ジョン太の島

化野生姜

ジョン太とサバイバルの島

「不安な船出」

 ジョン太が嵐に巻き込まれたのは夏休み3日目のことでした。


「お前さんらがいるとうるさくて仕事にならん、これで遊んでこい」


 海辺の丘の上にある小さな家。


 おじいさんは町に住む友人から小型の自動運転ヨットを借りてくるとジョン太と犬のパトリシアに海で遊んでくるように言いました。


 波に乗ると帆に風を受けたヨットはすべり出し、右へ左へ、一人と一匹を広い大海原へといざないます。


 空は太陽がサンサンと降り注ぎ、水面はキラキラ光ります。


「でも、僕らは静かにしていたよね、パトリシア。部屋の中にディスコ用のライトを取り付けただけでどうしてあんなに怒るんだろう」


 手すりにつかまりつつ、波しぶきにむせたジョン太は首をかしげました。


 …数日前。

 

 ジョン太はあまりにもヒマだったので、ディスコの音楽を流してパトリシアと楽しく踊って跳ねていたのですが書斎で論文を書いていたおじいさんにうるさいと叱られて以降、禁止となってしまいました。


 なので気分だけでも楽しめたらと思い、手に入れたディスコ用のライトを部屋のいたるところに取り付けたのですが、それでもおじいさんはご機嫌斜めな顔をして、夕方にはライトを全部取り外してしまったのです。


「でも、おあつらえ向きのライトが家に届いたら、誰だって取り付けたくなっちゃうでしょ?」


 ジョン太はヨットで波に乗りながら文句を言います。


「おじいさんは、ライトは自分が買ったものじゃないって言い張っているけれど、もちろん僕だってお小遣いがすっからかんで買えないし、宅配のお兄さんだって住所に間違いはないって言っていたから、おじいさんじゃなければ誰が買ったのって話だとは思わない…ねえ、パトリシア?」


 聞いているのか、いないのか。ふわふわでモコモコの小さな愛犬パトリシアはジョン太の足元でいつものように「フン」と興味なさげに鼻を鳴らします。


 そんなつれないパトリシアの横でトビウオが大きく飛び跳ね、ジョン太は驚きの声をあげます。


 …海を進んでいるうち、ジョン太の住んでいる町もずいぶん遠くなりました。

 

 ですが、ヨットは自動運転なのでボタンひとつで元来た道を戻れますし、一人と一匹が海に落ちない限りは問題ありません。


「うーん、そろそろお腹がすいたね。パトリシア、そろそろ戻ろうか」


 そうしてジョン太がヨットについた逆ルートボタンを押そうとした時でした。

 …ふと、妙な匂いが鼻先をかすめます。


 それは、金気のある土の匂い。

 海の上では絶対に嗅がない匂い。


 みれば、海の向こうはわずかにかすんで見え、生ぬるい風も感じられます。


「パトリシア、急いで戻ろう。おじいさんが話していた『移動島』が近い証拠だ」


 ジョン太はそう言うと、急いでヨットのボタンを押しました…

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