二頁目

 けれどもある日。

 唐突に。

 彼らは心の共有ができなくなってしまいました。

 人々の心は沈黙し。

 沈黙の国には、意味を成さない声があふれかえりました。

 

 この国に、言葉なんてなかったのですから。

 喋る必要が、なかったのですから。

 

(どうしてわかってくれないんだ)

(この人は一体何がしたいの?)

(苦しいのに、悲しいのに、助けてくれる人がいない)

(嫌だ。寂しい。独りぼっちは、嫌だ)

(怖いよ。あの人達は何か企んでるんじゃないの)

(私以外の人は、みんな通じてて、私は、もてあそばれてて……)

(こんなに自分は辛いのに)

(その辛さを誰もわかってくれない)

(助けて)

(おいていかないで)

 

 わけもわからず。

 混乱して、取り乱して。

 恐怖に怯えて、狂って叫んで。

 よろめいて、くるめいて、回って、絡まって、

 わめきながら、涙を流して、落ちてゆく。

 誰もが、不安にまみれ、疑心暗鬼に陥りました。

 

 そんな中で、彼と、彼女は出会い、戸惑い。

 

 泣きだしそうな表情で。

 

 震えながら手を伸ばして。

 

 お互いに、握りあって。

 

 そうして、目を見つめあって。

 

 やっと。

 

 静かに、微笑みあいました。

 

 わずかだけど、伝わる心。

 こんなになっても、私達は、独りじゃない。

 言葉は、要らない。

 

 二人は、幸せな心地になりました。

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