カラヴィンカの祝福

鍋島小骨

第1話 伝承

 天唱鳥カラヴィンカは元、天に住まいする神族の一だったと伝わる。

 虹をまとう大きな翼を持った姿で、妙なる声でさえずり、天の祝福を与え歌う。

 その姿と声のあまりの美しさに惚れ込んだ人間が、ある天唱鳥カラヴィンカの翼の一部を切った。二度と飛べなくなった彼女はその人間の伴侶となり、やがて子を産んだ。

 地上に住み始めた彼女たち一族は声で祝福をもたらす翼人としてあがめられ、ついには人のおさに見初められる者が現れる。

 しかし、天唱鳥カラヴィンカは本来、女ばかりが生まれる種族。そこで、生まれた姫が長じるとその伴侶を探して迎えるようになった。天唱鳥カラヴィンカの力をもってすれば、名を呼ぶだけでその者は従い、その声で願って聞かせれば人を率いるようになるという。


 翼ある姫に名を呼ばれた者が王になる。

 天唱鳥カラヴィンカは天意を伝えて王を選ぶ天の遣い。

 かつてそのようにして国は生まれ、広がり、代を重ねた。



 遠い昔の、神話時代の物語だ。

 今では、翼ある娘がこの世にいるなどと信じる者はない。

 混血が進んでもはや天唱鳥カラヴィンカの力が薄れたのだとも言い、また、翼や祝福の歌などは最初から誇張されたおとぎばなしだったのだとも言う。

 本当に祝福の力を秘めた声と翼を持つ姫などいないのだが、国は今でもそうした神話的な形式で王を選ぶ儀式を守っている、それだけのことだと言われるようになった時代に、しかし、おれたちは生きていた。


 これは、そうした時代、おれが自分の片翼を見つけた時の話である。



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