第32話 夜明け

 早朝5時。IRAのプラントのヘリポートでは、ヘリコプターがバサバサと音を立てて離陸準備を行っていた。

「これで、さようならになるかもな。」

 リーパーは動きやすい軽装備を身にまとったバラライカのドックタグを首から取った。

「何すんのよ!!」

「ドックタグは回収に行けないからな。もしも帰ってきたら返してやるよ。帰ってきたらな。」

「何言ってんのよ!私は必ず帰って来るわ!シャドウとね!!」

「寝言は寝て言え。バカ女が。」

 リーパーはバラライカにブーイングをする。

「そっちこそ黙ってなさい!マザー・ファッカー!」

 バラライカはリーパーに中指を立てた。16歳の女の子がする行動とはかけ離れている。

「バカ女にはM4A1なんかよりもAKの方が良いんじゃないのか?」

 リーパーはバラライカからM4A1を取り上げてAK74を渡した。銃身を切り詰め、ストックを折りたたみ式にし、グリップを付けたタクティカルモデルである。

「これってアンタのじゃないの?」

「俺のじゃない。ストライク・ブラックの備品のヤツを勝手に持ってきてカスタムした。銃を弄繰り回すのは俺の趣味でな。」

「意外な事が出来るのね、、、。」

「意外とは何だ意外とは。俺は機械いじりとかが好きなんだよ。」

「女の子をいじるのは出来ないくせに、、、プッ!」

「笑いやがったな。今ここで頭に穴を開けてやっても良いんだぜ?痴女ビッチ?」

「今は遠慮しておくわ。代わりにアンタのを切り落としてやってもいいのよ?」

「あぁ、コイツぁ怖ぇ。シャドウに言っておこう。」

「や、止めなさいよっ!バカっ!!」

 バラライカはリーパーの頭や体をボコボコとグーで殴った。リーパーはマスクの下であざ笑う。

「ほら、行って来い。こっちはお前が居ないと楽なんだよ。一生帰って来なくても良いんだぞ?」

「誰がこんな所に喜んで帰って来るか!!」

 バラライカはそう言ってヘリの中に入った。

「あぁ、そうだ。」

 バラライカはヘリの中から顔を出してリーパーを呼んだ。

「あの、、、その、、、本当に帰って来れないかもしれないから、、、、最後に、、その、、、。」

 バラライカの言葉は何故かでつっかえていた。リーパーは不思議そうに聞く。

「ありがとう。私を助けてくれて、、、。」

 そう言って直ぐにヘリの中に閉じこもってしまった。彼女の顔はまるでソビエト連邦国旗の様に真っ赤だった。

 そして、ヘリが離陸する。リーパーはヘリの騒音の中でも彼女の言葉はハッキリと聞こえた。

「だから言ったろ。寝言は寝て言えって。」

 リーパーはバラライカのヘリが行ってしまってからそう呟いた。

「プライス!コリブリ!クソ女は消えた!!俺達の時間だ!!」

 バラライカ1人を乗せたヘリを後ろに、リーパーはコリブリとプライスの元へと歩いていった。



 イングランド某所上空 AM8.00。バラライカの乗ったヘリは、シャドウの発した最後の信号が出た施設の上空にいた。その施設はボロボロになったマンションの様で、入居者は少ない、あるいは居ないと思われた。

『おい、さっさと降りろ。俺まで巻き添えはごめんだ。』

 ヘリのパイロットがバラライカに早く降りるように催促した。

―――チッ、アイツもコイツもうるさいわねぇ、、、。死ねば良いのに。

 そんな事を思いながらバラライカはヘリの扉を開けて、下にラぺリング用のロープを垂らす。

「それじゃあ、いくわ。」

『そうか。お前が地獄に堕ちるように祈るよ。』

 ヘリのパイロットは最後まで機嫌が悪く、最後の言葉もバラライカに対して皮肉たっぷりの送りの言葉だった。

―――アイツも、スティンガーミサイルでヘリごとバラバラになって死ねば良いのに。

 しかし、バラライカは冷静になっていた。ケンカを売られても最後まで買わなかった。

 素早くロープにフックを付け、施設の屋上にラぺリング降下をした。屋上に足を付いてフックを外すと、バラライカを乗せてきたヘリはすぐさまどこかへ行ってしまった。

バラライカはAKの先に銃声を消す事が出来るアタッチメントのサプレッサーをネジの様に取り付けてから、チャージングハンドルを力強く引く。その鈍い金属音は、敵を銃弾でお見舞いする事が出来る発射可能状態になった。

「さぁ、ショータイムよ。」

 彼女は、たった1人での任務を開始した。たった1人の男の為に―――。



 まず、潜入に成功したバラライカは屋上から敵の様子をうかがう。

―――チッ、そう甘くはいかないわね、、、。

 バラライカは施設の廊下に、武装した男達数名を確認した。手にL85A1を持っている。L85A1は、イギリス軍で採用されているブルパップ式のアサルトライフルで、5.56mm×31NATO弾を使用する。ブルパップというのは、マガジンがトリガーよりも後ろにある銃の事を指す。少しだけバレルが長くなる為、弾速が上がる事がメリットだが、整備のしづらさがデメリットである。その為、L85A1の前のモデルのL85は全く使い物にならない事で有名だ。

―――先ずは、1人目、、、。

 バラライカは、廊下を巡回している敵の頭に照準を合わせ、トリガーを引く。

 パシュッ!というサプレッサーでかき消された銃声と、薬莢が排出されて宙を舞う。

 敵の頭に見事弾は当たり、頭から出た血は壁を赤く汚す。

―――次ッ!

 すぐさま2人目の頭に照準を合わせてトリガーを引く。

「ガァァッ!」

―――ヤバいッ!

 顔に弾が当たったものの、完全に死んではいなかった為、すぐさま2発目を撃ち込む。

 2発目にして見事、脳天を貫く。敵を痛みから解放してやる事ができた。

―――もう居ないか、、、?

 バラライカは敵を大体片付けると、屋上のさびた扉から内部に突入する。

―――クソッ!固いッ!

 扉はさびきっていて、なかなか開かない。

「開けッ!バカ野郎!」

 バラライカは乱暴に扉を蹴ると、扉は勢い良く開いた。

「手間掛けさせやがって。」

 バラライカはそこから内部に潜入した。バラライカが蹴った後の扉は、大きくへこんでいた。 


 内部の潜入に成功したバラライカは、敵にバレない様に壁と影を伝って移動していた。

「こちら098(オーナインエイト)。異常無し。」

―――敵かっ!?

 バラライカは巡回中の敵を発見した。しかし、バラライカには気づいておらず、ポケットから出したタバコをふかし始めた。

「ったく、00(ダブルオー)エージェントはこんな中お出かけかよ。畜生!」

 敵はキレながらタバコをふかし、自分のスマートフォンをいじり始めた。

 敵はスマートフォンに夢中で、バラライカにはまだ気づかない。彼女はゆっくりと後ろから近づき、敵の首にナイフを突きつけた。

「動くな。」

「おいおい嘘だろ、、。」

 彼は驚きのあまりスマートフォンを落とした。スマートフォンから聞こえる女性の喘ぎ声、肌を叩く音。彼は紳士のたしなみというヤツをしていたようだ。

「捕虜はどこだ。」

「おぉ、可愛いお姉ちゃんじゃねぇか。一発ヤらせてくれたら考えてやる。」

 バラライカは男のふざけた回答に、ナイフで背中を浅く刺した。血がダラダラと流れる。

「ウゥゥ、、、分かった、、。頼むから殺さないでくれ、、、、。」

 男は怯え始めた。

「もう1度だけ聞く。捕虜はどこだ?」

「ゼ、、007号室だ、、、。これで良いだろ!?」

「あと1つ――、」

 バラライカはそう言うと、男の股を思いきり蹴り上げた。

「ウアァッ!!」

「SMプレイとか、、、、気持ち悪い。最低。」

 そう言い残すと、男の眉間を撃ち抜いた。



 バラライカは階段を降りていき、007号室がある階までたどり着いた。

「敵だ!殺せぇッ!」

「バレた!!」

 ついに、バラライカは巡回の敵にバレてしまった。バラライカは物陰に隠れながら、応戦する。

「増援だ!増援をよこせ!!」

 敵は増援を呼び、敵の数が増えてきた。バラライカの持っている残弾が減り始める。

「敵は1人だ!!攻めるぞ!!」

 敵がバラライカのいる物陰へ近づいていき、バラライカも敵の数の多さに応戦出来ずにいた。



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