エルハイミR‐おっさんが異世界転生して美少女に!?‐

さいとう みさき

プロローグ

第1話0‐1理不尽である

【プロローグ】


0-1理不尽である



 俺は窮地に立っていた。



 いや、あり得んだろう?

 だって、映画かドラマでしか見たことのない状況が目の前で起こっているわけだから。



 ここは隣国で大国のとある大都市、上の海と書くところ。三十六歳にして人生初の海外渡航であった。

 仕事だけど。


 そして今何が起こっているかと言うと‥‥‥


 「移動中の駅でテロリストに捕まって人質になっている」


 同行していた現地スタッフ兼通訳は騒動が始まってあっさりとはぐれてしまった。

 言葉も何もわからずだが、いきなり青龍刀で切り殺されたり、拳銃で頭を打ちぬかれている人間がいれば何が起こったか大体見当は付く。

 俺を含めて約二十人くらいの人間が駅のホームのひとところに集められて座らせられている。


 

 冗談ではない、俺はまだ死にたくなぞないぞ!



 そっとテロリストを見ると、頭に小さな白い帽子をかぶりアジアと言うより中東方面の顔つきをしている。

 きっとあれ系の教徒でこの国ではの少数な民族と言う奴だろう。

 ニュースか何かでこの国内では少数なそう言う人たちの散発的な暴動が起こっているというのを聞いた事がある。


 ここで自分は外国人で関係ないとか言って騒ぐと真っ先に見せしめになりそうなので大人しく周りの人間と同じく下を向いて小さくなっている。


 いくら体の大きめな筋肉隆々の男らしい胸毛もちのナイスガイの俺でも、流石に鉄砲にはかなわない。


 早く警察か何かが来てこいつらを取り押さえてほしいもんだ。

 持っている武器も拳銃と青龍刀、鉈のたぐいでそれほど戦闘力は高くないだろう。

 そんなことを思い一刻も早く救助されることを願っていたのだが・・・




 なんだろう、急に周りが静かになり始めた?

 しかもテロリストたちが騒ぎ始めている。

 主犯格の男が拳銃を上に向け発砲しながら大声でわめいている。


 俺を含め、そこに座らせられている人質は一斉にビクッとなり、首を引っ込めてさらに小さくうずくまる。


 恐る恐る周りを盗み見ると、駅の構内にいた他の一般人がいなくなり、代わりに盾を構えた機動隊のような連中が俺たちを囲み始めていた。



 やったっ!きっと救助の警察か何かだろう。

 このまま大人しくやり過ごせば助かりそうだ!



 そう思っていたら俺の隣に座っていた若いにーちゃんが主犯格に首根っこをつかまれ立ち上がらせられる。

 拳銃を首元に突き付けられ、いかにも「何かしたらこいつを撃ち殺すぞ!」みたいなことを叫んでいるっぽい。


 俺は両手で頭を押さえさらに小さくうずくまる。

 冗談じゃないぞ!こんなところで死んでたまるか!



 主犯格の男が叫ぶと同時に銃声が鳴る。

 しかも一回ではなく、複数の音がする。



 うがー!やめてくれ!



 俺の心拍数は急上昇、恐怖のあまり冷や汗がどっと流れ出る。

 と、すぐ近くで主犯格の男が倒れた気配がする。

 「どっ」と鈍い音がしながら米袋か何かが倒れるような感じの音がする。


 ゆっくりと音のした方を盗み見ると案の定、主犯格の男が倒れていて床に赤い液体をにじみ始ませていた。

 きっとスナイパーか何かに狙撃されたのだろう。


 助かった!


 そう思いそっと顔を上げると、主犯格の向こうに横たわるものがある。

 一瞬理解できなかったが、それは紛れもなく先ほど主犯格の男に立たされたあのにーちゃんだ。


 

 巻き込まれて撃たれたのか?



 と、周りからも悲鳴が上がり始めた。

 青龍刀や鉈を持った男たちが人質を立ち上がらせ刃物を突き付けてわめきだした。


 バンッ!バンッ!パンッ!パパッン!!


 銃声が四方八方から鳴り響き、テロリストたちを人質ごと襲う!


 何が起こってるんだ!?

 スナイパーか何かがテロリストだけを撃ってるんじゃないのか!?


 倒れるテロリストと人質。

 

 どう言う事だ!?こいつらテロリストと人質一緒に撃ちやがった!?

 しかも四方八方から!?



 警察の偉いさんと思わしき人物がスピーカーで何か言っている。

 残ったテロリストたちは何かをわめき叫んでいるが、どうやら無視されているようだ。

 

 と、そのうちの一人が変質者の如く衣服を前から開き大声でわめく。


 そいつを見ると、嘘だろ!ダイナマイトやら手榴弾っぽいものを身体に巻き付けてある。

 しかもわめきながらそれを見せつけるかのように俺に近づいてくる。



 待て待てっ!こっちくんな!



 そいつは懐から手榴弾を一つ引き抜き安全弁を外して高々と上に掲げる。

 と、俺と目が合った。

 

 一瞬謝罪するような眼の色をしたかと思うとその手榴弾を警察に放り投げた。


 巻き起こる爆音!爆風!!


 途端に周りから発砲音が鳴りテロリストをハチの巣にする。

 と、同時にテロリストが白く光り、俺はその光に包まれた。


 そして考える暇もなく停電でテレビが消えた時のように俺の意識もブツリッと切れた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 金髪碧眼の可愛らしい美少女が人差し指を立てて真っ赤な髪の毛で碧眼のやはり同じくらいの年の美少女と何か話をしている。





 楽しそうだな。





 って、あれ?


 あの金髪の美少女って俺?





 っと、なにっ?


 赤い髪の美少女が俺の頬に手を当て、いきなり口づけをしてきた!?





 ちょっ、ティアナ待ってくれ!


 うれしいんだけど、その・・・・





◇ ◇ ◇ ◇ ◇




‐眠い‐


 ふと気が付いた。

 えーとなんだっけ?

 何してたんだっけ?

 てか、俺誰だっけ?


 いや、俺は須藤正志すとうまさし、三十六歳独身の漢らしい胸毛をたたえた筋肉隆々のナイスガイ。


 彼女いない歴三十六年だけど、年上の女性にはけっこうモテるんだよな、よく筋肉触って良い~?なんて飲み屋のねーちゃんにも言われるし。


 って、そんなことはどうでもいい。


 なんだっけ?


 えーと、確か俺は仕事で海外行って・・・


 あれ?


 徐々に感覚がはっきりし始めて気づいたけど、体の自由が利かない?

 それどころか目もよく見えない?

 耳は・・・

 一応聞こえてるみたいだけど、なんかわからない言葉が聞こえてくる?

 ああ、そうか、俺あっちの国にいるんだっけ。

 じゃあ、聞こえてくる言葉はこの国のかな?

 

 と、ここであることを思い出す。


 そうだよ!


 そう!


 俺テロリストに捕まってダイナマイトや手榴弾で、人質ごと撃たれて・・・


 あれ?

 もしかして俺巻き込まれて大変なことになってる?

 

 体の自由が利かなくて、目もよく見えなくて、なんか全体的にだるい?

 

 これってやばいのか!?

 まさか死にそうってことか?

 

 い、いや、でもなんか違うぞ?

 なんかいい香りするのが分かる。

 よくよく感じれば手も足もちゃんと感覚はある。

 目も見えないんじゃなくてなんとなく焦点が合わないというか、ぼやけてるだけっぽいぞ?

 

 そうだ、声!

 

 声が出ない?

 い、いやしゃべれない?

 話そうとしても口から出る声は「うう~」とか「ああぁ~」だけ?


 あれ?


 そう言えば歯が無い?

 そう言えば男の象徴の感覚が無い?



 お、落ち着け俺。



 状況を分析しよう。

 

 痛みは無い。

 体の四肢はちゃんとある。

 でも歯が無い。

 息子が無い。

 そんでもって声がちゃんと出ないし目もぼやけててよく見えない。

 身体も動かそうとすれば動くけど思うように動かない。


 そして、よくよく感じてみると布団か何かやわらかいものの上に仰向けで寝かされている。

 

 ・・・


 冷静になっていろいろと気付き始める。

 なんか体も小さくなってないか?


 と言うか、子供?いやもっと小さいぞ。

 赤ん坊くらいか!?


 ・・・

  

 えーと、まさか俺赤ん坊になっているの!?

 しかも息子が無いってことは・・・


 

 に変わっただと!!??



  

 !!??%%##!

 ま、マジか!?

 生まれ変わっただと!?

 しかも、お、女の子だと!??


 うがーっ!


 ちょっと待て!

 嘘だろおいっ!?

 冗談じゃないぞ!!

 そんな馬鹿なっ!

 やめてよしてっ!



 事態についていけず騒ぎ始める俺。

 しかし騒ごうが、暴れようが口から出る声はあからさまに赤子の泣き声そのものである。

 なんとも言われない感覚が襲い、更に大騒ぎするが赤子が大泣き始めただけの状態となってしまう。



 うそぉ!俺死んじゃって女の子に生まれ変わっちゃったってのかぁ!?


 

 パニックが続く俺をいきなりふわりとした浮遊感が襲う。

 一瞬驚いたものの、すぐに抱き上げられたと言う事に気付く。


 優しい女性の声が聞こえるが何言ってるかさっぱりわからん。

 しかし、抱き上げられることによってなんとなく不安感がやわらげられ、赤子の大泣きがやむ。


 なんなんだろうこの感じ、懐かしく温かい、そして急に眠気が襲い始める。




 俺、どうなっちゃうんだろう・・・



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る