──第2話──

揺れる。


めっちゃ揺れる。


白銀の狼が俺の周りに纏っている布を器用に口で持ち、運んでいるが、スピードが半端なく早い。

安全装置の無いジェットコースター。


恐ぇよ。


「うぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」


『!?』


俺の泣き声を聞き、狼がその足を止める。

そして、ゆっくりと俺を降ろし頬を舐める。


『こ、今度はどうしたのだ?な、なぜ泣くのだ?』


焦った様に視線をさ迷わせながら問いかけてくる。


いや、普通に恐いからね!?

前後左右、上下に揺られるし、風が物凄い勢いで当たるし。

しかもこれ以上狼ジェットコースターに乗り続けたらリバースしちゃうよ?

吐くものないけど。


頬を舐められ続け、俺が落ち着きを取り戻したのを確認すると、狼は器用に布をくわえ直す。


『きっと腹が減っておるのだろうな。待っておれ。すぐに里まで連れてってやるからの。』


狼は俺を持ったまま、一度体勢を低くし勢いをつけて走り出す。


いや、だから!

スピードを緩めてくれたら良いんだって!!

さっきよりもスピード上がってるし!?

何がどうなったらそうなるの!?


森の中で赤ん坊の泣き声が響き渡る。



……うん。


───言葉が通じないって不便だなぁ……


俺は諦めて遠目になりながら狼ジェットコースターの終点まで耐える事にした。



数分後。


俺の体感では数時間……すごく長く感じるアトラクションだった。

もう二度とこのアトラクションには乗りたくない。


頭がぐるぐるする。

吐き気もする。

何も食べてないから吐くものも無いが。


うぅ~……気持ち悪い。


ようやく終点らしい。

狼はゆっくりとした歩みで進む。


限られた視界に映る景色は神秘的なものだった。

木々の間から太陽の光が射し込み、色とりどりの草花が咲き誇る。

木は普段見ていた様子とは異なり、不自然な形のものが多いが不気味に感じる事は無かった。

一本の木に何本もの木が絡み合うもの、九十度に曲がった太い木など。

その木の上に小屋が立っている。

ここで生活している様子が伺えた。


一本の大きな木の下で歩みを止めた。


『ここがわらわたちの家になるのだ。まずは、主人を紹介するかの。』


言葉を言い終えると姿勢を低くする。


嫌な予感しかしない。


狼は地面を蹴り飛ばし、大きくジャンプをした。


うぇぇぇぇ!?

逆バンジーのアトラクションを追加した覚え無いんだけどっ!?

アトラクションとか言ってごめんなさいっ。

絶叫系とかは好きだけど、命綱ある時でお願いしますっ!


安心してからの追い討ちアトラクションは精神的にもくるからっ!


もう、憔悴しょうすいしきって泣き声も出せない。


狼は木の上にある木屋の中へ入る。

もちろん、くわえられている俺も中に入る事になる。

中は木の温もりであふれた心地の良い部屋だった。


『ふふ。先程まで泣いておったのに、落ち着いておるの。そんなに、この家が気に入ったのか?』


優しい笑い声で狼が語りかけてくる。


いや、ただ泣く元気もない程疲れてるんだけど……

スリル満点のアクティビティコースで疲れました……

少し休ませて下さい、お願いします。切実に。


『む、帰ってきたか。』


中から男性の声が聞こえる。

おそらく、この女性の主人なのだろう。


『ん?何をくわえておる?』


その問い掛けに答える様に、テーブルの上に俺を降ろし、布がはらりと落ちていく。


『……人間の小僧だと?』


銀髪の短い髪の男性が緑の瞳で俺を見る。

そして、すぐに狼に向き直り、


『ライア!人間にされた腹いせにさらってきたのかっ!!』


だから、いきなり大声を出さないで欲しい。

ちょっと、体力が戻ってきてるから


「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」


泣いちゃうじゃん。俺が。


『ほれ、カインが人間の姿のせいで泣いてしまったではないか!はよ、狼の姿になるのだ。』


いや、泣いたのはそっちじゃ……

…………もう何でもいいや。


『人間が人間の姿を怖がるのか……?』


理解出来ない様子の男性……カインが、ライアと呼んだ狼に問いかける。


そら、まぁ、そう思うよな。

別に人間の姿に対して怖いと俺も思ってないし。

意味分かんないよな、うん。


『この子はそうなのじゃ!さっきまで静かであっただろう?カインの姿を見て驚いたから泣いておるのだ。』


いや、違います。

大きい声に驚いただけなんです。

コミュニケーションがとれない、つらい。


『う、うむ。』


納得したのか、してないのか、曖昧あいまいな返事をしたカインの全身が光出す。


『ほれ、もう怖いものは無いぞ?そろそろ泣き止んでおくれ。』


ライアは優しく頬を舐めてくる。

徐々に気持ちも落ち着いてきた。


アニマルセラピーは偉大だな、泣く子も黙る。

泣いているのは俺なんだけどな。


光が収まり、ライアよりも一回り大きい狼の姿になったカインが俺に近寄ってくる。


『本当だな……この姿になれば泣かないのか……』


狼の姿だから泣かない訳ではなくって……タイミングがだな……



どうやったらこの誤解を解けるんだろう……










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