最終章 暗黒城~ すべての悲しみを乗り越えて(4)

 シルク、ワンコー、そしてクックルー。一人と二匹の勇者たちは、ジュエリー大陸の北端に近い大地までやってきた。

 澄んだ空気を育む緑は伐採されて、肥えた土壌まで掘り起こされたその大地には、この世界にあるはずのない漆黒の闇に包まれた城が建造されている。そう、魔族の根城”暗黒城”――。

「ついに、ここまで辿り着いたんだね」

「そうだワン」

「いよいよだコケ」

 暗黒城の荘厳たる物々しさで、じんわりと背中が汗ばんでしまうシルク。

 ここに、あの魔剣将と名乗るクレオートがいる。そう思うだけで、彼女の鼓動の高鳴りが一層激しくなる。

 動物界の未来の命運を背負うスーパーアニマル二匹も、焦りのせいか口の中が異様なほどに渇いていた。

 悠然と佇む暗黒城を見上げると、天守閣を覆い隠している真っ黒な暗雲に目が留まる。それが、おびただしい数の魔物の集団だとわかった途端、彼女は鳥肌が立ち身の毛がよだった。

 まるで舞踏会で踊っているかのように、城の上を輪を描いて飛び回っている魔物の群れ。暗黒城が完成するその時を心待ちにしているのだろうか?


 高くそびえる城壁の切れ目から城の敷地へ入っていくシルクたち。

 もうそこからは、上空を埋め尽くす魔物の群れのせいで太陽の日差しは届かない。もしかすると、闇魔界よりも暗いのではないか?と思わせるほど、そこは明るさを失った空間であった。

 彼女たちは周囲を警戒しながら、城の内部の入口であろう鉄扉の前に到着した。

「せーのっ!」

 シルクは鉄扉を目一杯にこじ開ける。すると、薄暗いながらも、城内の全貌が明らかとなった。

 一言でいうなら、そこは何もなく閑散としたロビーだ。柱もなければ装飾もなく、コンクリートブロックの床が剥き出しの状態のままとなっている。

 暗黒城の一階フロアは、魔剣将の城塞というよりも、鉄格子のない牢獄のような印象を与えた。まだ城が完成していないことが、こんな殺風景な佇まいから窺えなくもない。

「凄まじい殺気だわ。あの魔神の神殿をはるかに超えるような、そんな殺気……」

 聖なるオーラをかき消さんばかりの魔性のオーラ。さすがは、悪の巣窟と言うべき魔族の根城だ。

 魔剣将がいるであろう天守閣へ向かうには、まず上のフロアに行く必要がある。辺りを隈なく見回したシルクは、上階からの明かりに照らされる階段を発見した。

 ピリピリと張り詰めた空気を掻き分けながら、階段を目指して静かに歩いていく彼女たち。

 歩くたびに襲ってくる息詰まるような悪寒、そして、胸を苦しめてくる重圧――。

 コンクリートブロックを踏みしめる足取りも重くなり、姿なき禍々しき者に足を掴まれている錯覚を覚えてしまいそうだ。

 一階ロビーを歩き続けること数分。ようやく階段の正面に辿り着き、上のフロアを見上げる彼女。

「――!」

 シルクは戦慄のあまり背筋が凍りついた。

 階段の先、二階のフロアから注がれる、黄色や緑色、さらに赤色に青色といった丸い光。それは、彼女たちを待ち構えていた魔族たちの睨みつける眼光であった。

 このまま階段を上っていけば、その魔族の連中との戦闘は避けられないであろう。彼女は表情を引き締めて、名剣スウォード・パールの柄に右手を置いた。

「手を出すな」

 突如フロア内に響き渡る男性の声。シルクはビクッと全身が萎縮してしまった。

 萎み上がったのは彼女ばかりではなく、二階のフロアに蔓延っている魔族たちも、落ち着きがなくなりそわそわし始めた。

 ここにいるすべての者が萎縮するのは無理はない。なぜならば、その声の主こそ、闇の支配者として君臨する魔剣将クレオートのものだったからだ。

「いくらおまえたちが束になってかかっても、その少女にはかなわない。手出しはするな、よいな」

 クレオートに絶対服従を誓う魔族たちは、指示されるがままに敵意も身も引っこめる。

 シルクたちはそれぞれ頷き合って、天守閣へ繋がる階段を上っていった。

 二階まで辿り着くと、ご丁寧なことに、魔族の群れが列をなして彼女たちのことを迎え入れてくれた。しかも二つの列で道を作り、まるで魔剣将のもとまで導いているかのようだ。

 とはいっても、相手は人間を脅かす魔族である。彼女たちは警戒を怠ることなく、その導かれし道を慎重に突き進んでいった。


 魔族が築き上げた暗黒城は想像を絶するほど広かった。もし彷徨い歩いていたとしたら、日が暮れて夜が訪れていたかも知れない。

 クレオートの敬意なのか、それとも粋な計らいなのか、シルクたちは魔族の群れが作り上げた道のおかげで迷うことはなかった。

 地上三階、そこは、広々とした大自然の景色を一望できる、天井や壁のないテラスのような場所だった。どこからともなく吹く風が、汗ばんだ彼女の頬を優しく撫でる。

「あそこね、クレオートがいるのは」

 遠景を見据えるシルクの目に、暗黒城の中枢と言うべき天守閣が飛び込んだ。どうやらそこへは、このテラスから架かる細長い橋を渡っていくようだ。

 お役御免とばかりに、道を作ってくれた魔族たちはこぞって城内へと消えていった。テラスに残るのは、天守閣を複雑な思いで眺める彼女たちだけとなった。

「ワンコー、クックルー、準備はいい?」

「大丈夫だワン」

「任せろコケ」

 十数メートルはあるであろう天守閣までの長い道のり。シルクたちは一列になって橋を渡っていく。

 横に広がるは美しい大自然、その一方、頭上で羽ばたくは暗雲のような魔族の群れ。両極端とも言えるコントラストが、この世界における天国と地獄の境界線のようでもあった。

 誘い込まれるかのごとく、天守閣へ足を踏み入れた彼女たち。そこで待ち受けるのは、暗黒城らしく暗がりの中に浮かぶ真っ直ぐな廊下、さらに遠目に見えるのは、悪魔の姿を象った不気味な扉。

 漂ってくる邪悪な気配でわかる。間違いない、あの扉の向こうに魔剣将クレオートがいるのだ、と。

(いよいよ、この時が来たのね)

 真っ直ぐの廊下の突き当たり、怪しく佇む悪魔の扉を開け放つと、そこにあるものは、怪奇植物の蔦で雁字搦めにされた真四角の空間。

 支配者の王座でありながら豪華絢爛さなど皆無で、たった一つの丸い窓があるだけの閉塞感に包まれている大広間だ。

 その大広間の真ん中で悠然と構えている一人の男性、魔剣将クレオートは、わざわざ足を運んでくれたかつての仲間たちとの再会を喜んだ。

「よく来てくれたな。待っていたぞ、生まれし時より聖なる力を持つ者、シルクよ」

「クレオート……」

 シルクの顔色が憂いに染まる。

 光沢のある真紅の鎧、兜の隙間から覗く襟足まで伸びた黒髪、語りかける声こそ違えど、ここにいるのは、想い焦がれていたあのクレオート本人であった。

 しかし、彼はもう愛した人ではない。魔剣を手にして、闇の支配者としてここに君臨し、人類の脅威となった魔剣将クレオートなのだ。

 彼女は哀れむような瞳で、魔族の王と成り果てたクレオートを凝視していた。

「クレオート、どうして? どうして、あなたがこんなことを? 闇魔界で一緒に戦った仲間だったはずなのに、どうしてこんなことになってしまったの?」

「何も知らないままでは悔しいだろう。よし、ここまで辿り着けた褒美に、すべての真実を明かしてやろう」

 支配者の証しである魔剣、それを手にして闇魔界を支配する。クレオート曰く、この飽くなき野望の筋書きはすでに出来上がっていたのだという。

 かつて、闇魔界の支配者であった魔神アシュラ。彼を滅ぼさん限り、魔剣を奪い支配者に取って代わる術はない。そこでクレオートは思いついた、神の力を振りかざす特殊な能力を持つ人間を利用しようと。

 人間界のさまざまな箇所に鬼門を張り巡らし、そこへ能力のある人間を誘い込む。いずれは、己の野望を叶えるための手駒にするために。

「あなたが、あかずの間に鬼門を……」

 その時、シルクの脳裏に蘇ってきたおぼろげな記憶。

 闇魔界へ誘われるあの日、両親に呼ばれて国王の間へ向かう際にすれ違った、真っ赤な鎧を纏う凛々しい男性の姿が。

 パール王国に代々伝承される”神聖なる天神”。それを受け継ぐ者が王国王女だと知ったクレオートは、この絶好の機会を逃すまいと知恵を働かせる。

 困窮に喘ぐ内政に頭を抱えていた国王、そこへ金品をちらつかせてたぶらかし、彼女をあかずの間へ誘い込んだ張本人こそ、紛れもなくここにいる彼本人だった。

「お父様をお金で騙すなんて、ひどいわ」

「わたしを恨むよりも、おまえ自身の両親を恨むのだな。大切な娘の命よりも、目の前にある宝石に目がくらんだのだからな」

 大事な一人娘を危険な目に遭わせたくはない、しかし、王国を存続させることも必要不可欠。苦心の末に不本意な選択肢を選んだ父親を思い、シルクの表情は憤りと遣る瀬無さに満たされていく。

 人の不幸など顧みない、悪びれる様子もない、無論、優しい心すら見せることのないクレオートは、落胆している彼女など気にも留めず淡々と話を続ける。

「いくら素質を持って生まれたとはいえ、その能力が覚醒しなければ宝の持ち腐れ。神の力を引き出すためには、それ相応の環境作りが必要だった」

 シルクに宿る神聖なる天神の力、それは神の裁きとも言える神通力――。

 それを覚醒させる環境整備こそが、闇魔界における人間や魔族との関わり合いであった。

 魔族が支配する世界に閉じ込められて、苦悩し、困惑し、悲劇に嘆く人々。悲しみに暮れる人々を幾多となく救ってきた経験が、支配者(ルーラー)としての能力を高めていった。

 そして、魔族との度重なる戦闘。時には窮地に追い込まれて、生命の危機に瀕しても、類い稀な正義感と不屈の闘志で勝ち抜いてきた戦績が、彼女の体に封印された神の力を呼び醒ました。

「ここまで順調に行くとは思っていなかったが、さすがは世界にたった一人の存在。おまえはものの見事に、わたしの策略通りに進んでくれた。わざわざ、架空のお伽噺を作り出した甲斐があったいうもの」

「架空のお伽噺……? それはいったいどういうこと?」

 闇魔界として切り取られた一つ一つの空間。そこでシルクが遭遇した自然、家並み、人間、そして、あらゆるエピソード。そのすべてがお伽噺だったのだと、クレオートは衝撃的な事実をシルクに突き付ける。

「闇魔界でおまえが見てきたものは、このわたしが作為的に準備した模造。つまり、どの世界にも存在しない虚構なのだ」

 すべては、魔剣に魅了されたクレオートが仕組んだ打算的な計画。

 一つ一つの空間にエピソードを散りばめて、そこへ実在する魔族を的確に配置し、そこが真実であるかのように仕立て上げる。あたかも、プログラム命令をコーディングしていくかのごとく。

 それを耳にして、ショックのあまり声を失ってしまったシルク。その時、まるで走馬灯のように駆け巡る、闇魔界で出会ってきた人たち。

 闇魔界で最初に出会った老人。

 苦悩の街で出会った町長、そしてジャンクにシンディー。

 困惑の村で出会った覇王三剣士たち。

 悲劇の村で出会った魔女ルシーダ、そしてガンツ。

 歓喜の都で出会った都長と軍曹。

 さらに、真実の館で知り合ったエルドーヌ。

 一人でも多くの人たちを闇魔界から脱出させたい。希望と未来のために心血を注いできたはずが、そこにあったものは意図的に生み出された幻影――。

 これにはワンコーもクックルーも驚き余って、口をポカンと開けたまま硬直してしまった。

「そ、それじゃあ、オイラが助けてあげた人たちも……」

「ま、まさか、オレのことをここに誘い込んだのも……」

 そう、すべてが魔剣奪取のシナリオ進行のために作られた舞台の一部。つまり、シルクたち支配者(ルーラー)の能力覚醒プログラムに過ぎなかったのだと、クレオートは不敵に笑ってそう言い放った。

「つまり、あたしたちは、あなたの欲望ただそれだけのために、あなたの手のひらの上で踊らされていただけだったのね」

「そうだ。あえて例えるなら、おまえたちはゲームのキャラクター。わたしがそのゲームのプレイヤー。……いや、わたしもキャラクターの一人、と言えるだろうな」

 旅の途中からサポートに加わったクレオート、その活躍も、シルクの能力に思ってもみない成長をもたらしたことは言うまでもない。

 彼女のピンチを救ったり、勇気付けたり慰めたり、時には戦線離脱してやきもきさせたことも、彼なりの巧妙な作戦の一つだったのだ。

 思い描いていた通りに事が運び、彼の表情はこの上ないほどの悦びで溢れている。その卑劣さを知れば知るほど、裏切られた悔しさと悲しさで、心に深い傷が増えてしまう彼女だが、ここで気落ちしているわけにはいかない。

「クレオート、もう一つだけ教えて」

 シルクが問いかけた一つの疑問、それは、魔神アシュラから魔剣を手に入れるこの策謀に、なぜ自分のような特殊な能力を持つ人間が必要だったのか、ということだ。

 クレオートほどの剣の達人ならば、人間の力など借りずとも、魔神と戦うことも可能であり、倒すことも不可能ではなかったであろう。

 ここまで来たら、もう何も隠すことはない。クレオートは落ち着き払った口調で答え始める。

「シルク、おまえならわかるだろうが、人間の社会にも、上級や下級といった地位があるはずだ。わたしのような魔族にも、そういった身分の位というものがあるのだ」

 そもそも、闇魔界はクレオートが作り出したものではなく、遠いはるか太古の昔から存在していた。

 そこでは支配者という絶対的権力を求めて、上級クラスの魔族がいがみ合い、抗争が勃発する混沌とした世界でもあった。その中には、魔族をも脅かす神なる力を持つ、支配者(ルーラー)と呼ばれる人間の姿もあったという。

 闇の支配者たる者、より強く、より逞しく、よりずる賢くなければならない。その条件さえ揃っていれば、それがたとえ魔族でなくとも、人間でも誰でもよかったのである。

 闇魔界で巻き起こった魔族と人間との覇権争い。知恵と勇気、力と運を駆使して魔剣を手にした人物こそ、シルクが撃破した、人間として生きる道を放棄したあの魔神アシュラなのだ。

「わたしは下級魔族でありながら、知恵も技も磨き上げて、幹部と呼ばれるまでの地位まで上り詰めることができた。だが所詮、下級は下級、上級の最高位である支配者になることはできない」

 魔族の世界において、下級魔族が上級魔族を脅かす行為、いわゆる下剋上は許容されなかった。

 下級魔族として生き続ける限り、上級魔族に逆らったり手を挙げることができない。そういった許されざる禁忌事項が、本能として全神経に刻み込まれているのである。

 どんなに能力が秀でていても、階級という障壁があるが故に、支配者になる夢を絶たれた一人の男。さらに支配者が人間に取って代わられてしまい、その憎しみと悔しさは、彼の飽くなき野望の原動力となった。

「そういうことだったのね……」

 冒険の手助けをしてくれたクレオートの意外な行動を回顧し、シルクはここまでの経緯を理解したようだ。

 破壊神ゲルドラを操り、支配者の地位を狙っていた狂魔導士の息の根を止めたのは、彼自身の野望を妨害されまいとする予防線だったこと。

 そして、魔神アシュラとの決戦前に戦線離脱したのも、禁忌という縛りのため、戦闘に参加することができなかったからだということを。

「あなたが魔神に刃向えないなら、刃向える人材を育てればいい。上級も下級も関係ない、あたしのような能力ある人間を……。それが、あなたの企んだすべての真相だったのね」

「察しの通りだ。わたしはついに魔剣を手にし、こうして闇の支配者になる野望を果たした。シルク、おまえには心から礼を言わせてもらうぞ」

 クレオートは握り締めた魔剣を高々と掲げる。魔族だけではなく、人類もこの手の中にあると豪語し、全世界の征服者になったことをここに宣言した。

 そんな侵略めいた横暴を断じて許すまい! シルクもワンコーも、そしてクックルーも全身を小刻みに震わせて、その表情は激しい嫌悪感で溢れ返っていた。

 今までに一度も経験したことのない傷心――。あれだけ信頼し、あれほどまでに想いを寄せた男性が、まるで別人のように変貌したことが、彼女は何よりも許せなかった。

 彼女たちの怒りを宥めるクレオートは、魔族の王として紳士的に振る舞おうとする。人間界の征服は殺戮が目的ではない、あくまでもこの世界の頂点に立つことが目的なのだ、と。

「シルクよ、わたしはおまえの能力を高く評価している。おまえがもし望むのなら、この美しい世界の一部を分け与えてやろう。どうだ? わたしと一緒に人間界の支配者になろうではないか」

 シルクは伏し目がちのまま首を小さく横に振った。人間として生まれた者に征服の二文字などない、それが、彼女のたった一つの答えだった。

「クレオート。あたしは支配者として生まれたこと、戸惑いもあるし不安もあったわ。だけど、こうして神通力を使いこなせるようになった今、あたしは宿命のままに生きることを決意した」

 シルクは宿命をともにする名剣スウォード・パールを鞘から引き抜く。

 迷いも躊躇いも振り払うかのごとく、彼女は黒髪を大きく左右に振り乱した。ほんのりと零れた涙の滴が、愛していた人との決別を物語っていた。

「あたしはこの世界でたった一人の支配者(ルーラー)として、人間界を最後まで守り抜く。クレオート、あなたと死闘を演じることになってもね!」

 その勇ましさは、命を捨てる覚悟とも言える王国王女の誇りでもあった。

 クレオートはそれを聞き入れるなり、クスッとにやけながら吐息を漏らした。そこには、一人の男性として、一人の少女の心を掴むことができない寂しさが混じっていた。

「それは残念だ。おまえさえよければ、わたしの妃として迎え入れようと思ったのだが……。本当に残念だよ」

 クレオートは大剣ストーム・ブレードも取り出し、魔剣と並べて二刀流の姿勢を取った。

 両手に抱える両刀に魔力を吹き込んでいく彼、シルクからの宣戦布告に対し、全世界の支配者としての最大限の実力で臨むつもりなのだろう。

「愚かな生物たちよ、この魔剣将クレオートに盾を突いたことを後悔させてやろう!」

 もはや誰にも止めることはできぬ、ましてや倒すこともできないのだ。魔剣将クレオートの自信に満ち溢れた怒号が轟き、彼の全身から凄まじいほどの魔性のオーラが放たれた。

 竜巻のように襲い掛かるその威圧感で、シルクたちの両足が床の上に貼り付けてしまう。身動きを取ることができず、吹き飛ばされないよう踏ん張るのが精一杯だ。

「さぁ、来い、シルク! この剣でおまえを本当の闇の世界へ送ってやる」

 荒れ狂う魔性の嵐を掻い潜り、シルクたちはそれぞれ戦闘態勢を整える。

 名剣を構えるシルク、魔法のために気合を込めるワンコーとクックルー。いよいよ、人類の未来と希望をかけた最後の戦いの緞帳が上がった。

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