第178話 寒貧!示された道!
西北校舎から追い出されたバチョウは、西校舎北部の群雄・チョウロの下に身を寄せた。
しかし、その地で部下のホートクと衝突。自身の至らなさから自暴自棄となった彼女は軍の解散を宣言。一人、校内を
その
「あの男は何者なんだ……」
↓バチョウの画像 https://kakuyomu.jp/users/ITSUKI-TOBE/news/16817330654045479722
金髪
バチョウが少しばかり進むと、男にすぐに追いついた。
ボサボサの頭で異臭を
その様子に周りの者は道を譲ったが、それ以上関わろうとはしなかった。
バチョウは一定の距離を取りつつ、その男を観察すると、ある違和感に気付いた。なるほど、あの男に
「おい、何故そんな歩き方をする?」
バチョウの言葉が聞こえなかったのか、カンピンは構わずヒョコヒョコと歩き続けた。バチョウは彼の肩を
「あ、あー……」
男は目も合わせず、返事ともつかない小声を発した。
「お前は何を隠している」
まともに返事をしようとしない男・カンピンに、バチョウは再度尋ねた。
「お前はまるで足を痛めたような歩き方をしている。
だが、アタシの目は誤魔化せない。その足取りは重心を意識したものだ。一見、転びそうで決して転ばぬように計算されている。
それにお前の悪臭は風呂に入らぬ者の臭いとかすかに違う。荒くれの部下が百人もいれば中には不衛生な者もいる。だからわかる。それは人工的な臭いだ」
バチョウの指摘を受けた男の目が一瞬ドキリとしたように見えた。だが、それは一瞬の出来事で、何事もないかのように彼は再び「あー」と
しかし、バチョウは彼を逃さず、さらに話し続けた。
「アタシがいた
だが、その中にも勉強が出来る者はいた。そいつはあらゆる古典に精通し、教師さえも一目置いた。
確か、その男の名は……セキトクリン……!」
バチョウがその名を発すると、一瞬、男の
「
チョウロがどうやら行方を探しているとかで、アタシも名を聞いていた。お前は何か知っているか?」
「何も……」
問われた男は初めてちゃんとした言葉を発した。
「その様子、やはり何か知っているな。
いや、お前がセキトクリンなのではないか?」
「知らん……何も知らん……」
男はバチョウの手を振り払うと、逃げるように走り出した。それは先ほどまでのヒョコヒョコ歩きが嘘のような健脚ぶりであった。だが、相手はバチョウだ。苦も無く彼に追いついた。
「逃げるな。何もチョウロに差し出そうというわけではない。
ただ、話を聞きたいだけだ!」
「私はセキトクリンなる者を知らない。
だが、もしあなたがセキトクリンに遭ったとして何がしたいのか?」
先ほどまでの
「何がしたいかだと?
……うーむ、わからん。
だが、それ以上にアタシはアタシがわからない。だから、賢者の知恵を借りたいのかもしれない」
「わからぬとは何がだ?」
セイトクリンと思わしき男は再度バチョウに問う。それまでの男の
それに対してバチョウはこれまでの身の上を語って聞かせた。
「かくかくしかじかというわけだ。
アタシは全てが間違っていたのか?
アタシはこれからどうすれば良いのか?」
バチョウはこの正体も定かではない男に自身の疑問を尋ねた。部下は近いからこそ尋ねにくい。ついホートクに尋ねてしまったが、結局、喧嘩別れになってしまった。もう、バタイらには尋ねられない。
今、眼の前にいる男は無関係であるからこそ、バチョウは素直に尋ねることが出来た。
バチョウの問いに対して、男はしばしの
「……私は賢者ではない。だから正解はわからない。
それに私とあなたの生き方はまるで違う。
あなたは全てを手に入れようとして、全てを失ってしまった。私は全てを捨て去ることで、何一つ失わずに済んでいる。
真反対の者に何を聞く」
男の言葉に、バチョウは返って食い付いた。
「なるほど、確かに真反対だ。
だからこそ、アタシはお前に
だが、アタシはお前のように全てを捨て去ることはできん。同じような生き方はできんが、真反対のお前の意見を聞きたい。
何故、アタシは戦いに勝てんのだ?」
尋ねるバチョウの目は真剣そのものだ。その瞳の力強さに押され、男はやむなく語り出した。
「あなたが戦いに勝てないのは弱いからでしょう」
「アタシが弱いだと!」
その一言にバチョウはすぐに怒鳴り返す。
だが、男は脅える素振りも見せず、そのまま話し続けた。
「それです。その怒りがあなたの敗因です。
こういう言葉があります。『本当に立派な人は
あなたはその全てに反している。故に弱いのです」
「では、弱々しく、怒りもせず、まともに戦おうともしない、
それが『徳』だというのか!」
男の言葉に納得のいかないバチョウはなおも怒鳴る。しかし、男はその怒りさえ受け入れたような態度で続ける。
「世のことは道より生まれ、徳によって
大きく育てるものが『徳』なのです。
そして、育てていながら、自分のものともせず、
「また新しい言葉を出すな!
『
「『玄』とは有るようで無く、無いようで全てを表すものです。そのような『徳』を『
「お前の話しはまるでわからん!」
「それで良いのです。わからぬはわかるの第一歩です。
あなたは全てを捨てられぬといった。
しかし、捨ててこそ本当に大事なものがわかることもあります。一度に全てを捨てるのは無理でも、少しずつ整理をしてみるのはどうでしょうか?」
その言葉に、バチョウはふと自身を思い返してみた。自分は全てを手に入れようとした者。それは間違いのない事実であった。
対して男は全てを捨てながら、何一つ失っていないと話した。自分に足りないものをこの男は持っているように思えた。自身について少しわかった気がしたバチョウは、怒りを
「うーむ、お前の言うことはまるでわからん。わからんがわかったような気がする。
お前、アタシの軍師にならないか?」
まるでわからぬ話ではあったが、聞く価値のある言葉と感じたバチョウは、男を自陣に招いた。
だが、男は丁重に断った。
「私はわからぬ話しかできません。
あなたは話のわかる者といるべきでしょう」
それまでわからぬわからぬと言っていたバチョウにとって、その言い分は初めてよくわかる話であった。
「うーむ、お前を無理にでも連れていきたいところだが、お前の言うことも
わかった。ここは
今回は良い話を聞けた。ありがとう」
バチョウは礼を言うと、
カンピンと呼ばれた男はその後ろ姿を見て、ボソリと
「私もまだまだ至らぬな……」
そう言うと男はふらりと
〜〜〜
カンピンと別れたバチョウはバタイらのいる教室へと戻った。
まだ、あの男の言った言葉のほとんどはわからなかったが、それでも多少は晴れやかな気持ちになっていた。
「バチョウ、戻ったのか!
良かった。あのまま戻らないのかと思ったよ!」
学帽に片眼鏡、バンカラマントを羽織ったバチョウの
バチョウは教室をグルリと見回す。バタイら何名かが残ってはいるが、ホートクの姿はどこにもない。
バチョウの視線の動きから察したバタイは、言い
「ホートクは自分の部隊を率いて出ていってしまった。それに同志であったコーセンやテーギンも……。
連れ戻そうか?」
バチョウはバタイからの問いかけに答えるでもなくボソリと
「捨ててこそ本当に大事なものがわかる、か……」
「え?」
バチョウの
「いや、なんでもない。去ってしまった者は仕方がない。追わなくていい」
「そ、そうか」
バチョウの返答にバタイは気持ちの半分、
だが、それと同時にバチョウはかつてほどの意欲を失っているのではないかと残りの半分で不安になった。
〜〜〜
バチョウが再び戻って来た頃、彼女らが寄宿しているチョウロ陣営に武将・ヨーコーが帰還した。
「それで敵将のカクシュンって奴がよ、西校舎は全部リュービのもんだって言って同盟相手の俺たちを無視しやがったんだ。
だから俺たちも戦って、あと一歩のところまで追い詰めたんだが、カクシュンは『たとえ俺が死んでも抵抗続ける』って
俺もこれ以上チョウロ様よりお借りした兵を失っちゃならねぇと思ってやむなく撤退したというわけです」
チョウロ以下、陣営幹部が勢揃いした会議の中、モヒカン頭に革ジャンを着た男・ヨーコーはそう熱弁を振るった。
実のところはカクシュンに
「そうか、カクシュンとはそれほどの
彼の熱弁を聞いてそう答えたのは、見た目は小学生と間違うほどの小柄な体をした、男が見ても惑わされそうになるような目の覚める美少年であった。
彼がこの陣営の主・チョウロである。
この美少年は極めて堅苦しい言葉遣いでヨーコーに言う。
「しかし、西校舎をリュウショウの手より頂戴するのは余の悲願であった。
それをリュービめらに横から奪わるるは無念至極である。
ヨーコーよ、今の倍の兵を与えれば、カクシュンを降し、西校舎の何分の一でも奪い取ることは可能か?」
チョウロの問いにヨーコーは
「い、いえ、リュービ軍と戦うならば俺よりも適任がおります。
バチョウです。彼女は西北を追い出されてから日がな一日ぼーっとしてやがります。
ここいらで仕事をさせるべきかと思います」
「なるほど。確かにバチョウは
しかし、バチョウが
「先にバチョウのために援軍を出して助けたのは俺らです。
次はバチョウが俺らを助けるのが筋ってもんでしょう」
「それもそうだな。
よろしい。バチョウにリュービ討伐を任せよう」
チョウロはバチョウの出兵を決め、ヨーコーはほっと胸をなでおろした。
(良かった、厄介事をバチョウに押し付けることが出来た。
バチョウは武力だけは突出しているが、西北への野心が強すぎる。リュービにぶつけて戦力を減らさなければ我らが奴に振り回されてしまうぞ)
ヨーコーはかつてバチョウへの援軍として西北校舎南部の占領に加担した男であった。彼はバチョウの武勇と失敗を間近で見ていた。あの調子で何度も西北へ出陣されては自分たちが
群雄・チョウロはバチョウにリュービ討伐と西校舎占領を命じた。
「アタシにリュービを討て、か……」
チョウロからの命令を受け取り、バチョウはボソリと
「バチョウ、僕らは戦力が減ったばかりだ。気乗りしないなら断ってもいい」
バタイはそう彼女に忠告したが、バチョウは構わずチョウロの指令を受けた。
「リュービ……アタシの宿敵であるソウソウの最大のライバルと言われる男か……。
セキトクリンの言葉はわからなかったが、弱小ながらソウソウと戦うあの男を見れば、何かわかるかもしれない」
かつて西北を
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次回は4月6日20時頃更新予定です。
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