第一章 パール城~ 運命という名の旅立ち(5)

 闇に覆われた世界。

 混沌と戦慄のみが支配する暗黒の空間、”闇魔界”――。

 生きている者の魂を食らい、生きることが許されない亡者の屍を弄ぶ、闇魔界に暗躍する奇怪な影、”悪魔”――。

 人間に絶望と苦痛を与える彼らは、いったい何を求め、何に快感を覚えるのか。

 そこには、明るい世界に住まう者には知ることのできない、遺恨とも言うべき底知れぬ野望と欲望があった。


 闇魔界の闇に紛れながら浮遊する、人間と同じ風貌をした一人の悪魔。

 血に染まったような真紅の鎧を纏うその男は、空間の中にある一点を見つめて不敵に微笑む。

 血の通わない漆黒の瞳には、可憐な王国王女のちっぽけな姿が映っていた。

 そこへ影のようにフッと浮かび上がる、青く染まった法衣を着た悪魔が、赤い鎧の男に近寄るなり、したり顔で声を掛けてくる。

「ククク。どうやら、あのお姫様は鬼門を無事に越えてくれたようですな。ここまでは思惑通り、といったところですかね」

 青い法衣の男は気味悪げにせせら笑う。まるで、人間という生命体を蔑むような顔つきだ。

「まったく人間とは愚かな生き物ですなぁ。王族という身分にしがみ付いて、大切に育ててきた愛娘を危険区域へ行かせたのですから」

 パール国王の権力欲という弱味に付け込み、王女であるシルクをあかずの間に誘導するようけしかけた悪魔。その彼女が異空間に取り込まれてしまったことも、すべては彼らの綿密な計画の一つだったようだ。

 第一段階突破に微笑していた赤い鎧の男だが、彼は一変して、冷酷なまでのポーカーフェイスに切り替える。

「人間というものは所詮、欲を求めることしかできない哀れな生き物だ。死ぬことに恐怖を覚え、病に苦痛を感じる。この世界にいる我ら魔族から見たら、人間など醜い虫けら同然だ」

 人間として生きる者を侮蔑し、勝ち誇ったような優越感を漂わせる赤い鎧の男。次の瞬間、おぞましいほどに口角を吊り上げて、邪悪な微笑みを浮かべる。

「だが、あの小娘だけは違う。彼女が持つ天性なる才能は、わたしの想像をはるかに超えているはずだ」

 赤い鎧の男は歓びに興奮を抑え切れなかった。

 あのシルクという小娘ならば、いずれは対峙するであろう、あの忌々しき男と雌雄を決して、きっと打ち倒してくれるはずだ、と。

 屈辱と無念を胸に抱いたまま、長きに渡る年月を過ごしてきた彼。夢に描き続けてきた野望と欲望を叶える時がもう時期やってくる。彼の胸の高鳴りは怒涛のごとく激しくなっていた。

「フフフ、さあ、シルクよ。おまえの冒険はここからが始まりだ。これから続く長き試練の道のり、どうか、わたしの期待に応えてくれ」

 ここにいる悪魔は、欲心のためにただ笑う。

 人間たちに悲しみと苦しみしか生まない、地獄とも呼ばれる闇魔界。

 そこには、何も知らないシルクたちにとっても、生きながらに死せる絶望しか存在しなかった。


* ◇ *


「あ、あれ?」

 鬼門を越えたシルクとワンコーは、晴れ渡る青空の下、青々しい草木に囲まれた断崖絶壁の上にいた。

「ここ、どこだワン? オイラたち、外にいるみたいだワン」

 ワンコーは戸惑いながら辺り一面を見渡してみる。

 そこには帰るべきはずのパール城の影も形もなく、シルクたちの記憶にも残っていないのどかな風景が広がっていた。

 そこにあるものはただ一つ、彼女たちのいる崖の上から、雲のような霞の中に伸びる長い橋だけであった。

 これもまだ、まやかしなのだろうか……? 彼女たちの胸にただならぬ緊張が走る。

「とにかく、あそこにある橋を渡ってみましょう」

「了解だワン」

 シルクとワンコーは意を決して、木造の長い橋を渡り始める。

 耳に聴こえてくるのは、橋の下に流れているであろう川の激流の音。しかし、橋桁から見下ろしてみても、ここが余程高いところにあるのか、川の青さがまったく目に届かず、霞がかった白い景色だけがそこにあった。

 いつしか彼女たちの小さい体も、ここが雲の中であるかのように、真っ白な空気に包まれていった。

 先を見据えても真っ白、背後へ振り向いても真っ白。これまで暗闇にいた彼女たちにとって、この明るさは目が痛いぐらい眩しかったことだろう。


 長い長い橋の上を歩き続けること数分後、シルクたちの視線の先に、ごつごつとした大きな岩山が薄っすらと佇んでいた。

 開けた視界の先に、安住の地であるパール城の面影を期待した彼女だったが、その期待を裏切る硬質な風景につい落胆してしまう。

「……どうなってるの、これ? あたしたちは、どこにいるというの?」

 夢の中を彷徨っているような気分のシルク。悪い夢なら早く醒めてほしい。今の彼女は、そう願わずにはいられない心境だった。

 動揺のあまり立ち止まってしまう彼女の横で、ワンコーは空気を弾くほどの大声を上げる。

「あ、この先に誰かいるワン」

 ワンコーが前足で指し示した方向には、ぼんやりながらも、確かに人間の形をした影が浮かんでいた。

 きっとあの人なら、ここがどこなのか知っているはず! シルクとワンコーは逸る気持ちでその場から駆け出していく。

 次第に視界が晴れていくと、その謎の人物の全容が明らかになってきた。

 この雲のように真っ白い髪の毛とひげを生やし、ボロ雑巾のようないでたちをした老人の男性だった。

 杖で細い身を支えている老人は、橋の向こうからやってくる見知らぬ女の子に、重たそうな目を剥いて驚きを表現した。

「お、おぬしら。ど、どこから来たのじゃ?」

 その驚きぶりは半端ではなく、老人は呆気に取られたまま、シルクたちに震える人差し指を突き付けている。

「あ、あの、あたしたちはパール王国にあるパール城から来ました」

 シルクは少しばかり上擦った声で、ここまでの顛末について、その老人へつぶさに打ち明ける。

 お城の地下深くにあるあかずの間から落ちてしまい、暗闇の空間を潜り抜けて、骸骨が守っていた大きな扉を開けてみたら……。見覚えのないこの地に辿り着いてしまった、と。

 彼女の神妙なる告白は、老人の表情を瞬時に凍りつかせた。口をパクパクさせたまま、二の句が継げないといった顔だ。

「あの、おじい様。ここはいったいどこなんですか? あたしの暮らしているパール王国ではないような気がするんです。お願いです、教えてください」

 シルクは老人にすがるような瞳で懇願する。

 ワンコーも前足を合わせて、彼女と一緒になってお願いしている。

 老人はガックリと肩を落とし、憂慮の面持ちのまま俯いてしまう。

「おお、何ということじゃ。もう二度と、この地へとやってくる人間はおらんと信じておったのに」

 その老人の悔いるような嘆き、それにただならぬ事態を悟ったシルク。

 それはいったいどういう意味なのか? 血色を失った彼女は震える声で執拗に迫った。

 躊躇いがちに眉を顰めて、老人は重々しい口から一言だけ呟く。――ここは地獄だ、と。

「ジ、ジゴク!?」

 シルクとワンコーは現実とも思えないその一言に、心が激しく動揺し、表情が瞬時に強張る。

「この世界は本来、人間の住む世界ではない。生きながら死んでいる者が住む、地獄の魔界じゃよ」

 生きながら死んでいる――?

 地獄の魔界――?

 頭を混乱させる理解し難い言葉ばかりで、シルクたちはただ愕然とする。

「待ってください! それでは、あたしたちは死んでしまったのですか?」

「死んだというよりも、死の世界に迷い込んだと言った方が正解じゃろう。おぬしたちは、鬼門と呼ばれる人間界と闇魔界の狭間を越えてしまったのじゃ」

 それでも釈然としないシルクに、老人はこの地獄の経緯を説いていく。

 この世には、彼女たちのような者が住む人間界、もう一つ、悪魔のような魔族が棲む闇魔界が存在する。その二つの世界の境界線にあるものを鬼門と呼んでいるのだという。

「おぬしたちは自らの意思で、越えてはならない鬼門を越えてしまったのじゃ」

 シルクはやはり信じることができなかった。

 雲に包まれながらも、見上げる上空は薄っすらと青く、見下ろした激流から聴こえる音、そして、見つめる先には土色の険しい岩肌が広がっている。それは誰の目から見ても、自然が織り成す悠然な風景の佇まいだ。

 それを彼女が必死に訴えても、老人はまるでお伽噺のように言葉を紡いでいく。

 ここは暗黒の中から切り取られた架空の空間であり、この背景も、この音も、この匂いも、自分以外のすべての要素が、疑似的に作り出された人工物なのだと。

「あ、そういえば……」

 目尻の下がった目を見開いたワンコーが、何かを思い出したように声を張り上げる。

「姫、そういえばあの骸骨たち。キモンとか、ヤミマカイがどうのこうのって言っていたワン」

 シルクの記憶に蘇ってくる骸骨たちとの死闘。

 打ち倒された骸骨たちが朽ちていく直前に口にした、途切れ途切れの意味深な警告。

(鬼門を越えたくば、先へ進むがよい。汝らに待っているのは、闇魔界という地獄だ……)

 その記憶が老人の語りと重なり合い、シルクの揺れ惑っていた心がなぜか静まっていく。

 それは血の気が引いていくというよりも、両足が宙に浮いているような、幻の中を彷徨っているような感覚だった。

 ついこの日の朝まで、平穏平和な日常を過ごしていた彼女。父親から唐突に言い渡された試練、気持ちを引き締めて意気揚々と出掛けてみたらこの顛末。彼女の放心状態も致し方のないところだろう。

 だがここが絶望の淵であっても、彼女は理性を失ったりはしなかった。ゆっくりと呼吸を整えつつ、困惑している老人に問いかける。

「見たところ、おじい様も人間のようですけど。あたしたちと同じ、そのキモンを越えてしまったんですか?」

「うむ。今から何十年も前のことじゃ。わしはある王国の一兵士じゃった」

 老人は思い馳せるように、頭の中で眠っていた若かりし頃の過去を呼び起こす。

「わしは兵士になりたての頃、名声を手に入れたいばかりに、階級を昇進させようと躍起になっていた」

 そんな時、まだ新兵だった老人は、”魔の入口”と噂されていた洞窟へ、無謀にもたった一人で突入したのだという。その不気味な口を開いた洞窟に、きっと自らの評価を高める何かがあると信じて。

 ところが、そこで待っていたものとは、彼の期待を嘲笑うような、鬼門と呼ばれる地獄の入口だけだった――。

「……門の前に立ちはだかる魔物を撃退したわしは、その先に希望があるものと信じ、迷うことなく扉を越えてしまったんじゃよ」

 物語の舞台設定こそ違えど、その老人とほぼ同じ展開でここへやってきたシルクたち。

 彼の嘆き苦しむような告白が、彼女たちの不信をかき消して、より信憑性を増大させていった。

 シルクとワンコーは苦渋の表情を向け合う。この右も左もわからない未知なる世界に立ち尽くし、彼女たちは言葉を失ったように茫然自失と化していた。

 この時、押し黙ってしまっている彼女たちを前にして、老人はちょっとした疑問を抱いた。

 鬼門と呼ばれる闇魔界への入口は、邪悪なる魔族が徘徊する殺伐とした異空間のはず。なぜ、そんな危険をはらんだ地へ、こんなかわいらしい少女が訪れる羽目になったのだろうか、と。

「おぬしのような年端もいかない女の子が、どうして鬼門があるところへ行ってしまったのじゃ?」

 少しだけ躊躇いながらも、身の上に起こった事実を包み隠さずに答えていくシルク。

「実はあたしたち、国王であるお父様からの言い付けで、神の洗礼を受けるために、お城の地下にある、あかずの間という封印された部屋を訪ねたんです」

 シルクが淀みなくそう話し終えると、老人はふさふさのひげを弄び、不思議そうに首を捻っていた。

「妙な話じゃな。魔族たちは、なぜそんなところに鬼門を作り出したんじゃろう?」

「えっ? おじい様、そのキモンというのは、魔族が作り出したものなんですか?」

 その通りといった感じで頷く老人は、ここへ誘い込まれた先輩として、知り得る限りの事実を声に乗せる。

 鬼門という存在は本来、そこに固定化されてはおらず、特殊な能力を持つ魔族が自由に作り出したり消し去ったりできるとのこと。

 闇魔界へ人間を迷い込ませるため、各地に張り巡らされたであろう鬼門。この混沌と戦慄が支配する世界で、奴隷のようにこき使うことが魔族の目的と思われていたが、その老人曰く、どうもそれに限ったことではないという。

「それは、どういうことです?」

「闇魔界に迷い込んだ人間は、もちろん、おぬしたちやワシだけではない。他にもたくさんおるが、誰一人として、奴隷みたいに扱われている者はおらんのじゃ。生かさず殺さずで、もがき苦しむ姿を見て楽しんでいるかのように……」

 魔族の思惑が腑に落ちないのか、老人は気難しそうな表情を浮かべるばかりだった。

 一方のシルクも、ここへ誘い込まれたことが偶然ではなく、何か目的があるのではないかと思い、頭の中の片隅にある記憶を手繰り寄せようとしていた。

 考え込んでしまった老若男女の二人。それに痺れを切らしたワンコーが、ここで一番知りたい回答を求めてきた。

「魔族の狙いなんてどうでもいいワン。この世界から抜け出すことはできないのかワン?」

 老人からすぐに明かされたその回答は、ワンコーを失意のどん底に叩き落とすものであった。

「あるわけがなかろう。それができるなら、わしとて、もうとっくに脱出しておるわい」

 すっかり諦め切った老人の顔色が、シルクとワンコーに暗い影を落とす。

 それでも彼女たちは諦め切れない。いや、諦めたくはなかった。

 入口が存在するのなら、きっと出口だって存在するはず。そのポジティブな思考こそ、まだ人生経験の少ない彼女たちの、お粗末過ぎるほどの安直な考え方と言えなくもない。

「おじい様、この岩山の向こうには、いったい何があるのですか?」

「この地のように、暗黒から切り取られた架空の空間がいくつか存在する」

 その空間には、ここへ無作為に取り込まれた複数の人間たちが暮らしており、村や町といったコロニーを形成しているそうだ。

 しかも、人間界とは時間軸は違うが、時は正確なほどに流れているという。つまり、この世界にいる人間は特殊な時の流れで、それ相応の年齢を重ねているとのこと。

 所詮、そのコロニーで生き長らえる者たちの未来は、儚くも、地獄から抜け出せない絶望しかない。訪れるだけ無駄なことだと、老人は悲しげな目でそう諭すしかなかった。

 しかし、シルクのパッチリとした瞳は輝きを失わなかった。

 目の前で仁王立ちしている岩山の先には、自分たちと同じく、人間の住む世界へ帰ることを望む人たちがいる。そこにはきっと、諦めてはいけない希望への光が隠されているかも知れない。

 シルクとワンコーは覚悟を決めたように頷き合う。どうやら、彼女たちの進むべき道が、今ここに決まったようだ。

「おい、おぬしたち、まさか、この岩山を越えていくつもりか!?」

 老人が慌てる形相をする中、シルクたちはクスリと明るく口元を緩める。

「そのまさかです。あたしたち、こんなところで人生を終えたくないですから」

「そうだワン。オイラたちは、お城へ帰るために旅立つことにしたワン」

 そんなシルクたちの前進を、是が非でも踏み止まらせようと奮起する老人。

 ここは死せる者たちの世界。疑似空間同士の狭間には、人間を食い殺してしまう魔物がうろついている。先へ進むこと事態が自殺行為なのだと、彼は怒鳴り声を上げながらそう訴え続けるのだった。

「ご心配無用です。あたしには、これがありますから」

 シルクの右手に握られた名剣は、闇魔界という異世界でも美しく輝いている。

 このパートナーと一緒なら、これからの苦難や困難も乗り越えられる、彼女はそう思ってやまない。もちろん、彼女にとって最高の相棒である、スーパーアニマルのワンコーも一緒だからだ。

 その瞳に宿る不思議な魅力、勇気と知性に満ち溢れている表情、そして、これまでに目にしたこのないほどの自負心。

 しばらくの間、呆然と立ち尽くしていた老人だったが、凛々しい少女の気迫に根負けしたのか、杖を寝かせながら自らも大地に腰を下ろした。

 もう何を言っても無駄だろう。彼は屈服しながら深い嘆息を漏らした。

「地獄から抜け出せる道は、ここには存在しないかも知れぬ。だが、もしかすると、おぬしたちがその道しるべになってくれるやも知れん」

 その囁かれた言葉は、この地で長らく生き続けてきた老人の、期待と希望を託す願いのようでもあった。

 闇魔界に取り込まれてしまった人たちの救世主となるのは、自分のような老いぼれなどではなく、知恵を兼ね備えた勇敢な若者なのであろう、と。

「この岩山を越えると、人々から”破滅の洞門”と呼ばれる地がある。まずはそこへ行くがいいじゃろう」

「おじい様、ありがとうございます」

 シルクは年老いた男性を気遣い、険しい道のりとなっても、ここから一緒に旅立とうと誘いかけた。しかし、彼はそこに根を下ろしたまま、真っ白くなった髪の毛を静かに横に振った。

「もう、わしの人生も長くはない。わしはここに残るよ」

 老人の悲壮なる決意は、シルクの胸に痛々しく突き刺さる。

 彼も人間界へ帰ろうとしなかったわけではない。老体に鞭を打ち、大地や岩の上を這いつくばって、地獄の出口を求めて彷徨い歩いてきた彼。そのボロ雑巾のようにみすぼらしくなった身なりこそが、苦労と努力の年輪と言えなくもなかった。

 全身に長年の傷を背負い、歩くことさえもままならなくなった彼は、辿り着いたこの地で、その波乱万丈な生涯を終えようとしていた。

「おじい様、あたしたちが帰る道を見つけるまで、待っていてください。そうしたら、必ずここまで迎えに来ますから。だから、悲しいことを言わないで」

 この絶望の世界で最初に出会い、これからの行先を説いてくれた生き字引のような存在。

 そんな人をここで無駄死になんてさせない。初めて出会った彼であっても、シルクは咎めるように、最後まで諦めない気持ちを伝えるしかなかった。

 シルクの悲願する志しは、少なくとも、その老人の表情を綻ばせてくれたようだ。

「案ずるでない。わしの後世を、おぬしたちの希望にかけるだけじゃよ。わしはここに根を張って、おぬしたちの明るい未来に祈りを捧げることにしよう」

 そう言いながら、老人はそっと目を閉じる。そして、無になったように瞑想を始めた。

 シルクとワンコーは礼儀正しくお辞儀をすると、その老人に惜しみながらも別れを告げる。またもう一度、この地で遭えることを信じて。

 果たしてシルクとワンコーは、闇魔界という地獄から脱出できるのだろうか?

 この地に迷い込んでしまった人々の心を救い、人間界へと導くことができるのだろうか?

 一人の老人の祈りを背中に感じながら、シルクたちは混沌と戦慄がうごめく暗黒の世界へと旅立つ。それは、一つの新たな伝説の序章でもあった――。

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