勇者パーティーを引退して 田舎で米と魔王の娘を育てます ~たくさん働いたので 賢者はのんびり暮らしたい~

木野裕喜

序章 賢者は勇者パーティーを抜けたい

 魔王が討伐された。



 長きにわたる魔王軍との戦いの末、勇者一行が、人間たちを勝利に導いたのだ。

 パーティーは、一人を除いて全員が、うら若い女性だったという。


 地母神に愛され、癒しの奇跡を幾度も体現した僧侶は【聖女】と呼ばれた。

 地を砕き、海を裂き、天をく五体を備えた武道家は【拳聖】と呼ばれた。

 異世界の知識を宿し、絶大な魔力を誇った魔法使いは【賢者】と呼ばれた。

 存在自体が光であり希望。伝説の武具を纏いし戦士は【勇者】と呼ばれた。

 彼女たちの強さに比肩する者なし。


 ――だが。

 彼女たちを強者たらしめているのは、個々の能力以上に互いを結ぶ固い絆にあった。


 一人は皆のために。

 皆は一人のために。


 一人の力が仲間の力を何倍にも、何十倍にも引き上げた。その逆もまた然り。

 仲間が一人でも欠けたなら、それすなわちパーティーの死を意味するとまで勇者は語った。

 仲間を心から想う在り方に、人々は憧憬と崇敬の念を込め、彼女たちを英雄と讃えた。


 そして人々は、英雄たちの、さらなる活躍に期待した。

 魔王が討ち果たされたとはいえ、真の平和が訪れたわけではない。結果的に魔王の統制から外れた魔物たちが野に放たれ、猛威を振るうようになってしまったのだ。

 何より魔王軍には、まだ四帝獣と呼ばれる強大な幹部が健在なのである。

 各地に散っていた彼(か)の者たちが決戦の地に集結していたなら、勇者たちは敗北を喫していたとしてもおかしくはなかった。依然として、予断を許さない状況は続く。


 聖女は言った。

「世界中の民を苦しみから解放する日まで、わたくしたちの旅は続きます」


 拳聖は言った。

「最強の格闘家への道は、まだまだ遠い。あたしより強い奴に会いに行く」


 勇者は言った。

「弱きを助けるのは、力を持った者の使命。ボクたちの戦いはこれからだ」


 賢者は言った。

「私パス。魔王討伐までの約束だったし、田舎に引っ込んで米でも作るわ」


 こうして、勇者パーティーは解散した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る