#13.2 救われない人々

 延々と続く一方通行の通路を通り抜けると、巨大な水槽が目の前に現れた。分厚い硝子の内側には、魚ではなく人間の姿をしたロボットたちが収容されていた。

「この人たちは、Tellmoreロボットなのか?」

「はい。研究所の人間は、この部屋を『九百九十九人の部屋』と呼んでいました。千になった時点で、彼らは一斉に処分されます」

「いま何人が収容されているか分かるか?」

 ウーティスがすっと指を上に向けた。天井の辺りに巨大な電光掲示板がぶら下がっており、そこには『999』と記されていた。

「ウーティス、何でもいい。この部屋の中にいる人たちを外に出す方法を教えてくれ」

「は?」

 ウーティスが口をポカンと開けたまま僕を見た。

「この中にいる人たちを外に出せば、掲示板の数が減るだろ?」

「貴方の言いたいことは分かりますが、彼らをここから出すのは不可能です」

「どうして?入口があるなら出ることだって可能だろ?」

「分かっていませんね。彼らは誰からも必要とされなくなったから、ここへ来たのですよ」

 ウーティスの冷たい視線にたじろいだ。だが、兄の生死がかかっている以上、諦める訳にはいかなかった。

「Tellmoreロボットの返品キャンセルを希望する人がいると、レンが言ってた。だから、彼らを必要としてくれる人は絶対にいるはずだ」

「そうですか。それなら、貴方が思うようにしなさい。私は少し休みます」

 ウーティスはそう言うと、部屋の隅に座り込み、仮眠をとり始めた。



 分厚いガラスの壁に指を押し当てると、中にいるTellmoreロボットたちが僕の元に集まってきた。

「待ってろよ。絶対に助けてみせるから」

 彼らがここにいるのは、所有者に拒絶されたからだ。それなら、所有者たちに呼びかければいい。そう考えた僕はスマホを取り出し、Tellmoreロボットたちの顔や部屋の内部を撮影した。TellmoreとTwitterを開き、急いで文章を入力する。

『彼らはTellmoreによって生み出されたAIロボットです。この部屋は千体になると焼却炉で燃やされるシステムになっていて、僕の兄がこの部屋に入った瞬間、ここにいるロボットは燃やされてしまいます。所有者の皆様、お願いです。彼らの顔に心当たりのある方は、今すぐ僕にDMを送ってください。お願いします。』

 SNSに投稿した後、ふと横を見ると、ウーティスが僕の携帯画面を覗き込んでいた。

「ロボットとはいえ、プライバシーの侵害ですよ」

「分かってるよ。だけど、今はそんなことを言っている場合じゃないだろ」

「無駄な努力だと思いますが」

 携帯に通知が届き、急いでアプリを開いた。所有者からのメールかと思いきや、そこには『なにこれ。きもいんだけど』という文字が書かれていた。

『これ、合成写真じゃね?』

『必死すぎてワロタ』

『ゴミは早く燃えてしまえ』

 欲しくもないメールばかりが届き、思わず携帯を投げたくなった。

「これで分かったでしょう。無関係な人間からしてみれば、あなたが送信した写真はただの合成写真。元所有者たちにとっても、彼らはすでに過去の存在。言い方は悪いですが、自分が捨てたゴミを開封された上に、SNSに晒されて気分を害さない人間はいないかと」

「くそっ。こうなったら、ライブ動画で世界中に配信してやる」

 彼らにスマホを向けようとした時、地面が音を立てて揺れた。直感で兄が来たのだと分かった。

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