俺と二人の柚葉

本田 そう

第1話 プロローグ、親子との出会い。

あれは俺が高校二年の夏休みの日の事。

俺はバドミントン部に所属していて、夏休みの間、部活とバイトに明け暮れていた。

そんなある日、バドミントン部の男女合同合宿である山林と海が見える所に俺は居た。

まだ空が暗い朝日が出る前から俺は宿の近くを一人ランニングしていた。



「俺だけか‥‥‥まあ、あれだけ夜騒いでいたらな、起きれるものも起きられないか」



俺は毎朝10キロは走る。この合宿にしてもそうだ。朝の四時に目が覚めて、適当に近場をランニングしていた。

そんな時だった。少し人里離れた山林の茂みに隠れ、ランプが点灯した軽自動車を見たのは。

最初はこの辺りの住民の物だろうと思い、通り過ぎた。

そしてランニングの帰りに再びその場を通ると、何か様子がおかしかった。



「ランプがパカパカと着いたり消えたりしている。どう言う事だ?」



俺は恐る恐る、その軽自動車に近寄り見ると、軽自動車の窓はガムテープで隙間なくはられていた。そして車内を覗くと、二歳くらいの綺麗な黒髪を肩まで伸ばした子供が、ライトのスイッチの所をいじっていた。そしてその運転席にはぐったりとした綺麗な女性が黒い喪服の様な衣装を着て寝ていた。



「これはいったい‥‥‥あっ!」



俺は後部座席にあるものに目がいくと、



「練炭‥‥‥自殺かよ!」



俺はその光景を見て体が恐怖で震えたが、急いで軽自動車のドアを開けようとするが、中からロックされていて開かない。俺は周りを急いで見ると、近くにある顔ぐらいの岩を見つけると、急いでそれを持ち助手席側の窓を岩で必死で叩いた。




「ドォン!ドォン!ドォン!バリ‥バリバリ」



俺は蜘蛛状に割れた窓を左の肘でぶち破る。その時左腕を深く切ったが、そんなの感じられないほど必死だった。



「だ、大丈夫ですか!」


「う、う、うわあああーん!」



俺が声を掛けると子供がいきなり泣き始めた。 俺の左腕から血が滴り落ちていたが、そんなのに構っていられない程、必死で子供を抱きかかえると、車外に連れ出した。

そして、次に気を失っているような、若い母親らしき人を運転席側のロックを外すと、運転席側から車外に引きずり出した。

その時座席下の足元にあった小瓶に目がいった。



「これ‥‥‥風邪薬か?」



俺はこの風邪薬の小瓶がなんの意味があるのかわかっていた。

練炭自殺による、効果を上げる薬。

風邪薬を 一瓶飲めば、睡眠薬の効果どころか、人によっては致死量に値する。



「早く吐き出させないと!」



俺は女性が息がまだあるのを確認すると、女性の口に指を入れ、胃の中の物を吐き出させた。



「頼むから胃の中の薬を吐き出させろ!頼むから俺の前で亡くならないでくれ!」



女性は何回か吐くと、その吐いた中に錠剤の様な物が目に付いた。

俺はそれを見て



「はあ〜っ、何とかなった。あっと!救急車を呼ばないと!」



俺は持っていた携帯を取り出すと直ぐに救急車を呼んだ。

しかし細かな場所がわからなく、軽自動車の非常点滅を出している車が山林にあると連絡。

救急車が来る間、俺は二人の親子を見守っていた。



「お前、凄いな。必死になって助けを求めたんだろ」



俺は小さなその綺麗な黒髪の子供の頭を右手で優しく撫でた。

子供はいつの間にか泣き止んでいて、俺の左腕を見つめていた。



「痛い?」


「えっ?あっ、痛くないよ」



子供は少し微笑むと、俺の事が心配なのかそう言って来た。

俺はこの時思った。こんな小さな子でも人の事を心配するんだと。


するとその時、携帯の着信音の曲が流れた。

その曲に小さな女の子は一瞬驚くが、曲が流れると



「この歌はなに?」


「うん。これは俺が好きな曲。てか曲の内容なんだけどね」


「ないよう?」


「そう、内容‥‥‥♪未来はゼロか無限かは生きてる今にかかっている♪‥」



俺が歌を歌うと、俺の側で横になっている若い母親は、吐いたせいなのか、それともこの子と俺の会話を聞いたせいなのかはわからないが、目を閉じながら涙を流していた。


そして五分ぐらいだろうか、救急車がやって来た。



「こちらです!」



俺は大声で叫ぶと、救急隊員の人が駆け寄って来る。



「大丈夫ですか!」


「はい!この人、風邪薬一瓶を飲んでますが一応吐かせましたが、まだ胃の中に残っています。あと練炭自殺を‥‥‥」


「そうですか、処置の方ありがとう。うん?君、その左腕!」


「あっ、これ、かすり傷です。後で自分で病院に行きますから!それよりこの親子の方を早く!」


「あ、ああ。君もすぐに病院の方に行きなさい」


「はい。ありがとうございます」



俺はあの親子が乗った救急車を見送ると、安心したのか力が尽きたのか、その場に座り込んだ。そしてあの後の記憶が定かではないが、あの場所から合宿先の宿まで、俺はフラフラになりながら宿まで帰り、宿の玄関先で俺は倒れていたと友人から聞いた。左腕を血まみれになりながら。



そして‥‥‥



あの日を境にして‥‥‥



俺の左腕の腕力は‥‥‥



小さなコップを持つのがやっとの腕力になってしまった。

左腕に大きな傷を残して。




そして‥‥‥それから‥‥‥15年の月日が流れた。








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