第22話 本能

 リーパー達は夕食を食べる為、プラント内の食堂に居た。今日の夕飯はピザだ。

「さて、頂くとするか。」

「おぉ、そうだな。」

 飲み物を用意したリーパーとシャドウはインターフェースとマスクを外した。

「「いただきます。」」

 リーパーとシャドウは日本語でいただきますと言って両手を合わせた。そして、切ってあるピザを手で取って口へ運ぶ。

「おぉ、日本人は礼儀正しいね。」

「本当に日本人ってそうやって食べるんだ~、すごーい!」

「やっぱり日本人ジャポンスキだわ、、、、。」

「、、、。」

 プライス、マイケル、シェラ、そして、一緒のバラライカさえも2人の日本人を物珍しそうに見る。

「ヘッ!そんな面倒な事しないでさっさと食えば良いんだ!日本人は面倒だな!」

 ライナーは相変わらずご機嫌斜めだ。

「あぁ、、そうそう!まだ3人の名前を聞いてなかった!!自己紹介してもらって良いですか?」

 ライナーの面倒な空気を消そうと、シェラがいきなり話題を振る。

「あぁ、俺はリーパー。そんでコイツはシャドウ・ブラッド。」

「シャドウと呼んでくれ。よろしく。」

「私はバラライカ。よ、よろしく。」

 3人は手短かに自己紹介を済ませた。すると、まだ何か知りたいシェラは、

「そうだ!3人はどんな関係なんですか~?」

 ピザをかじりながらリーパー達に聞いた。

「俺とシャドウは昔からの戦友で、バラライカはウクライナで俺が拾ってきた。そんで、今はシャドウとバラライカは―――、」

 リーパーは隣から感じる殺気を瞬時に察した。ナイフがリーパーの脇腹と首筋にスタンバイしている。

「ルームメイト、、って感じか?ハ、ハハハ、、、。」

 リーパーはそう言い換えると、愛想笑いをした。すると、ナイフが自分から遠ざかっていくのが分かった。

―――あぶねぇ、、、。ピザのケチャップを増量するところだった、、、。

 冷や汗が出たリーパーはゴクゴクと水を一気に飲む。

「へ、部屋が一緒なのはアンタのせいでしょ!!バカ!!」

「いきなりウクライナから付いてくるから準備が出来てなかったんだよ!!てか、人を部屋から追い出して1人でいるくせに何言ってんだよ!!」

「だからアンタはバカなのよ!!バカ!!アホ!!」

 シャドウとバラライカは再びケンカを始めた。仲が良いんだか悪いんだか。

「うーん、僕には彼と彼女の関係は理解出来ないよ。」

 マイケルは苦笑いをして頭を傾けた。

「ケンカする程仲が良い。って、事じゃない?」

「あぁ、やっと理解出来たよ。」 

シェラがマイケルにそう答える。

「あぁ、全くその通りだよ。イチャイチャする時は本当にイライラする程ベタベタしてんだけどな。」

 リーパーは2人に中指を立ててそう言った。

「ふーん。そんで、アイツはアイツの事好きな、、、」

 デリカシーの無いライナーの口を3人は一斉に抑える。

「おい隊長さんよぉ、それは言わないお約束ってヤツだぜ。」

「そういうのは本人達の前で言っちゃいけないんだよ。」

「も~、ライナーは本当におバカさんなんだから!ぷんぷん!」

 3人は椅子にライナーを縛り付けて口をガムテープで塞いだ。

「これで良し。」

 リーパーは最後にタオルで目隠しをした。ライナーはジタバタしていたが、足も固定したため身動きが一斉取れないようになってしまった。

「バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ!!」

「バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ!!」

 シャドウとバラライカはリーパー達がライナーを拘束したのも気づかずにまだケンカを続けていた。

「よし、俺が黙らせてくる。」

 リーパーが立ち上がったが、後ろから手を力強く引っ張られた。

「いや、あのままにしてもらえないかな?」

「は?」

 マイケルがシャドウとバラライカをあのままにするように要求した。

「いや~、あれを見てるの楽しいからさ~。」

「?」

 シェラまでそんな事を言い始めた。リーパーは困惑する。

「あれはあれで良いじゃないか。愛の形はよく分からんな。」

 プライスも目を覚ましてピザをかじりながらそう言った。

「お前達はよく分からん連中だ。あのままで良いんだな?もう知らんぞ?」

 リーパーはそう言ってピザを再びかじった。

 そうしていると、端末に着信が来る。

「失礼。」

 リーパーは食堂を出て着信に応じる。

「こちらリーパー。」

『私だ。ルーンだ。』

 相手はネオナチの総統代理、ルーンだった。

「代理閣下でありますか。ハイル・ヒトラー。」

『うむ、ハイル・ヒトラー。』

「閣下、ご用件は?」

『お前達はイギリスでスパイごっこをするのであろう?』

「いや、どちらかと言うとMI6本部の襲撃なんですけど、、、。」

『私が物資を送ると言っただろう?』

「えぇ、確かにおっしゃいましたが。」

『あの中にネオナチが製造、開発した隠密任務用の装備を同梱しておいた。スパイごっこを堪能したまえ。』

「と、言いますと、、、?」

『それは開けてからのお楽しみだ。まぁ、我がナチの科学力を結集させた強力な武器なのだがな!!ハッハッハ!!ドイツの科学は世界一ィィィィイ!!』

 そう叫んで総統代理閣下はブッツリと切った。リーパーは困惑する。

―――果たしてあのお方がまともな物を送ってくるのだろうか?

 以前、総統代理が物資を送った時には武器や弾薬は1つも無く、大量の穀物とドライフルーツ物が送られてきた。恐らく、あのアドルフ・ヒトラーが自称ベジタリアンでナチ党員、いや、全世界に向け『野菜を食え』と言ったからであろう。

「まぁ、良いんだけど、、、。」

 そう言ってリーパーは端末をポーチにしまって食堂に戻った。


 リーパーが食堂に戻ると、異様な光景を目の当たりにした。シャドウとバラライカが2人仲良く一緒にピザを食べていたのだ。

「ど、どうしたんだ一体!?ついにイかれたか!?」

「どうやら仲直りをしたみたいだよ。」

 マイケルはリーパーにそう告げた。

「さっきはゴメン、、、。言い過ぎた。」

「俺こそ、、。ゴメン。悪かった。」

 そう互いに言っていた。


「アイツ俺には謝った事無いぞ。」

「まぁ、ああいう性格ならなおさらだな。食え。お前の為に取っておいたんだ。」

 プライスはリーパーにそう言い、ピザが3切れ乗った皿をリーパーに渡した。

「悪いなプライス。」

「ま、お互いがんばろうぜ。リーパーさんよ。」

 プライスはリーパーの為に椅子も持ってきた。

「悪いな。本当に。」

 リーパーはそう言って椅子に座る。

「お前は俺に良く似ている。リーパー。」

「あぁ、そうか。」

「なぁ、リーパー。お前は何故戦う?」

「俺の様な人間をもう、作りたくないからな。この世界に。」

 そう言って水を1杯飲む。

「何かあったんだろう。過去に。」

 プライスはリーパーは過去に何かあった事を察したらしい。

「あぁ、まぁ色々あった。」

「そうか。でも、何があったかは知らん。しかし、それがトリガーとなってお前の戦争をする運命を作ったのは変わらない。そうだろう。」

「あぁ、そうだな。」

「人間には理性と本能がある。そして、いつもは理性が本能をコントロールしている。でも、本能には逆らえない。だろ?」

「いや、俺は本能は死んでるからな。」

「いや、本能は死なない。お前は異性の事に関しては全く興味が無さそうだが合ってるか?」

「あぁ。まぁ、愛ってモンがよく分からない。」

「でも、性欲。それだけが本能じゃ無い。その他は何か分かるか?」

「睡眠欲と食欲か?」

「そうだ。俺は特に睡眠欲が強いモンでな。よく寝るんだ。」

「あぁ、同感だ。」

「そうだろう。そして、あと1つある。何か分かるか?」

「さぁ。分からないな。」

「残り1つは殺意だ。人を殺すのは人の欲求なんだ。お前も人を殺した時は快感だろう?」

「まぁ、そうだな。でも、敵対しない人間は殺さない。」

「それは、お前の理性が殺意をコントロールしているからだ。人類が何故戦争を捨てられないのか。そんなのは簡単。戦争を超えるほど楽しいゲームは無いんだよ。平和が訪れても人は戦争をしたい。そう思うだろう。」

「俺は敵を殺した時は、世界が自分の思い通りの形になっていくのが面白いんだよ。少しずつだけどな。まぁ、理性があるから人間でいられる。理性が本能をコントロールできなくなった時はそいつは人間では無く人間の形をしたただの生き物になる。」

「まぁ、お前が戦う理由。それが本能なんだろう。理性と本能の両立ってのも大事なんだぜ。たまには本能の行くがままにしてみるのも良い。もちろん、許容範囲内だがな。」

 そして、プライスは立ち上がる。

「俺のつまらない話に付き合ってくれてありがとう。礼を言う。俺はもう眠いから寝るよ。」

 そう言ってプライスはトボトボと歩いて行った。



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