。


 パトリシアの歩いた獣道も見失った上に、闇雲に道を歩いたせいで自分が来た方角も分からず、もはやここがどこだかわからなくなってしまいました。


「どうしよう。パトリシアに会う前に僕が精神的にまいっちゃうよ」


 ジョン太は不安そうに背の高い草を払いのけます。

 すると大きなバッタが顔に向かって跳ねてきてジョン太は飛び退きました。


「うわあ!」


 ついで、バランスを崩したところでバチャンと水の中に転びます。


 草がぼうぼうと生えているせいでわかりにくくなっていましたが、そこは浅い川の中、みれば、石の隙間に紛れて小さなカニも動いています。


「魚もこの川にいるのかな?」


 そうつぶやいた瞬間、ジョン太のお腹が盛大にグウと鳴りました。


 そうです。よく考えたらジョン太は朝ごはんの後から何も食べていません。

 腹の具合から察するにどうやら10時のおやつ時でしょうか。


「でも、森の中にご飯を食べさせてくれるような人はいないだろうしなぁ…」


 ジョン太は立ち上がると周りを見渡しました。

 …やっぱりというか森の中には人の姿も気配もありません。


 誰かが生活しているのなら、どこかで火を起こしている可能性もあります。

 

 ジョン太は木々の中を注意深く見渡したり、煙の匂いがしないかとパトリシアのように鼻をスンスン言わせて周囲を嗅いでみましたが、辺りには濃い緑の匂いがするだけで何も感じられませんでした。


「つまり、ここには誰もいないんだ。僕とパトリシアだけの…」


(…無人島)


 そんな言葉が浮かんだ瞬間、ジョン太はぞっとしました。

 そして今更ながらおじいさんの忠告が耳に響いてきます。


『…移動島に行ってはならないぞ。行けば嵐に巻き込まれ船がバラバラになる。誰一人、帰ってこれなくなってしまうのだからな』


「…やっぱり、ここがそうなのかな」


 ジョン太はポツリとつぶやきます


 人気のない森。

 たくさんの船が難破してきている海岸。


 確かに『移動島』に漂着したと考えれば波打ち際にあった沢山の船もどれもが壊れて人が乗っていなかったことにも説明がついてしまいます。


「あ、あ、あ…」


 ジョン太の口から声にならない声が漏れました。

 腰が抜けそうなほどの恐怖感がジョン太を襲います。


「…じゃ、じゃあ、巻き込まれた僕はどうなっちゃうんだ?」


 海岸に打ち上げられた遭難船の山。

 嵐に囲まれて逃げられない海。


 人っ子一人いない無人島の中で、ジョン太はこのまま食べるものもままならず、

飢えて死んでしまい…


「いや、ダメだ。ダメだ、ダメだ、ダメだ!」


 死んじゃうなんて、ダメ、絶対!


 ジョン太はベソをかきながら川から上がると森をずんずん歩き始めます。


「だって僕はまだこの島でパトリシアを見つけていないもの。パトリシアに会うまでは絶対に死ぬもんか。」


 そうです、きっとパトリシアもこの森のどこかにいるはずなのですから。


「『移動島』がなんだ。人がいないのなら、僕とパトリシアで住めばいい。そのうちにイカダでも作って脱出すればいいんだ。」

 

ジョン太はそう叫ぶと手近にあった枝を折りぶんぶんと振り回しながら取り通りすがりの木を蹴りました。


「絶対に、生き残ってやるからな」


 ゴンッ


 硬い木を蹴ったため足にしびれるような痛みが走り、ジョン太は足を押さえながらトットとよろけました。


「お、わわわわわ、」


 そうして、数歩も進まないうちに再び水の中に転んでしまい、手の中にあった棒も一緒に川の中へと落ちてしまったのでした…

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