月光
最寄り駅の改札を通り抜け。ロータリーを左に歩道をしばらく歩くと商店街通りに出る。商店街の街灯に月明かりと誤認した虫達は弧を描きながら収集されている。
(この辺りはまだ白熱電球なのか…)
蛾は夜、月明かりを目印に飛ぶ。白熱電球の発する光は月明かりと酷似しているらしく。虫は誤ってその街灯に群がるのだ。
(羽虫も俺と同じでイミテーションに踊らされてるな…)
夜道を自宅に向かって二人で歩いている。
手を繋いで歩くのって初めてで。こんな超高校級の美女と下校なんて、本当は人生最高峰の場面なのだろう。今、俺はリア充なのだろう。使っておいてなんなのだが。リア充ってネットスラングには嫌悪感を感じる。彼氏彼女がいる事が、リアル(現実)が充実している事柄だと断定して良いのだろうか。いなくても充実している人達なんて五万といる。元々は中高生がネットで言い始めた言葉なのだから学校と言う閉鎖社会で生活して、大人の社会を知らない狭い価値観しか持ち合わせない学生が使うのは、百歩譲って分かる。俺も今使っちゃったし。しかし最近はテレビの影響なのだろう。普通の大人まで使い始めている大人が使うのは違うと思う。なんでも受け入れる和洋折衷精神もいいが、もっと物事に対して批判的な思考で居て欲しい。でないと思考停止状態だろう?
背の高い美人の先輩と小さな俺。繋いでるというより、繋がれているように周りには見えるのであろう。俺は弟じゃありませんよー。隣の先輩はぐしゅんぐしゅん言いながら歩いている。
シュールな絵面だ。先輩は少し泣きながらちらちら見て来る。
ええいっ!鬱陶しい何か言いたい事があるなら言いなさい。
さっきから全く会話がない。だから俺の中の無責任評論家が会話し始めてしまったではないか。それほど二人の沈黙は永かった。
相手の息づかいが、はっきり聞こえ。なんだか変な気持ちになる。いかん!若さ故の過ち…若い男の悪い部分が出てしまったな。
「…」
「コウちゃん…」
ようやく先輩が、重い口を開いた。
「今日コウちゃん家に泊めて…」
「…えっ?」
「…でも自宅には、今日誰もいないから飯ないけど?」
両親と妹は車で週末旅行に行っております。伊豆だったかな旅館にガラス張りのランチルームから海が見えるとかなんとか言ってたな。俺は旅行とか苦手で自宅警備。
「お料理…は私が作るよ」
笑顔で答える先輩。街灯の光源でも美しく存在感のある女性。
「先輩は本物の月ですね!」
こうして自宅で二人きりの夜を過ごす事に相成った。彼女に、躍らされるのは嫌な気はしない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます